前回、「オタク文化」を生かしたコミュニケーションについて簡単に触れましたが、今回はそれを活用して実際に恋愛、結婚へ至った"成功例"を紹介しましょう。
好きになった彼は特撮マニアだった
彼女の名前は久美子さん(仮名、30歳女性)。そしてお相手の名前は正人さん(仮名、27歳男性)。久美子さんは子供の頃、当時流行っていた『美少女戦士セーラームーン』などのアニメに夢中になったことはあるものの、最近のものはまったく見ていませんでした。
そんなある日、最近の特撮ヒーローにハマっている女友達の誘いで、ファンの集まるイベントへ参加することに。そこで出会ったのが正人さんです。久美子さんはひと目会ったときから、彼に好意を抱いていました。
ところが、正人さんは大の特撮マニア。一方の彼女はといえば、特撮ヒーローのことはまったく知らないし、あまり興味もない……という状態でした。それでも、正人さんと仲良くなりたいと思い、どうやって近づけばいいか考えたとき、「特撮好きになればいいんだ!」と直感したそうです。
特撮ファンのイベントに集まる人たちは、興味ある話題について一緒に話せる人を強く求めています。おそらく正人さんも例外ではないでしょう。しかも特撮といえば、最近でこそイケメンヒーローの登場で女性ファンもいるものの、まだまだ男性のファンが圧倒的に多い世界。ということは、ここで特撮の話ができれば、自然に、しかも強力に正人さんと親密になっていけるはず! 久美子さんはそう確信したのです。早速それを実行しようと考えました。
……が、すぐ困ってしまうことになります。特撮作品がたくさんありすぎるのです。
イベントで見た作品の関連シリーズだけでも、過去作品がたくさんありました。それ以外にも、周囲から「これは見るべき!」と言われた作品が無数に(と言っても過言ではないくらい)あったのです。正人さんと同じタイミングで知り合った別の特撮ファンに、「どんな作品を見ればいいの?」と相談しても、その人から送られてきたのは膨大な作品リスト! 彼女は途方に暮れてしまいました。
時間をかけて趣味への理解を深めることが、関係の進展にもつながる
それでも彼女は当初、宿題をこなすかのごとく、膨大な作品リストをひとつひとつクリアしていこうと考えていました。とはいえ、1話30分弱のテレビシリーズでも、1年間放映されれば1シリーズあたり約50話。仕事など他にもやることがありますから、1週間かかっても見終えられないことに気づきます。時間がかかりすぎて、全部なんてとても見られるはずありません。
悩める久美子さんに追い撃ちをかけたのが、正人さんがものすごく奥手だったこと。彼から悪印象は持たれていないだろうと感じていたものの、彼とどうやって関係を深めればいいのか見失いつつありました。正人さんも積極的にアプローチしてこないため、いつまでも友達関係のまま仲が進展しない、もどかしい日々が続きました。
でもここで焦らず、特撮に興味を持ってコツコツと知識を蓄え続けたことで、少しずつ状況が好転していきます。
久美子さんは特撮系のイベントに参加する際、必ず公式サイトやWikipediaなど、さまざまなサイトにアクセスして情報を仕入れていました。そうするうちに、「なるほど、あのとき話していたのはこのことだったんだ」とわかるようになってきました。特撮の世界の「お約束」や楽しみ方のポイントを、少しずつ理解できたのです。
一例を挙げてみましょう。皆さんご存知『仮面ライダー』の場合、1号・2号・V3などのいわゆる"昭和ライダーシリーズ"と、現在放映中の『仮面ライダーウィザード』が14作目になる"平成ライダーシリーズ"に大きく分けられます。これまでに登場した仮面ライダーの数は(数え方にもよりますが)なんと100人を超えています。こういう話を聞くと、「そんなの覚えられるわけない!」と思ってしまう人も多いでしょう。でもすべてのライダー、すべてのシリーズ作品を覚えなくても、話についていける方法があります。
"平成ライダーシリーズ"の場合、おもな特徴として主人公がパワーアップする「フォームチェンジ」と、「複数のライダー登場」が挙げられます。じつはこの共通項を知っているだけで、会話は弾むものなんですよ。
もし知らないライダーの話題を振られても、「最強フォームになるとどんな技が使えるの?」「他にどんなライダーが出てくるの?」と質問してみましょう。相手はきっと喜んで教えてくれるでしょうし、そこからどんどん話題も広がっていくはず。仮面ライダーに詳しくなくても、シリーズの共通項を把握して質問してみることで、「仮面ライダーに興味を持ってくれているんだな」と、相手に安心感のようなものを与えられるのです。
ただし、関係が進展するのを急ぎすぎるあまり、短期間で知識を詰め込もうとするのは絶対NG。きっとどこかでボロが出てしまいますよ。時間をかけてある程度の知識を蓄えながら、相手の男性とゆっくりじっくり付き合っていくことが大切なのです。
特撮が共通の話題となり、2人は結婚へ
久美子さんもまた、「時間をかけてある程度の知識を蓄える」「シリーズの共通項を把握して質問してみる」といった方法を取ることで、正人さんとの仲を深めていくことに成功しました。最初はあまり興味がなかった特撮も、きっかけさえつかめばどんどん面白くなっていきます。特撮がきっかけで新たな人間関係も生まれ、別の特撮ファンから教えてもらった情報が新たな会話のネタとなり、正人さんとのトークも盛り上がる……というように、どんどん好循環が生まれていきました。
そうして2人が付き合い始めて1年が過ぎた頃、出会いのきっかけとなった特撮シリーズの新作発表イベントの帰り道で、正人さんから指輪を渡され、無事にゴールイン。久美子さんにとって最高の結果が訪れたのです。
執筆者プロフィール : 来栖 美憂(くるす みゆう)
文筆家(男性)。ジャンルを問わない媒体で執筆中。近代カルチャーに詳しく、自身でもメイド喫茶などのイベントを企画・参加するなど実践派でもある。『アキバ☆コンフィデンシャル』(長崎出版)など編・著書多数。TwitterID「@mewzou」