11月30日、国土交通省はJR東日本と福島県に鉄道事業を許可した。事業区間は只見線の会津川口~只見間で、2011年の豪雨で被災し、不通となっていた。JR東日本は第二種鉄道事業者、福島県は第三種鉄道事業者となる。JR東日本の第一種鉄道事業は廃止された。いわゆる「上下分離」と呼ばれる方式になり、今後はJR東日本が列車の運行と営業に専念し、福島県が鉄道施設を保有する。運行再開は2022年秋頃を予定している。
只見線は福島県の会津若松駅と新潟県の小出駅を結ぶ路線で、営業距離は135.2km。越後山脈の南側で、福島県側は阿賀野川水系の只見川に沿い、分水嶺を挟んだ新潟県側は信濃川水系の破間川に沿っている。要するに、山間の谷間を走る路線だ。初夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色の美しさが好評で、鉄道ファンや旅行好きからも親しまれている。
■10年間も不通だった
只見線の不通は10年前、2011年にさかのぼる。「只見線全線開通40周年号」が運行された7日後、「平成23年7月豪雨」によって第5・第6・第7只見川橋りょうが流された。路盤流出も発生し、会津坂下~小出間で列車を運行できなくなった。
2011年3月に東日本大震災が起きて約4カ月。三陸沿岸、福島沿岸などの被災と復興については全国的に報じられたが、只見線に関する報道は少なかった。JR東日本にしても、福島県にしても、沿岸地域の復興に注力せざるをえなかっただろう。約1年かけて復旧工事が行われたものの、2012年10月1日に只見~大白川間が復旧して以降、会津川口~只見間のみ取り残され、バス代行としたまま現在に至る。
鉄道を復旧させるか、バスか、三陸のようにBRTか、そんな話も出てこない。当時、筆者がJR東日本に問い合わせると、被災の残骸撤去作業が行われているとのことだった。復旧どころの話ではなく、険しい場所だけに時間がかかる。豪雪地域の冬期、川が増水する夏季は作業ができない。その様子を地域の人々も見ているから、なにも言えない。
2013年5月、JR東日本から「仮にこの区間を復旧するとした場合」について、復旧と将来の洪水に備えた安全対策について、工事費は約85億円、工期は4年以上と発表された。「鉄道での復旧の可否について、総合的に検討を進める」と表明した。只見線の会津川口~只見間はダム専用の貨物線だったこともあり、現在の安全規格に合致していなかった。元通りの復旧は認められず、安全対策費用が上乗せされた。
資料として被害状況、工事の明細が添えられるとともに、只見線の利用者の少なさが指摘されていた。「平均通過人員がJR東日本の路線としては下から2番目」「JR全体でも下から9番目」「只見線全体の利用者は22年間で1/2に減少」「会津川口~只見間は1/4に減少」。また、増収やコストダウンの取組みも添えられた。つまり、「もう鉄道は限界です」と言っているようなものだった。JR東日本は、「鉄道での復旧の可否について、総合的に検討」する意向を示した。
沿線自治体は、それでも鉄道の存続を要望した。只見地域と他の地域を連絡する交通手段は、国道252号と只見線しかない。生活面でも防災面でも、国道が通行止めになると孤立してしまうからだった。「普段使わなくても、国道の代わりとして残したい」ということだろう。JR東日本の意向を理解した上で、要するに金の問題だとして、「福島県只見線復旧基金」を設立した。福島県庁や只見町だけではなく、新潟県庁も公式サイトで基金を呼びかけた。
■復旧と上下分離で合意
2017年3月、福島県の復興推進会議は会津川口~只見間の鉄道を復旧し、上下分離方式で運営すると決定した。この間、復旧費用の地元負担、復旧後の只見線維持のための運行費用補助などが話し合われた。そこではもちろん、巨額の地元負担に対する反対意見もあったという。豪雨被害は沿線地域を含めて死者4名、行方不明2名、家屋の全壊21、半壊4、浸水被害は9,700を超えていた。それでも最終的には、すべての自治体が鉄道復旧で合意した。
