JR北海道は6月8日、「2019年度 線区別の収支とご利用状況について」という資料を公開した。いくつかの線区で営業損益や輸送密度の改善があった。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、外出自粛や休校が行われた影響で、努力は報われない結果になった。国や自治体の支援も厳しい中、鉄道路線の存続はいままで以上に厳しくなりそうだ。

  • JR北海道の路線図。黒が単独で維持していく線区。緑が単独で維持する線区のうち北海道高速鉄道開発が保有する線区。青は北海道新幹線。紫は並行在来線として経営分離予定の線区。赤はバス転換方針の線区。黄色は鉄道維持に自治体の協力が必要となる線区。茶色は鉄道以外の交通体系について話し合いを行っている線区(地理院地図を加工)

日本経済新聞電子版の6月8日付の記事「JR北海道は6年連続で全区間赤字、赤字は過去最大」によると、JR北海道の2020年3月期の区間別収支は23区間すべて赤字で、同社が区間別収支を公表して以降、6年連続の赤字だという。ただし、傾向としては13区間で収支の改善が見られた。このまま推移すれば、鉄道存続に向けた「アクションプラン」を実行している線区も救われるだろうと思われた。

ところが、北海道では1月28日に1例目となる新型コロナウイルス感染症の感染者が確認され、2月には全道で70名の感染者が確認される事態に。北海道庁は2月28日、「北海道独自の緊急事態宣言」を発表し、道民に週末の外出自粛を呼びかけた。

JR北海道も道内の感染拡大傾向を踏まえ、2月25日に「流氷物語号」の車内イベント中止、2月28日に「SL冬の湿原号」関連イベント中止を発表した。3月11日には、在来線特急列車の減便・減車を発表する。全国規模から1カ月以上も早く、外出自粛と特急列車の減便が始まっていた。そのため、3月末締めの営業成績のうち、約1カ月で大幅に収入減となった。

JR北海道の発表によると、新型コロナウイルス感染症の影響で、鉄道事業において42億円の減収だという。このうち在来線は39億円、新幹線は3億円だった。バス事業、構内売店、駅ビル、ホテルなどの減収額は20億円で、あわせて62億円の減収となった。今年度も4・5月は同様の減収と思われる。5月25日に緊急事態宣言が解除され、6月19日に県境を越える移動自粛も解除されたとはいえ、新型コロナウイルス感染症に対してワクチンや治療薬といった決定的な策がない。収入回復の見通しは立たず、厳しい状況が続く。

今回の業績悪化について、JR北海道の落ち度のない部分が大きい。とはいえ、現実的に業績悪化は進み、なんらかの対応が必要になってくる。同社は2016年11月、運行線区を「当社単独では維持することが困難な線区」(輸送密度200人未満の線区 / 輸送密度200人以上2,000人未満の線区)と「当社単独で維持可能な線区」に分類していたが、「当社単独では維持することが困難な線区」に関して、鉄道路線維持の見直し、他の交通手段への転換が加速するなどの影響がありそうだ。

●輸送密度200人未満の線区

留萌本線深川~留萌間、根室本線富良野~新得間が該当。2015年1月からバス代行輸送を実施している日高本線鵡川~様似間も含め、鉄道以外の持続可能な交通体系について沿線自治体と相談したいとの考えが示されていた。

2019年度、留萌本線深川~留萌間の営業損益は6億6,100万円の赤字で、前年度比マイナス2,100万円。輸送密度は137人/日で、前年度より8人減少した。根室本線富良野~新得間は8億6,300万円の赤字で、前年度比マイナス1億2,900万円。輸送密度は82人/日で、前年度と比べて12人減少している。

バス代行輸送を行っている日高本線鵡川~様似間の営業損益は6億3,300円の赤字。前年度と比べて1億600万円増となったが、これは前年度に鉄道の土砂流出対策工事を実施していたため。輸送密度は104人/日で、前年度より15人減少しており、代行バスで輸送量回復とはならなかった。

●輸送密度200人以上2,000人未満の線区

宗谷本線名寄~稚内間、根室本線滝川~富良野間、根室本線釧路~根室間、室蘭本線沼ノ端~岩見沢間、釧網本線東釧路~網走間、日高本線苫小牧~鵡川間、石北本線新旭川~網走間、富良野線富良野~旭川間が該当。鉄道維持のため、沿線自治体と相談する方針となっている。

