「幕張ゲートウェイ」にならなくて良かった――。JR東日本は10月29日、京葉線新習志野~海浜幕張間の新駅名を「幕張豊砂」に決定したと発表した。「豊砂」は駅南側の隣接地の地名で、駅の設置に貢献したイオンモールの所在地でもある。駅名公募結果は13位だったが、大きな異論なく受け入れられたようだ。

  • 幕張豊砂駅の位置と地名の豊砂の範囲(地理院地図を加工)

駅名公募といえば、2018年6月に公募開始し、同年12月に決定、発表された高輪ゲートウェイ駅が記憶に新しい。「カタカナ入りで長い」「ゲートウェイの意味がわかりにくい」などと批判され、ネット上で炎上、オンライン署名運動に発展した。JR東日本は「改名せず浸透させたい」と表明し、仮開業から時間が経つにつれて騒動は落ち着いた。しかし、「クソゲー(ム)」「無理ゲー(ム)」と似た語呂の「高ゲー」や、「高ゲ」などと省略する向きがあり、後味が悪い。

ちなみに、京急電鉄も沿線の小中学生を対象に「わがまち駅名募集」を実施した。2018年9月に公募開始、2019年1月に4駅を改名すると発表した。この時は異論が少なかったが、新逗子駅から逗子・葉山駅への駅名変更では、「逗子の駅に葉山の名を付けてほしくない」「いっそ葉山ゲートウェイでいい」などと揶揄(やゆ)され、「高輪ゲートウェイ事件」が蒸し返された。

その痛みも残っていたのか、京葉線の「(仮称)幕張新駅」は当初、公募しない方針だった。しかし、2021年になって「千葉市在住、または千葉市内に通勤通学する人」に限定して公募した。表向きは「地域の人々の声を聞きたい」だったものの、「全国から募集したらネタ票ばかりになってしまう」と危惧したに違いない。しかし、結果としては地元の人々からもネタ票が集まった。「幕張ゲートウェイ」は堂々の3位、得票数は303で、本家「高輪ゲートウェイ」の36件の8倍以上の人気だった。高輪ゲートウェイ駅の公募時と同じく、「公募結果は参考とし、1位に決めるわけではない」としていたから、なおのこと安心してネタ投票ができたかもしれない。

各社の報道によると、「幕張豊砂」の公募順位は13位、得票数は104だったという。NHKが13位までの駅名候補と5位までの得票数を報じている。応募総数は14,715件、駅名は4,371種類あった。

  • 1位 : 幕張新都心 (1,887)
  • 2位 : 新幕張 (482)
  • 3位 : 幕張ゲートウェイ (303)
  • 4位 : 美浜 (289)
  • 5位 : まくはり新都心 (203)
  • 6位 : 豊砂
  • 7位 : 幕張ベイサイド
  • 8位 : 幕張シーサイド
  • 9位 : 湾岸幕張
  • 10位 : 浜田豊砂
  • 11位 : イオンモール幕張
  • 12位 : 幕張マリンタウン
  • 13位 : 幕張豊砂 (104 ※得票数は千葉日報による)

新駅の駅名決定に際し、記者会見でJR東日本千葉支社長は、「地域を代表するものや、わかりやすく親しみやすい駅名かという観点で総合的に判断した」(NHK)と述べたと報じられている。「“幕張”は、利用者への分かりやすさを意識。新駅(改札口側地区)が位置する“豊砂”を加えることで周辺住民に愛着を持ってもらいたい」「幕張新都心だと、海浜幕張駅周辺を連想させ、利用客に誤解を与えやすいという懸念があった」(千葉日報)、「豊砂は将来、豊かになってもらいたいという意味で命名された地名、新しい駅が町全体の豊かな発展に寄与することを願う」(NHK)とのこと。

新駅周辺は幕張新都心の一部ではあるが、厳密には浜田川の西側で、「幕張新都心拡大エリア」と呼ばれる地域にある。幕張新都心といえば幕張メッセのある中心部を連想するから、新駅の駅名が「幕張新都心」「まくはり新都心」では誤解を生みやすい。幕張メッセに行く人が間違って降りてしまうかもしれない。

