先週は北陸新幹線の話題が2つ。週明けに東北新幹線からの直通列車が走り、週末は敦賀・大阪間延伸ルートについて国土交通省の発表があった。リニア中央新幹線も着々と進捗する中で、北陸新幹線ルートも興味深い展開になっている。

東北・北陸新幹線直通定期列車は実現するか

11月7・8日、JR東日本とJR西日本は仙台~金沢間を往復する団体臨時列車を運行した。車両は北陸新幹線用のE7系を使い、大宮駅でスイッチバックという珍しい運行だ。本誌既報の通り、JR東日本とJR西日本が連携した「美味しさ五ツ星。北陸新幹線キャンペーン」の目玉企画だった。

乗客は企画旅行の「王道の金沢 加賀料理と五ツ星ランチイベント」コースと「黒部峡谷鉄道トロッコ電車と五ツ星ランチイベント」コース、そして往復とホテル宿泊のみの、いわゆる「ダイナミックパッケージ」の希望者だった。つまり、団体旅行とパッケージ商品の相乗りで団体臨時列車を仕立てたという形式だ。報道によると、参加者は約800人とのこと。E7系の普通車の定員に少し欠けるとはいえ、良い成績といえる。

所要時間は当初の発表通りなら、7日の仙台発金沢行が3時間54分、8日の金沢発仙台行が4時間8分。時事通信の報道では、このような直通列車について「定期運行は課題がある。需要があれば今回同様の団体列車で検討する」という趣旨のJR西日本のコメントを紹介している。しかし将来、定期運行の可能性はあると推察する。

新幹線停車駅で最も乗降客の多い東京駅を経由しない列車で、乗車率9割を超えたという部分に注目したい。今回は珍しいルートの列車に乗れるという旅行好き、鉄道好きの参加も多かったかもしれない。ただ、所要時間が約4時間という数字は絶妙だ。4時間は2地点間の航空機と新幹線のシェアの分かれ目といわれている。

現在、仙台と北陸の航空便は、仙台~金沢(小松)間についてはIBEXエアライン(ANAコードシェア便)が2往復を運行する。機種は70席のCRJ-700だ。所要時間は約60分。直近の空席状況は残席わずかとなっている。ただし1日片道140席である。JAL系列の運行はない。仙台~富山間はANA系列・JAL系列ともに設定なし。2地点間の需要としては、E7系・W7系の940席を埋められない。これはJR西日本の言う「課題」のひとつだろう。

定期運行するためには、逆方向の需要も探る必要がある。今回、東北新幹線にE7系が乗り入れた形になっている。仙台発のために仙台行の回送列車があり、仙台行の列車を北陸新幹線に返すための回送もあった。つまり今回、東北新幹線区間については運行コストが倍になっている。定期運行するためには、この回送列車も営業したい。

仙台~北陸間の2地点間で考えると、需要の問題に突き当たる。しかし、新幹線は航空便と異なり、途中停車駅がある。宇都宮~高崎間は両毛線経由だと約2時間、直通新幹線なら1時間だ。福島・軽井沢・長野・富山の相互間の需要もあるかもしれない。東北新幹線内、北陸新幹線内の乗客のうち、上野・東京に立ち寄らない乗客にも使える。

大宮~東京間は各方面の新幹線が合流して過密ダイヤになっている。増発は難しい。とはいえ、大宮駅始発・終着の東北新幹線や北陸新幹線の需要には懐疑的だ。では、両者をくっつけたらどうだろう。大宮駅折返しの直通列車は、繁忙期の大宮駅発着の臨時列車として、東北新幹線と北陸新幹線の定期列車を補完する列車になりうる。さらに両路線の直通需要も創出する。これは上越新幹線と北陸新幹線にもいえる。新潟~北陸間は上越新幹線と在来線特急「しらゆき」、北陸新幹線経由が早いけれども、新幹線で高崎駅を経由したほうが早く着く時間帯もある。乗換えなし、新幹線で行きたいルートだ。

これが臨時列車として成功すれば、定期列車の実現性も高まりそうだ。今回の仙台~金沢間の団体臨時列車は、新幹線の新たなルートが実現可能であると示した。有意義な列車だ。単なるイベント列車で終わらない予感がある。

敦賀駅以西の延伸は小浜~京都ルートが有力か

ここまでは北陸新幹線の列車が運行経路を東へ延ばす話だ。一方、西方面については路線自体の延伸のニュースがあった。11月11日、国土交通省が北陸新幹線敦賀駅以西の3ルートについて調査結果を発表した。

北陸新幹線の敦賀駅以西については、JR西日本が小浜経由で京都に至り、京都~新大阪間を独自線路として、東海道新幹線に乗り入れない「小浜京都ルート」を提案している。一方、滋賀県の政財界は琵琶湖の東側沿岸を経由して米原駅に接続する「米原ルート」を提案した。京都府は小浜を経由し、さらに西の舞鶴を経由して京都に至り、独自線路として東海道新幹線に乗り入れない「小浜舞鶴京都ルート」を主張している。

北陸新幹線ルートイメージ図(出典 : 国土交通省報道資料)

今年4月、ルート選定の鍵を握る政府与党プロジェクトチームは国土交通省に対し、この3案について所要時分・路線延長・概算事業費・需要見込み等の判断材料を半年程度で調査報告するよう求めた。その結果が「北陸新幹線敦賀・大阪間のルートに係る調査について」だ。この中で、所要時間は「小浜京都ルート」が最短、建設延長と事業費は「小浜舞鶴京都ルート」が最大、利用者数の指標となる輸送密度は「小浜京都ルート」が最大となった。ただし、建設費は距離の短い「米原ルート」が低く、費用対便益、つまり投資効果では「米原ルート」が最大となっている。

この結果を受けて、ほとんどのメディアは「小浜京都ルート有力」と報じた。しかし、京都府は舞鶴経由を堅く主張する。京都府は南北に長く、府内を山脈で分断されているため、切実に南北方向の高速鉄道がほしい。加えて舞鶴から山陰新幹線に接続できるとして、鳥取・島根両県の理解も得たい考えだ。一方、滋賀県は費用対効果を前面に押し立てる。現在、特急「しらさぎ」が走る名古屋~北陸間の需要も取り込めると考えている。

もっとも、京都府案も滋賀県案も説得力に欠ける。舞鶴経由は遠回りだし、米原経由はJR東海が東海道新幹線直通に難色を示し、米原乗換えになりそうだ。鉄道ファンとして新路線は歓迎するから、どれでもいいので早く作ってほしいけれど、「小浜京都ルート」が最適のように思える。

政府与党プロジェクトチームは年内にルートを決定する。衆議院解散総選挙の予測を含み、選挙対策として決定を延期するとの見方もあるけれど、福井新聞によると、福井県選出の衆議院議員で政府与党プロジェクトチームの高木毅委員が「衆院は常在戦場なので、選挙のことを考えて物事を決めることはない」と断言したという。じつに心強い発言だ。

北陸新幹線敦賀駅以西のルート決定は大詰めを迎えている。自治体の要望もかなえたいところだけど、新幹線は国の骨格だ。国土の発展のために、最適なルートが選択されることを期待したい。