愛媛県新幹線導入促進期成同盟会は10月19日、JR四国に四国新幹線導入を求める要望書を手渡した。その翌日、JR西日本にも同様の要望書を手渡している。政府への要望書も7月に手渡し済み。四国新幹線の要望活動としては、2017(平成29)年に設立された「四国新幹線整備促進期成会」が四国の代表として国などに働きかけている。それ以外に四国各県も要望活動を実施しており、愛媛県新幹線導入促進期成同盟会の活動もそのひとつだ。

  • 2014年に提案された四国新幹線の路線図

ちなみに、2020年度は7月と10月に四国新幹線整備促進期成会会長と四国4県の代表者が国土交通省、財務省、自民党本部に要望活動を実施した。それ以外の要望活動は、徳島県が7月と12月、徳島経済同友会が8月、香川県が6月から1月にかけて5回、香川県の自治体が3回、香川経済同友会が1回。愛媛県、愛媛県新幹線導入期成同盟会、愛媛経済同友会、愛媛県商工会議所連合会が1回ずつ。高知県が3回、土佐経済同友会が1回となっている。

その他、四国建設業協会連合会、四国知事会、自民党JR二島経営問題等PT、公明党国土交通部会、自民党四国ブロック両院議員会四国新幹線PTが要望活動を実施した。

2021年度、四国新幹線整備促進期成会の要望活動はまだ実施されていない。緊急事態宣言の影響や内閣改造、衆議院選挙など、政治が落ち着かなかった。様子見しているうちに、要望書を提出するタイミングを見失ってしまったかもしれない。その代わり、愛媛県が頑張った。愛媛県がJR四国とJR西日本に提出した要望書は、ほぼ同じ文面となっている。内容を要約すると、

  • 全国に新幹線の整備が進んでいるが、四国には新幹線がない。地方創生に取り組む中で地域間競争に後れをとっている。
  • JR四国は人口減、高速道路の延伸、疫病によって厳しい経営状態だ。四国新幹線によって抜本的な高速化が必要。
  • 愛媛県はJR松山駅の高架事業を検討中。松山駅に新幹線駅を併設し、南予地域など県内各地のアクセスを向上すれば、愛媛県全域で新幹線の波及効果を得られる。

本文の後に箇条書きで具体的な要望点を上げている。こちらは相手によって異なる。国に対しては、

  1. 令和4年度予算編成について、四国新幹線を整備計画路線にするための法定調査実施を盛り込んでほしい。
  2. JR松山駅の新幹線駅併設。
  3. 在来線の維持改良、災害復旧に掛けた支援の拡充。

JR四国に対しては、1~3ともに「国に対して要望しているので協力してほしい」としている。JR西日本に対しては、JR松山駅の新幹線駅併設を省いた他はJR四国の要望書と同じ。開業時期としては、リニア中央新幹線が新大阪に到達する予定の2037年としている。

四国各方面の新幹線列車が新大阪に乗り入れると、新大阪から四国各県の所要時間は約1.5時間となる。リニア中央新幹線の品川~新大阪間は約1時間の計画だから、東京から四国各県は新大阪乗継ぎで約2.5時間。リニア中央新幹線開業後、東海道新幹線のダイヤに余裕ができれば、東京から四国各県を直行する列車も可能になる。東京~松山間は東京~広島間とほぼ同じ距離であり、愛媛県の期待はここにある。松山駅に直結したい理由も、広島空港が遠いために新幹線の需要が勝っていることを念頭に置いている。

■要望活発化の背景は

四国新幹線の要望が活発になっている背景には、「次こそ四国の番」という思いがある。新幹線は1970(昭和45)年に制定された「全国新幹線鉄道整備法」にもとづき、国土交通大臣が「建設を開始すべき」と告示した路線から着手される。国が調査予算を計上し、路線の基本構想をまとめていく作業だ。

1971(昭和46)年に告示された東北・上越新幹線は開業し、一方で成田新幹線は取りやめという決断が行われた。1972(昭和47)年に告示された九州新幹線(鹿児島ルート)は開業し、北海道新幹線と北陸新幹線は一部開業の上、延伸建設中となっている。九州新幹線(長崎ルート)は2022年に開業する。

