日本の製造業はバブル崩壊後の経済低迷や円高、貿易摩擦などのため業績が悪化し、同時に中国や韓国などの追い上げを受けて国際競争力を失っていきました。特にエレクロトニクス産業ではそれが顕著で、半導体や液晶では世界市場トップだった日本が、その座を韓国企業に取って代わられました。このため、「日本の製造業全体が衰退している」とのイメージが強く残っています。

しかし実態は変わりつつあります。多くの日本企業は苦難を乗り越えるため懸命の努力を続け、競争力を回復させているのです。日本企業が世界の半導体を支える「隠れた強み」を発揮するようになっていることは前回で述べた通りで、今や日本企業は、世界のITを支えている、いや「動かしている」と言っても過言ではありません。

たとえば、アップルは世界中のメーカーから部品や部材を調達してスマホを生産していますが、その調達先企業と事業所を「サプライヤーリスト」として公表しています。そこには、ソニー、パナソニック、村田製作所、日本電産、アルプス電気(現・アルプスアルパイン)、日東電工など、電子部品の分野で技術力に定評のある日本企業の名がズラリと並んでいます。

  • アップルのサプライヤーには日本企業が数多く並ぶ

この中から、いくつかの企業をピックアップしてみました。

ソニー

同社が供給しているのはCMOSイメージセンサーという部品です。これは、カメラのレンズから入った光を電気信号に変換する半導体素子で、スマホのカメラ機能の高度化に不可欠な部品です。ちょうど先日アップルが発表した新型iPhoneではカメラ機能の進化がうたわれているように、イメージセンサーはスマホの戦略的部品と言えます。

CMOSイメージセンサーはスマホ向けのほか、自動車搭載用や監視カメラ向けなどに用途が拡大しており、ソニーは世界市場で50%以上のシェアを握っています。ソニーは近年、数年間にわたって赤字が続くなど業績が低迷していましたが、2018年3月期、2019年3月期の2年連続で過去最高益を達成するなど復活を果たしました。その原動力の一つとなったのがイメージセンサーです。今やソニーにとっては稼ぎ頭となっているのです。

  • ソニーはここ2年で業績を盛り返してきている

アルプス電気

今年1月にアルパインと経営統合し、現在は「アルプスアルパイン」となっています。スマホのカメラ機能に関わる部品では、ピントの自動調節や手振れ補正に使われるアクチュエーターを供給しています。同社はスマホ用アクチュエーター市場では70~80%の世界シェアを占めています。自撮りへの対応など手振れ補正の機能が向上し、アクチュエーターの役割と機能向上はますます重要となっています。

村田製作所

アップルに数多くの部品を供給しているのが村田製作所です。同社は、衝撃を感知するショックセンサー(世界シェア95%)、クロック信号源として使われるセラミック発振子(同75%)など、数多くの重要部品を供給しています。いずれも同社の高い技術力と圧倒的なシェアをアップルが評価した結果でしょう。

このような強みは業績にも表れています。2019年3月期の純利益は42%増の2,069億円となり、過去最高益を更新しました。特に注目されるのは、売上高営業利益率利益率が16.9%に達していることです。上場企業の平均が6.6%(東証)ですから、同社の利益率の高さがわかります。

  • 村田製作所は数多くの部品で世界トップシェアを占める

日本電産

スマホの振動音などに使われる振動モーターをアップルに供給。スマホ向け振動モーターの世界市場ではトップの40%を占めています。同社はもともと精密小型モーターを手がけ、この分野で数多くの企業を買収して成長してきたことで知られています。