徳島県と高知県にまたがる第三セクター鉄道、阿佐海岸鉄道のDMV(デュアルモードビークル)計画について、このほどダイヤ案と運賃案が示された。現在のダイヤより減便し、休日は室戸岬方面に延伸する。運賃については、現在の阿佐東線と、JR牟岐線から移管する区間は値上げ。休日に延伸する室戸方面も既存のバスと比べて割高になった。そのため、沿線利用者への割引が検討されるという。世界唯一のDMV路線として、観光利用に特化した枠組みになったといえそうだ。
阿佐海岸鉄道は、徳島県の海部駅と高知県の甲浦駅を結ぶ阿佐東線を運営する第三セクター鉄道。阿佐東線の路線距離は8.5kmと短く、中間駅は宍喰駅のみ。この路線は国鉄時代に室戸半島沿いで計画された阿佐線の一部だった。阿佐線は国鉄の赤字が問題視されたときに工事が中断されたが、路盤建設が終わっていた区間を徳島県と高知県が引き受け、第三セクター鉄道として開業した。徳島県側の海部~甲浦間は阿佐海岸鉄道阿佐東線、高知県側の後免~奈半利間は土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線となった。
阿佐海岸鉄道は利用者数の見込みが少なく、赤字は覚悟の上で設立された。その理由のひとつが、南海トラフ地震に対するライフラインを確保するためだ。この地域に整備された国道55号は市街地に沿う形で沿岸部に作られたため、津波などで被災した場合、地域の交通が遮断されるおそれがある。そこで国鉄の新線に期待したが、建設は中断。せめて作りかけた部分だけでも開業しよう、ということになったようだ。
ただし、赤字覚悟とはいっても、赤字解消の努力は必要。そこで徳島県が注目したしくみがDMVというわけだ。JR北海道が開発したDMVだが、JR北海道では実現しなかった。一方、徳島県は運行コストの削減と「世界唯一の実現」に観光要素を期待し、実現に向けた取組みが進められてきた。すでにDMV車両を3台調達し、路線改良にも着手した。
甲浦駅では、高架駅から車両を地上へ導くためのスロープが建設された。海部駅はスロープ建設が難しかったため、JR四国から牟岐線の一部区間を譲り受け、阿波海南駅でモードチェンジを行う。阿波海南駅の設備工事のため、牟岐線は7月18日から牟岐~海部間を運休とし、バス代行を実施している。また、JR四国は8月11日、牟岐線阿波海南~海部間の鉄道事業廃止を届け出た。
■休日の増便は事実上「増結」に近い運用に
現在の阿佐東線は、平日・休日の区別なく1日16往復の列車を運転している。DMV導入後は平日10往復、休日は13往復+下り片道1本となる。その理由を探るため、徳島県が「第6回阿佐東線DMV導入協議会」の資料として公開した時刻表をもとに、列車ダイヤを作成してみた。
まずは時刻表から。作成した表の黒字が平日の列車、赤字が休日に増便される列車で、休日の1往復のみ、室戸半島の「道の駅とろむ」まで足を伸ばす。この区間内には、「廃校水族館」「ジオパーク」「室戸岬」の観光拠点停留所が設置される予定だが、時刻が発表されていないため省略した。
続いて、時刻表をもとに列車ダイヤを作成した。列車ダイヤの黒線が平日の列車、赤線が休日に増便される列車だ。灰色で現在の阿佐東線・JR牟岐線の列車も重ねてみた。
黒い線に注目すると、単純な往復運転を繰り返している。これで減便の理由が明確になった。赤字を減らすための減便ではなく、車両の運用の結果だった。運行距離が延びたため、車両の往復時間が増えている。したがって、現行ダイヤのような運行頻度は維持できない。DMV車両は3両あり、うち1両は他の車両の故障に備えて待機させる。平日は1両だけで運用可能だが、毎日の点検整備時間を考えると、2両を交代で使う。おそらく15時頃に交代するのではないかと考えられる。
ダイヤ設定にあたっては、JR牟岐線のダイヤを基準に、阿佐東線のダイヤを集約したという印象だ。牟岐線の当該区間は日中、ほぼ2時間間隔で列車が走っていた。15時前後の空白も従来通り。減便で通勤・通学は不便になると心配するかもしれないが、現在の阿佐東線は通学定期と通勤定期の利用者はいないから問題なし。最終列車が18時台と、現在より2時間も繰り上がっているところは英断だろう。利用者がいないのでばっさりと切り捨てた。観光路線に特化するならば、車窓が楽しめない時間の利用者はいないと考えたようだ。
休日の増便も興味深い。他の鉄道で増便といえば、前後の列車と間隔を空けて乗車機会を増やすことが多い。しかしDMV導入後のダイヤでは、定期列車の5分後に続行運転となっている。「休日の増便」と表記したが、事実上は「増結」に近い運用だろう。
海部駅や宍喰駅で行き違い設備を作れば、先行列車との間隔を開けられ、乗車機会を増やせたと思う。しかしこれはできない。国土交通省の「デュアル・モード・ビークルに関する技術評価委員会」は現段階で、「DMV専用線区では単車運行(連結無し)」「線路上で行き違いせず」「閉塞による続行運転」を条件にしているからだ。
作成したダイヤを見ると、列車の運用開始・運用終了はともに「宍喰温泉」となっている。車庫に近い宍喰駅を拠点にしたほうが合理的だが、線路区間途中でのモードチェンジはできない。これも技術評価委員会が、「モードチェンジは線路区間の両端」を条件としている。宍喰温泉停留所は宍喰駅付近の車庫に近いため、車庫から宍喰温泉停留所まで道路を回送する。休日便の阿波海南文化村始発も道路を回送すると思われる。
運賃は100円単位とされ、km単価は鉄道区間が45円、バスモード区間が40円。100円未満の運賃は切り上げとした。初乗り運賃は200円。鉄道区間・バスモード区間ともに値上げされ、たとえば海部~甲浦間の場合、現行運賃280円に対し、DMV導入後の運賃は400円となる。甲浦~室戸岬間は現行の路線バスが1,310円に対し、DMVは1,800円だ。
運行コスト削減を狙ったDMVのはずが、運賃値上げとは矛盾しているような気がする。鉄道区間はDMVの観光要素を見込んだ施策と思われる。現在の地域住民の利用者には負担が大きいため、回数券などの割引が検討されている。バス区間は既存の路線バスへの配慮とDMVの観光的な要素を含んだと考えられる。
JR四国などと協調するフリーきっぷについても、対応を協議するとのこと。室戸半島外周の旅に便利な「四国みぎした55フリーきっぷ」の扱いが気になるところだ。