四国新幹線と四国横断新幹線は、1973(昭和48)年に告示された11路線に含まれる。ライバルは北海道南回り(室蘭経由)新幹線、羽越新幹線、奥羽新幹線、中央新幹線、北陸・中京新幹線、山陰新幹線、東九州新幹線、九州横断新幹線だ。

つまり、1971(昭和46)年に告示された路線が事業着手され、開業のめどが立ったいま、次の新幹線予算が11路線のどれに配分されるかという状況になっている。このうち、中央新幹線はJR東海が自社で建設すると名乗りを上げた。残り10路線のどれが選ばれるか。沿線にも新幹線に期待する温度に差がある。山陰新幹線や羽越新幹線、奥羽新幹線、東九州新幹線についてはたびたび報道される。四国新幹線・四国横断新幹線はこれらのライバルに勝たなければならない。

四国新幹線整備促進期成会が公開した資料によると、四国各県の人口は減り続けており、経済活性化の手段として「四国に新幹線は必要」と主張する。本州、北海道、九州に新幹線があるというのに四国にはない。これは不公平で、国がめざす「国土の均衡ある発展」にも合致しない。

ただし、新幹線を要望する思いが市民に伝わっていないという危機感がある。そこで四国新幹線整備促進期成会は、昨年からTwitter公式アカウントを開設、今年はYouTube公式チャンネルも開設し、広報に力を入れている。

愛媛県新幹線導入促進期成同盟会も、市民への啓蒙活動として、11月に南海放送YouTubeチャンネルでオンラインイベント「ダーリンハニー吉川正洋&STU48瀧野由美子のそれいけ! 四国新幹線」を開催する。

■要望を繰り返すには新材料が必要

四国新幹線は大阪市を起点とし、徳島市付近、高松市付近、松山市付近を経由して大分市に至る。四国横断新幹線は岡山市を起点とし、高松市に至る。瀬戸大橋の鉄道部は4線分の空間が確保されており、現在は在来線が2線を使っている。残り2線に新幹線を複線で設置できる。淡路島と鳴門市を結ぶ大鳴門橋も新幹線建設に対応済み。これらは鉄道ファンの間でも有名だ。ただし、残念ながらどちらのルートも費用便益比「1」を超えられなかった。

しかし2014(平成26)年、「四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査」で検討されたルート案は、費用便益比で「1」を超えた。

再提案されたルート案は、大阪および大分への海峡越えを保留した。岡山を拠点として高知に至る縦線と、徳島・高松・松山を結ぶ横線を同時につくる。山陽新幹線との直通運転を見込んだ結果となった。開通すると、香川・徳島・松山・高知の県庁所在地間が約1時間で結ばれる。新大阪~香川・徳島・松山・高知は1時間15~30分で結ばれる。

事業費は1.57兆円。経済波及効果は年間169億円で、費用便益比は1.03となった。この数字は2014年以降、ずっと同じだ。これまでの6年間で状況は変わっているはずで、とくにCOVID-19と緊急事態宣言の影響が大きいはず。

状況がかなり変わったところで、2014年の見積は現在も有効だろうか。国土交通省は2017年から「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」を実施しており、単線で新幹線を開業すればコストダウンにつながるとの結果を示した。コストが下がれば費用便益比は上昇する。ただし、いったん単線で作ってしまうと、将来の複線化は大幅な改築費用がかかる。所要時間の変化も小さく、「複線化の費用便益比」は小さくなってしまう。初めから複線で作ったほうが、総事業費は小さく済むだろう。

沖縄県の鉄道建設について、国は毎年の調査を実施し、費用便益比を上げる方法を模索している。鉄道側の費用削減手順は確定し、あとは沿線開発などの材料を見つけて、なんとか費用分析比を上げていこうと頑張っている。

四国新幹線についてはどうか。事業費を下げるだけでなく、新幹線の需要を増やすための方策が各県にあるだろうか。沿線の開発、企業の誘致活動を踏まえてデータを更新したほうがいい。要望を繰り返すなら、毎年、新たな材料を加えていくべきだ。費用便益比が上向きになれば、国も「ご挨拶に応じる」だけでなく、建設に前向きになるだろう。