JR東日本の通勤形電車107系が9月に定期運行を終える。報道発表では「『サンドイッチ列車』の愛称でも親しまれた」と紹介され、本誌を含む各メディアもそのまま報じた。しかしネット上では「初耳だ」「誰が言ったの?」との声も見かけた。筆者もそのひとり。

JR東日本高崎支社管内の路線で活躍した通勤形電車107系(100番台)

引退が発表された107系100番台は新前橋電車区に19編成38両が配属され、両毛線・上越線(高崎~水上間)・信越本線(高崎~横川間)・吾妻線で活躍した。ボディカラーはクリーム色を基調に、グリーンの帯2本とピンクの帯1本。なるほど、「サンドイッチ」と言われるとその通りに見える。クリーム色がパンで、ピンクがハム。グリーンはレタス。

コンビニにあるような今風ではなく、国鉄時代から駅弁屋や新幹線車内で売っている庶民的なサンドイッチだ。パンの間にハム1枚だけ。いや待てよ、当時、レタスは入っていなかったはず。ハムだけ、チーズだけのサンドイッチが詰まっていた。しかもマーガリンの味が強かった。レタスが入ったサンドイッチは、コンビニが登場した当時のシンプルなタイプか……。いやいや、そういう話ではない。

問題は「『サンドイッチ列車』の愛称でも親しまれた」ことが本当かどうか。筆者は初耳。Twitterで反応を見ても「知らなかった」の声が多い。ただし、鉄道ファンには浸透していなくても、地元の人々は「サンドイッチ列車」と読んでいたかもしれない。モヤモヤする。はっきりさせよう。JR東日本高崎支社に聞いてみた。

「サンドイッチ列車は、どんな人から呼ばれているのでしょうか」
「いや……とくに……当社が名づけたわけではないということで」
「通学の高校生とか、お子様とか」
「ブログなどではそのように呼ばれていたようです」
「地元紙やミニコミ誌で使われていた愛称とか」
「文献資料はないと思います」
「駅員さんや車掌さんが、お客様の声を聞いたというような」
「そういうことでもないです」

対応してくださった方は元運転士とのこと。彼も乗務中に「サンドイッチ列車」は耳にしていないという。「はい、地元の皆さんは『サンドイッチ列車』と呼んでくださってます!」くらいの答えを期待したけれど、なんだか歯切れが悪い。うむむむ。そうですか。なんだかコレ、野暮なツッコミだったな……。

107系に関するブログを検索しても見当たらず。Twitterで検索すると「ハムサンドって呼んでた」「サンドイッチ車両と呼んでた」、さらに深掘りすると、2011年に「こどもがサンドイッチ列車だと呼んだ、なるほど」というツイートが見つかった。だから「サンドイッチ列車」は実際に呼ばれたことがあるらしい。

しかし、報道資料のように「『サンドイッチ列車』の愛称でも親しまれた」は眉唾のような気がする。鉄道趣味的に「サンドイッチ列車」というと、「A-B-A」という感じで2種類の形式が連結された列車のイメージがある。

なぜ筆者が「サンドイッチ列車」にこだわるかというと、過去の車両愛称の成り立ちに疑問があるからだ。たとえば蒸気機関車。「デゴイチ(D51形)」「シロクニ(C62形)」は型式番号を崩した呼び名として使われたと思う。それでは「貴婦人(C57形)」「高原のポニー(C56形)」は本当にそう呼ばれていただろうか。一部で呼ばれていたかもしれないけれど、SL廃止ブームの頃に新聞記事などで広まり、後付けで定着したような気もする。

鉄道ファンの先輩諸氏は気を悪くするかもしれないけれど、往年の鉄道ファンが名づける車両の愛称は「まっこうくじら(営団地下鉄3000系)」とか「ガイコツ(小田急9000形)」とか、皮肉っぽさが混じる「芸風」があった。「貴婦人」や「ポニー」は愛称として美しすぎる。いまでは鉄道専門誌でも「貴婦人」や「ポニー」と紹介する事例があり、もはや実際には一般的ではなかったかもしれない愛称が既成事実になった感もある。

今回の「サンドイッチ列車」も、本誌を含めてほとんどの新聞やメディアが報道資料そのままに「サンドイッチ列車と呼ばれ親しまれていた」とする内容を書いている。こうしてまた、「107系はサンドイッチ列車と呼ばれた」という既成事実が作られてしまったのではないか。後世の鉄道車両研究家を悩ませる案件だ。たかが愛称と思われるかもしれないけれど、鉄道趣味的には重いテーマだ。

ただ、確かなことは、利用者の誰かが「サンドイッチ列車」と呼び、それをJR東日本高崎支社が「とても気に入っていた」ということ。107系のボディカラーが当時の鉄道車両としては洗練されていた。細い帯の組み合わせは手間もかかるため、珍しかった。

引退記念ツアーの特典グッズとして作られた107系カラーのランチボックスやオリジナルバッグはかわいらしい。それなら、もっと早くから「サンドイッチ列車」の愛称で盛り上げてほしかった。107系をあしらった箱でサンドイッチを売るとか。地元のお店とコラボして「107系パン」を作るとか。

このままでは「サンドイッチ列車」が定着しそうだ。せめて残りわずかな期間でも、「サンドイッチ列車」カラーのサンドイッチを販売するなどで盛り上げたほうがいいと思う。