上下分離方式は、鉄道の「上」(運行・営業)と「下」(線路設備)を別会社とする方法で、おもに鉄道事業者の負担を軽減する施策として用いられる。只見線の場合、いままでは「上」「下」ともにJR東日本が負担し、赤字だった。しかし今後、「下」が福島県、「上」がJR東日本になる。線路の管理、補修などを福島県が担当するから、JR東日本の負担が減る。JR東日本は福島県に対して線路使用料を支払う一方、運行経費はJR東日本が赤字にならないように減免される。
法律では、鉄道の「上」「下」とも担う場合は第一種鉄道事業、運行のみ担当する場合は第二種鉄道事業、線路施設を保有する会社は第三種鉄道事業として扱われる。これにもとづき、JR東日本は会津川口~只見間の第一種鉄道事業の廃止届を提出し、新たに第二種鉄道事業の届出を実施。福島県も第三種鉄道事業の届出を行った。国土交通省で審査の上、これらの届出に許可が出た。これが11月30日に国土交通省が許可した内容となる。
復旧費用は工法の見直しで約81億円に減額され、そのうち3分の1の27億円をJR東日本が負担する。残りの約54億円は福島県と地元自治体が負担する。もっとも、被災時から寄付を募って積み立てた「只見線復興基金」が約21億円もあったから、残りは約33億円。この見積は2017年当時の金額で、その後は資材・人件費高騰で上乗せされているはずだが、負担割合は変わらない。
■画期的な法改正のきっかけとなった
その後、2018年8月の鉄道軌道整備法改正により、復旧費用の3分の1について国の支援を受けられる見通しになった。それまで「被災路線の復旧に対する補助は経営困難な鉄道会社のみ」だった主旨が、「経営状態によらず、赤字の路線であれば国が復旧費用を支援する」になった。この法改正の議論のきっかけが東日本大震災と只見線だった。
「黒字会社の赤字路線は国の支援が受けられない」という問題は、東日本大震災からの復興でも指摘されていた。三陸鉄道の復旧に対して国の支援が行われる一方、JR東日本の気仙沼線、大船渡線は鉄道で復旧できなかった。山田線沿岸区間は鉄道を要望する沿線自治体とJR東日本のバス転換方針が膠着し、結果としてJR東日本が復旧し、三陸鉄道に譲渡された。
会社が黒字決算であれば、赤字部門があったとしても、企業にとって必要な事業なら黒字部門で補うべき。偏見になるが、企業によっては赤字部門のおかげで利益を減らし、法人税を節税するという考え方もある。それ以上に経営に影響する赤字部門は切り捨てれば良い。民間企業の判断に国は介入しない。
ただし、この考え方を鉄道事業に当てはめると、黒字の鉄道会社は「赤字の鉄道路線に国の支援は得られない、経営にも支障があるから廃止しよう」となってしまう。
このままでは鉄道を復旧できない。そこで、福島県はじめ不通路線のある地域から選出された国会議員などで、鉄道軌道整備法改正について議論された。その結果、法改正に至り、会社が黒字であっても「復旧に要する費用が対象路線の年間収入以上であること」「対象路線が過去3年間赤字であること」「原因となった災害が激甚災害その他これに準ずる特に大規模の災害であること」「長期的な運行の確保に関する計画を策定すること」という条件で国が支援できることになった。
最後の「長期的な運行の確保に関する計画を策定すること」は、国の鉄道に関する補助、支援については定番となっていて、要するに「沿線自治体と協働しなさい。たとえば上下分離方式を採用するような」という意味になる。もうほとんど上下分離を条件にしたようなもの。只見線の会津川口~只見間についても、この法改正を見越して行われたはずだ。2018年8月の法改正も、「2016年度以降に着手した災害復旧に対してもさかのぼって適用する」と附記された。
さて、国費を投じたからには国民の宝。県費を投じたからには県民の宝。自治体の補助を受けるなら地域の宝だ。JR東日本が復旧させたからにはJR東日本の宝だし、鉄道ファンの宝でもある。その美しい景色をぜひ愛でに行こう。不通区間以外の景色も良いので、復旧を待つ必要もない。復旧したらもう一度行けばいい。只見線はイイゾ。