徳島県と高知県を結ぶ阿佐海岸鉄道のDMV(デュアル・モード・ビークル)での運行開始日が2021年12月25日に決まった。2016年にDMVの導入をめざしてから5年越しの実現となる。今年7月の東京オリンピック開催に合わせて運行開始するはずが、コロナ禍の影響で手続きが遅れ、運行開始直前に車輪アームの強度が足りないと発覚したため、開業を延期し、該当部分の改良を実施した。新たに設定した運行開始日は「2021年内」だった。

  • 阿佐海岸鉄道のDMV。鉄道用前輪部分のアームを補強する必要があった

懸案だった車輪アームの改良について、11月4日の技術評価検討会で国土交通省が「問題なし」と確認。これを受けて、「阿佐東線DMV導入協議会」は12月25日の運行開始を決定した。「世界初」の車両は「2021年内」の約束を守り、クリスマスに間に合った。

阿佐海岸鉄道の専務取締役、井原豊喜氏にメールでお祝いを伝えたところ、「ようやく、スタートラインに立てた気持ちです。お待たせをしまして申し訳ございません。ここから、DMVの世界初の挑戦が始まります。徳島・高知の観光資源となれるよう育てて参ります」と返信があった。

■定期便は13往復、当面は要予約

平日は阿波海南文化村~道の駅宍喰温泉間で定期便が13往復、臨時便が2往復。休日は定期便が12往復、臨時便が3往復。定期便のうち1往復は室戸岬方面へ足を伸ばし、海の駅とろむに至る。

  • 甲浦駅のスロープを上がるDMVとモードインターチェンジ(提供 : 阿佐海岸鉄道)

運行ルートは「道路区間~鉄道区間~道路区間」となっている。1本の便でバスモードから鉄道モードへのモードチェンジ、鉄道モードからバスモードのモードチェンジの両方を体験できる。道路と鉄道の境界は阿波海南駅と甲浦駅。阿波海南文化村~道の駅宍喰温泉間の所要時間は35分で、運賃は大人800円・小児400円。日曜日の室戸方面を含めた場合、阿波海南文化村~海の駅とろむ間の所要時間は片道1時間27分になる。

阿波海南文化村から道の駅宍喰温泉まで、全区間通して乗った場合は大人2,400円・小児1,200円。阿佐海岸鉄道には全線乗降り自由のフリーきっぷがない。その代わりとして、徳島~室戸岬~高知間を結ぶ鉄道とバスに乗降り自由な「四国の右下フリーきっぷ」があったものの、現在は阿佐海岸鉄道がバス代行となっているため、休止中のようだ。DMVの室戸方面は1往復しかなく、複数の観光スポットを巡るには路線バスと組み合わせたい。「四国の右下フリーきっぷ」のようなきっぷの販売に期待したい。

DMVは18席で、立客を含めて25名程度しか乗れない。運行開始直後は混雑が予想されるため、一部の便・区間を除いて乗車予約制を採用した。運行開始当初は16席が予約席となり、混雑状況を見て臨機応変に当日販売数を決めるという。ただし、室戸便は全便予約制となる。予約は2カ月前から可能だが、予約受付開始は12月2日12時から、12月25日から2月2日までの分の予約を受け付ける。

運行開始日の12月25日は全便が予約制となり、当日販売は行わない。運行開始日の初便と2便は抽選販売の「DMV運行記念プレミアムチケット」となる。応募方法は後日発表とのこと。予約は高速バス予約サイト「発車オーライネット」で受け付ける。DMVは世界初の実用化で、なおかつ日本初の「バス予約サイトで予約する鉄道車両」ともいえそうだ。

  • 老朽化していた甲浦駅舎もリフォームされた(提供 : 阿佐海岸鉄道)

短距離区間の予約はできない方針で、短距離乗車は車内に空きがある場合に限られる。協議会資料によると、乗車券はDMV車内、阿波海南文化村、宍喰駅、海の駅東洋町、道の駅宍喰温泉で販売するという。「発車オーライネット」の予約操作が困難な人にはこれらの施設で対応するようだ。ここまでが基本方針だが、開業日までに一部変更する場合もあるとのこと。

