8月18日、JR四国と四国4県は鉄道路線存続に向けた「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」を開催した。JR北海道と並び経営環境が厳しいといわれるJR四国。決定的な違いとして、四国4県には鉄道を維持しようという強い意志がある。公共交通を守るための新しい処方に期待したい。
徳島新聞は懇談会の正式名称を「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会 II」と書いている。じつは2011年にも、「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」が開催されていた。参加者は各県知事をはじめ、JR四国の社長・会長、四国運輸局長ほか国の関係者、学識経験者、市民団体、通信社、四国地方交通運輸産業労働組合協議会議長など。座長は四国経済連合会会長が担当した。この下位に、実務者検討会委員会が設置されている。
2011年7月にまとめられた提言は「鉄道の抜本的高速化を進める」と「四国の鉄道ネットワークを維持する」であった。路線の廃止は許容しないという意思が含まれている。
これを継承して、2017年から始まる「懇談会 II」では、各県知事のほか、国や経済団体の関係者、学識経験者ら18人が列席。座長は神戸大大学院教授で日本交通学会会長の正司健一氏が務めた。出席委員の意見は路線維持で一致したという。
JR四国によると、10~20年先を見た場合、自助努力の路線維持は困難。瀬戸大橋を通る対本州輸送に収入の4割超を依存し、瀬戸大橋線以外はすべて赤字。100万人超の大都市がなく、都市圏輸送がない。単線非電化が多い。8の字型ネットワークという非効率な運行形態となっているとのこと。改善策として、便利なダイヤにするためのすれ違い設備の整備などを実施したい。しかし、経営状況的に困難だ。
10~20年後を見据えた議論、ということは、危機的状況の10~20年前から始めるということ。自治体に相談した時点で危機に瀕していたJR北海道とは状況が違う。
JR四国の状況と、危機的状況の先輩といえるJR北海道の環境を比較すると、JR北海道は厳冬という気象条件があるものの、札幌に約190万人の商圏があり、本来はここに副業のチャンスがあった。道内に人口約30万人の函館市、約34万人の旭川市、約17万人の帯広市、約17万人の釧路市などの都市もあり、星状のネットワークを作っている。
JR四国の沿線には、札幌市ほどの商圏がない。高松市は約42万人、松山市は約51万人、徳島市は約26万人、高知市は約34万人で、各県の中心に中堅的な都市がある。ただし、4都市相互間の需要より、瀬戸大橋を渡った岡山市(約72万人)との移動需要のほうが大きい。JR四国の移動需要の重心として、JR北海道の札幌市にあたる都市は四国の外にある岡山市であり、岡山市から4都市に根を張るツリー状のネットワークといえる。
JR四国には都市近郊輸送の弱さという問題もある。高松通勤圏にはことでん(高松琴平電気鉄道)、松山通勤圏には伊予鉄道、高知通勤圏にはとさでん交通がある。おいしいはずの通勤通学輸送を私鉄に取られ、都市間輸送は高速バスが普及するという板挟みだ。
JR四国は区間別平均通過人員(輸送密度)を公表している。前出の社長発言を裏づけるように、瀬戸大橋線(本四備讃線)の児島~宇多津間と高松~多度津間が最も多く、次いで予讃線多度津~観音寺間と観音寺~松山間、高徳線高松~引田間、土讃線高知~須崎間となる。他の路線は国鉄時代にバス転換を推奨された4,000人/日未満となっている。
とくに利用客の少ない路線、平均通過人員が1,000人/日未満の路線は、予讃線の海側を走る通称「愛ある伊予灘線」の向井原~伊予大洲間と、予土線の北宇和島~若井間、牟岐線の阿南~海部間だった。
「愛ある伊予灘線」は、実用面でいえば松山~宇和島間の特急列車が走る内子線経由のバイパス路線ができている。しかし観光列車の成功例である「伊予灘ものがたり」で注目された路線でもあり、JR四国にとっても、愛媛県にとっても、観光資源として重要な位置づけになっているはずだ。
予土線は「予土線3兄弟」こと「海洋堂ホビートレイン」「鉄道ホビートレイン」「しまんトロッコ」で知られる観光路線。そのおかげで、利用者数はわずかながら上昇傾向にある。ただし、観光輸送に力を入れても営業成績に大きく貢献しないという厳しい現実がある。高知新聞の1面下のコラム「小社会」では、内田百閒の鉄道好きを紹介するとともに、この問題に触れて予土線の将来を危惧した。
牟岐線は徳島県でDMV路線として再生させる計画が進んでいる。阿南駅で運行系統を区切り、阿佐海岸鉄道と一体化してDMV路線にする。徳島新聞によると、飯泉知事はDMVの取組みを紹介し、牟岐線の活性化につながると述べたという。
今後の予定として、第2回が2018年第一四半期に開催され、JR四国から最新の路線別収支が示される。第3回は同年夏に予定し、中間とりまとめを行う。その後、2年間にわたって各県の分科会で検証や実証実験などを実施し、2020年に方策をまとめるとのこと。
懇談会は廃線論議とはしないという方針で一致している。上下分離も視野に入るだろう。さらに進んで、オープンアクセスによる複数事業者の乗入れ自由化など、新しいアイデアを試す時間もありそうだ。懇談会の経過を見守り、2020年の提案を待ちたい。