北海道庁が策定した「北海道交通政策総合指針の2 鉄道網の展望」では、釧網本線と富良野線、根室本線新得~釧路間について、「路線の維持に最大限努めていく」とされた。日高本線苫小牧~鵡川間は「路線の維持に努めていく」、宗谷本線と石北本線は「地域での協議を踏まえ維持に向けてさらに検討を進める」と区分されている。

ただし、国からは支援の条件として、これらの線区を「あるべき交通体系について検討する」よう求められた。JR北海道は沿線自治体とともに、「利用促進やコスト削減」に取り組むため、線区ごとの「アクションプラン」を策定して取り組んでいる。根室本線については北海道庁に合わせ、富良野~新得間も含む。2020年度までに、2017年度の収支、輸送密度に回復させることが目標となっている。

各地域による取組みの結果、全体的に営業収益と営業費用の改善が見られた。宗谷本線名寄~稚内間と室蘭本線沼ノ端~岩見沢間は前年度と比べて1億円以上改善し、石北本線上川~網走間、富良野線富良野~旭川間、日高本線苫小牧~鵡川間なども改善した。一方、釧網本線東釧路~網走間、石北本線新旭川~上川間は悪化している。

輸送密度は日高本線苫小牧~鵡川間を除き減少した。新型コロナウイルス感染症の影響は全線区にあったから、改善が見られなかった線区はアクションプランの見直しが必要になる。とくに輸送密度の低下は食い止めたい。利用者が減少すれば、公共性の面で存在価値を問われてしまう。しかし、観光列車などは旅客誘致効果があってもコストが上がる。難しい舵取りが求められる。

●「当社単独で維持可能な線区」

札幌圏の4線区、函館本線小樽~札幌間、函館本線札幌~岩見沢間、札沼線桑園~北海道医療大学間、千歳線・室蘭本線白石~苫小牧間は前年度と比べて4億9,500万円の改善となった。宗谷本線旭川~名寄間は通学利用の増加と北海道胆振東部地震からの回復により、営業収益が前年度と比べて200万円増。費用削減効果はさらに大きく、除雪の外注化、橋りょう修繕の減少によって前年度比6,300万円減となった。

北海道新幹線新青森~新函館北斗間も、前年度と比べて営業損益が2億2,700万円の改善となっている。営業収益が下がり、青函トンネルでの作業時間を確保するための列車運休、在来線共用区間の線路修繕や電力ケーブル交換などで修繕費も増えたが、車両の減価償却費が減少したため、線区としての収支は改善された。

ただし、これらの線区以外は前年度よりマイナスとなっている。該当区間は石勝線・根室本線南千歳~帯広間、室蘭本線長万部~東室蘭間、室蘭本線室蘭~苫小牧間、函館本線岩見沢~旭川間、根室本線帯広~釧路間。JR北海道が単独で維持できる線区だとしても、やはりアクションプランのような沿線の利用推進策は必要と思われる。

■返済猶予のために、さらなる施策が必要?

日本経済新聞電子版の6月19日付の記事「JR北海道、鉄道機構に58億円の返済猶予要請」によると、JR北海道は収益環境が悪化しているため、資金繰りとして当座貸越限度額を増額したという。さらに年2回に分けて国から受ける約200億円の公的支援金の前倒し、鉄道・運輸機構から設備投資目的で借りた292億円のうち、2020年度と2021年度の返済分の猶予を求めている。

次の返済期限は9月になっているため、それまでに鉄道・運輸機構と国土交通省、財務省と協議するとのこと。新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた外出自粛は国の要請でもあったため、その影響による企業、事業者の救済制度がある。JR北海道についても同様の救済手段として、返済猶予が認められるかもしれない。

しかし、いままでJR北海道が国の支援策を引き出す際、国から経営改善策について目標や根拠、実績の提示を求められてきた。無条件の支援ではなく、さらなる合理化を求められる可能性もあり、それが鉄道路線や駅の廃止に結びつくかもしれない。いままで以上に心配な状況になってきた。