■車輪アームの改良は4点、長期耐久性の検証は続行

DMVの運行開始が延期された理由は、鉄道モードで使う前輪の可動部「車輪アーム」の溶接箇所について、JIS規格の許容限度を超えた応力が発生したためだった。当連載の第284回「阿佐海岸鉄道DMV運行延期、耐久性を改良 - 事前にわかって良かった」にて、この問題に関して「阿佐海岸鉄道のDMV導入の背景」と合わせて解説しているので、参照していただきたい。

11月4日に国土交通省が発表した技術評価検討会の結果を見ると、車輪アームの改良点として、「車輪アーム本体の板の厚さを3.2mmから4.5mmに増加」「溶接について、一定間隔に断続する仕様から接合部全体を溶接」「溶接部は応力集中を防ぐためなだらかな形状に仕上げる」「応力集中を避けるため、ブラケット(車輪アーム支持)部の端の10mmを溶接禁止とし、車輪アーム内部補強板の溶接部と重複させない」の4つを挙げていた。

これらの改良により、「すべての測定箇所で疲労限度に関する許容応力の範囲内」と確認された。ただし、車輪アーム部については「引き続き技術評価検討会で長期耐久性の検証が必要」としている。そこで営業運転にあたり、「3日周期で目視点検を実施。特に車輪アームについては点検ミラーを用いて詳細な点検を実施する」「90日または走行8,000kmを超えない期間内に、シャシー枠と車輪アームの探傷検査、軸受けゴムの硬度と車輪踏面形状の測定、およびブレーキ類の分解検査」「1年または走行32,000kmを超えない期間内に重要部検査」という3つの条件が付いた。3番目の重要部検査は自動車の車検に相当する。通常の鉄道車両では4年だが、阿佐海岸鉄道のDMVでは1年となっており、慎重な対応といえる。

■「鉄印帳」もスタート、集客と地域の取組みが課題

阿佐海岸鉄道は「第三セクター鉄道等協議会」の加盟会社で、旅好きに人気の「鉄印帳」にも参加している。しかし、「DMVでリニューアルしてから記帳に来てほしい」との思いから、「鉄印」にはDMVがデザインされ、「鉄印帳」の販売や記帳は「DMV運行開始後」の予定とされていた。12月25日から「鉄印帳」も始まる予定で、「鉄印帳」巡りの人々からも注目されるだろう。

ただ、それにしては地元の盛り上がりがうまく発信されていないようで気になる。たとえば、徳島県の海南町観光協会は「世界初本格営業運行! DMVの車窓からフラワーパークを!」と題し、宍喰駅付近に季節に応じた花を植えるプロジェクトを実施している。市民参加型プロジェクトとしてクラウドファンディグを実施しているものの、目標額の70万円に対し、11月13日現在の支援総額は40%の28万円にとどまっている。運行延期で話題性が途切れてしまったようで、心配だ。

高知県側では、海の駅東洋町で飲食メニューを増やしている。鉄道モードとバスモードを再現した「DMVモナカ」や、デュアルモードにちなんで2種類の味を楽しめる「DMVカレー」といった土産品も開発された。駅名標やバス停はサーフボードをあしらったデザインで、これは沿線の海岸が全国のサーファーから認知されているからだという。ひとつひとつの取組みはおもしろいから、今後の盛り上がりに期待したい。

  • 阿波海南駅のモードインターチェンジ、モードチェンジを見学できる(提供 : 阿佐海岸鉄道)

乗車が予約重視となったことで、阿佐海岸鉄道のDMVは「地元の足」と言うより観光要素の強い乗り物となった。もともと定期客はいないし、地元の人々の利用も少なかった。だから観光特化は間違っていない。しかし、甲浦駅は長い階段の上から地上の停留所に変わったし、バスモードでは集落に近いところも走る。当初は観光客でにぎわうとしても、平日やオフシーズンは地域に根ざした交通機関として便利な存在になってほしい。