自然災害によって不通となった鉄道路線が復旧せず、廃止される事例が増えている。そしてまたひとつ、被災路線の鉄道復旧が叶わなかった。JR日田彦山線添田~夜明間(29.2km)に関して、西日本新聞の5月18日付の記事「JR日田彦山線、鉄道復旧を福岡県が断念 東峰村がBRT専用道延伸案容認」にて、福岡県知事が東峰村の村長と村議会議長に対し、鉄道での復旧を断念する考えを伝えたと報じられた。
翌週、5月24日に福岡県知事による説明会が東峰村で行われた。5月26日の夜には、村長による住民報告会が行われている。5月26日付の西日本新聞の記事「『断腸の思い』で東峰村長がBRT容認表明 JR日田彦山線復旧協議」によると、村長は「東峰村だけが鉄道復旧を要求し続けても、現実的に不可能と判断した」と説明したという。
不通区間のうち、添田~彦山間は福岡県添田町、筑前岩屋~宝珠山間は福岡県東峰村、大鶴~夜明間は大分県日田市に属する。このうち、添田町と日田市はBRT転換も視野に入れており、東峰村は最後まで鉄道にこだわった。東峰村がBRT転換を容認したため、添田~夜明間の沿線自治体はすべて「BRT転換容認」で統一される。今後はBRTの路線設定をはじめ、具体的な運行設定などに議題が移るだろう。鉄道を望んだ村民は辛いだろう。鉄道ファンとしても悲しい知らせだった。
■国が支援する「鉄道軌道整備法改正」も適用されず
被災から現在までの経緯をたどってみよう。2017年7月5~6日に発生した「平成29年7月九州北部豪雨」において、大肥川、宝珠山川、本迫川などが増水、氾濫。日田彦山線添田~夜明間は甚大な被害を受け、いまも不通となっている。
JR九州は7月31日に調査結果を公表した。橋りょうの流失、橋脚傾斜、橋りょう変形、土砂流入、盛土流出、軌道流出、斜面崩壊など63カ所の被害が確認され、復旧には相当の時間がかかるとのことだった。この日から一部区間で代行バスの運行が始まり、8月16日には被災した全区間で代行バスが運行されるようになった。その状態で4カ月が経過する。
11月6日、日田彦山線沿線の田川市長、添田町長、香春町長、川崎町長がJR九州へ早期復旧と路線存続の要望書を提出。11月9日、JR九州は復旧に約70億円を見込むとして、沿線自治体に費用分担を求めた。ここまでの経緯は当連載第96回「JR日田彦山線の復旧費用70億円 - 廃止か上下分離か」でも紹介している。その後、4カ月間にわたって表立った動きはなかった。
2018年4月4日、第1回となる日田彦山線復旧会議が行われた。JR九州から被災前の区間の利用状況と被害状況、復旧方法が示され、福岡県と大分県からも河川の改修計画について説明があった。その上で、「鉄道復旧の方策」「復旧後の継続的運行の確保」を課題とする方針となった。7月20日の日田彦山線復旧会議では、両県の河川復旧負担と新たな復旧費用増が説明された。鉄道復旧費用は約56億円に圧縮された。
鉄道軌道整備法改正がほぼ決まり、従来は赤字鉄道事業者のみだった政府の支援が、黒字鉄道事業者にも適用される見通しとなった。日田彦山線の復旧に国の支援を得られる可能性が高まる。ただし、「長期的な運行の確保に関する計画を策定する」ことが条件となる見通しで、地域公共交通活性化再生法の適用を受けるためにも、復旧後の利用促進策が必要。各自治体から利用促進策が提案された。
その後、利用振興策の提案と、鉄道増収の試算が検討された。しかし、自治体の収支改善の試算が年間2,520万円、JR九州の試算では約381万円と、大きな差が生まれた。かたや楽観的すぎ、かたや慎重すぎという見方もできる。いずれにしても、JR九州による収支改善の目標額は1.6億円。これは営業費用のうち地上設備のメンテナンス費用で、目標を達成しても運行経費で約1億円の赤字となる。収支改善策では到底たどり着けない。鉄道軌道整備法による国の支援基準にはならない見通しとなった。
1年後の2019年4月23日に行われた第4回日田彦山線復旧会議において、JR九州から鉄道存続、BRT、代替バス路線整備の3案が提示された。ここで初めてBRTが提案され、その説明に時間が割かれた。速達性では鉄道に、利便性はバスに、BRTは双方の利点に準じるという説明だった。また、初期費用はバスが低く、運行費用はBRTが低い。鉄道はどちらも高い。
●鉄道存続
- 添田~夜明間の平均時間 : 約44分
- 定時性 : 鉄道を基準とする
- 利便性 : 乗車機会が駅に限定される
●BRT転換
- 添田~夜明間の平均時間 : 約49分
- 定時性 : 専用道区間は鉄道と同等の定時性が期待できる
- 利便性 : 鉄道と比べて本数の設定が柔軟にできる。駅以外で乗車機会を提供できる
●代替バス路線整備
- 添田~夜明間の平均時間 : 約69分
- 定時性 : 鉄道と同等の定時性は期待できない
- 利便性 : BRT転換の利便性に加え、小石原地区で乗車機会を提供できる
3つの選択肢と見積が示され、各自治体は持ち帰り、地元説明会を実施して住民の意見をまとめる作業に入った。「黒字のJR九州が負担して復旧すべき」などの意見がある一方で、BRTの利便性に魅力を感じる声もある。総じて、添田町と日田市はBRTやむなし、東峰村は住民アンケートで90%以上が鉄道を望んだ。これ以降、東峰村は署名運動など鉄道存続への独自の取組みも実施した。
■BRT案の内容は悔しくなるほど上出来
そして今年、2月12日に行われた第5回日田彦山線復旧会議で、JR九州からBRTを軸とした具体的な復旧案が提案された。彦山~筑前岩屋間をBRT専用道として代行バスの迂回状態を解消する一方、北の添田~彦山間、南の筑前岩屋~夜明間は生活道路とし、停留所の配置計画も示した。南側は日田駅まで延長する。バリアフリータイプのBRT車両、使いやすいダイヤとバスロケーションシステムを導入する。添田駅では列車とバスが同じホームで乗り換えられる。被害の軽度な鉄道用地の観光活用も提案された。これを見ると、悔しいが鉄道復旧より便利に思える。
今年3月、福岡県議会議員の超党派と経済界で構成される「九州の自立を考える会」が、鉄道復旧とBRTの2軸で復旧方法と地域振興策を考える協議会の設立に向けて動いた。東峰村を視察し、JR九州と意見交換会を実施した後、福岡県知事が東峰村へ出向く。知事が「鉄道復旧を目指したが力及ばず」と謝意を伝え、東峰村側は容認した。
自民党県議団はBRT専用道延伸を含む独自復旧案を示し、県に再考を求めていた。復旧案はJR九州の提案のうち、BRT区間を彦山~宝珠山間とし、東峰村内ほぼ全域をBRTとして定時性と速達性を高めた。知事はこれを東峰村に提案し、理解を求めた。
BRT案は悔しいが良案に思える。地域の役に立ってほしい。バスやBRTにもファンがいる。「便利なBRT」に加え、「楽しいBRT」も演出できれば、観光に訪れる人はいるだろう。鉄道ファンとしては寂しい限りだが、BRTにならない廃線跡の観光利用も気になるところだ。