「新幕張」は「新」に良いイメージがあり、幕張の新開発エリアという意味でも悪くない。「ベイサイド」「シーサイド」はともに「ゲートウェイ」のカタカナを連想する。「幕張マリンタウン」も同様だ。

カタカナ交じりで許される駅名としては、「イオンモール幕張」だろう。駅の事業主体はJR東日本だが、費用負担は6分の1だけ。イオンモールが2分の1、千葉県が6分の1、千葉市が6分の1を拠出している。しかしイオンまたはイオンモールの全額出資ではないし、「みんなの駅」に企業名を被せては反感を生みかねない。

「美浜」「豊砂」「湾岸幕張」「浜田豊砂」「幕張豊砂」は所在地名を採用しているから、どれも異論はなさそうだ。ただし「湾岸幕張」は、隣の海浜幕張と混同しやすそう。「美浜」は所在地の美浜区から。「浜田」は駅の所在地が浜田2丁目にあたるから。しかし浜田駅といえば島根県浜田市の駅が知られている。新駅の改札口を出たところが豊砂なので、「浜田豊砂」も悪くない。

ところで、ここまでの候補を見ると、「豊砂」と「幕張」の頻度が高い。だから「豊砂幕張」あるいは「幕張豊砂」。幕張のほう知名度があるから、幕張を先に。納得できる命名といえる。あえて言えば、「豊砂」単独でも良い。しかし近所の東京都江東区に「新砂」「豊洲」など類似地名がある。やはり「幕張」を付けたほうがわかりやすい。

「幕張豊砂」は漢字4文字、読みで8文字、発音しやすい。新しい駅だけど、命名は保守的。古めかしいというか伝統的。場所がわかりやすい。良い駅名だなと思えば思うほど、どこぞのカタカナ駅名のセンスのなさが悔やまれる。

幕張新駅構想をたどると、始まりは1991(平成3)年。幕張メッセと同時に幕張新都心エリアがまちびらきしたときだ。「幕張新都心拡大エリア」は未開の土地。ここを開発するために、千葉県がJR東日本に新駅設置を要請した。このとき、JR東日本は自治体負担の請願駅として了承した。しかし開発のめどが立たず、この地域は1998(平成10)年から手つかずだった。2000(平成12)年、ようやく米国資本のコストコホールセールが出店したが、もともとマイカー利用者前提の店舗であり、駅の必要はなかった。

そして2013(平成25)年、イオンモール幕張新都心がオープンする。イオングループの本社は幕張新都心の高層ビル「イオンタワー」にあり、イオンモール幕張新都心は自社の威信をかけた旗艦店だった。他地域のイオンモールと同様、無料地域巡回バスを運行し、京成バスと連携した送迎ルートの路線バスもある。それでも駅ができたら便利だし、過去に新駅構想もあった。新駅を見越した出店ともいえる。かくして新駅計画は再起動した。

幕張豊砂駅は2023年春の開業予定で、1日あたり利用者数は3万3,000人を見込む。イオンモール幕張新都心は年間3,000万~3,500万人、1日平均で8万2,191~9万5,890人の来場を見込んで開店した。双方にとってメリットがある駅になる。ショッピングモールが駅に直結していれば、地元の人だけでなく、幕張メッセ等で開催されるイベントへ行くついでに立ち寄ろうかな、という気持ちにもなるだろう。ちなみに、イオンモール幕張新都心には鉄道模型の「ポポンデッタ」も出店している。11月7日まで、「電車と遊ぼう!! ワイワイ鉄道まつり」が開催されるなど、鉄道に関するイベントも実施されているようだ。

幕張豊砂駅はイオンモールがきっかけであり、一蓮托生の間柄といえる。副駅名として「イオンモール前」を入れるくらいの配慮があってもいいと思われる。