京成電鉄は4月11日から、「スカイライナー」のうち下り6本・上り6本を青砥駅に停車させている。青砥駅は京成本線と押上線が接続し、押上線は都営浅草線・京急線と相互直通運転を実施している。「当面の間」と但し書きが付いているものの、京成押上線・都営浅草線・京急線沿線の人々にとって、青砥駅から「スカイライナー」に乗り継げるとは朗報だろう。
ご存じの通り、京成電鉄、北総鉄道、芝山鉄道、東京都交通局(都営地下鉄)、京急電鉄の5社局は相互直通運転を実施している。都営浅草線・京急線から成田空港方面については、従来も速達列車が設定されていた。京急線のエアポート快特が都営浅草線内も通過運転を行い、押上駅からアクセス特急となって成田スカイアクセス線を経由し、成田空港駅に至る。
エアポート快特の他にも羽田空港と成田空港を結ぶ列車が設定されているし、横浜・三浦半島方面からもアクセス特急として成田空港駅まで運転される列車がある。アクセス特急の青砥~成田空港間の所要時間は50分前後だ。これに対し、「スカイライナー」の青砥~成田空港間は30分前後。その差は大きい。
所要時間だけでなく、「スカイライナー」は必ず着席できるし、車内は快適で、荷物置場もある。海外旅行者は荷物が多く、通勤車両で他の客と混在すると肩身の狭い思いをする。「スカイライナー」は海外旅行に特化した車内設備だから、青砥駅で「スカイライナー」に乗り継げばほっとひと息つけるはず。利点を総じて、特急料金1,000円(青砥~空港第2ビル・成田空港間)の価値はある。
青砥駅に停車する座席指定列車としては、「スカイライナー」の他に「モーニングライナー」「イブニングライナー」がある。こちらはおもに通勤客向けの列車で、特急料金が420円と安い。ただし、京成本線経由なので所要時間が長い。朝の上り便、夜の下り便があり、青砥駅停車の「スカイライナー」とは逆の方向へ運転されている。つまり、「モーニングライナー」「イブニングライナー」と「スカイライナー」の組み合わせによって、青砥駅と成田空港を結ぶ座席指定列車の運行時間帯が増えたともいえる。
■京急沿線民として「スカイライナー」を熱望していた
古い話で恐縮だが、筆者が京急線沿線に住んでいた頃、成田空港から海外へ行くため、成田空港行の快特に乗車した。この列車は京成線内でエアポート特急となった。羽田空港~成田空港間の列車が設定された直後で、これに乗ってみたいと思った。それが裏目に出て、飛行機に乗り遅れそうになった。これはもちろん筆者が悪い。事前に列車の時刻を調べなかった上に、ぎりぎりの出発だった。
当時は成田スカイアクセス線が開通していなかった。「スカイライナー」と比べると、エアポート特急は遅い。航空会社に連絡した際、JR線の特急「成田エクスプレス」かと聞かれ、「京成の特急だ」と言って絶句された。「京成なのにスカイライナーに乗っていないのか」と言われたような気がした。
どうして筆者は「スカイライナー」に乗らなかったか。京急線沿線なら、品川駅乗換えで「成田エクスプレス」を利用するか、品川駅でJR線、上野駅または日暮里駅で「スカイライナー」に乗り換えるルートが常識といえた。しかし京急線と京成線は線路がつながり、直通列車もある。「なぜ他社線に乗り換えねばならぬか」との思いもあった。それ以来、「青砥駅でスカイライナーに乗れ換えられたらいいのに」と思っていた。
京急線沿線に住み、「成田空港へスカイライナーで行きたい」という人も多いと思う。従来は品川駅からJR線に乗り、上野駅または日暮里駅で「スカイライナー」に乗り換えていたが、青砥駅乗換えという選択肢が増えることで、同一ホームでの乗換え1回で乗車できるようになる。これは本当にありがたい。乗換えのためにコンコースや連絡通路を歩き、階段等を上り下りする必要がなくなる点も含め、検討に値する。
■特急列車の停車駅増加は「諸刃の剣」だが…
「スカイライナー」の青砥駅停車については、新型コロナウイルス感染症との関連を憶測する向きもある。海外渡航自粛、航空便の運休によって「スカイライナー」の利用者が減っている。成田空港はついに滑走路2本のうち1本の運用を停止した。ただし、海外旅行客は減っているものの、成田空港へ通勤する航空関係者、空港関係者がいる。彼らのために密度の低い輸送手段を提供するという京成電鉄の使命感がうかがえる。
その一方で、「スカイライナー」の停車駅を見直す意向もあった。京成電鉄が2019年5月14日に公開した「京成グループ中期経営計画E4プラン(2019-2021年度)」では、「スカイライナー車両1編成の増備、20分間隔運転の実現」を達成した上で、「成田空港利用者の増加を見据えた、輸送力増強の必要性」として、「成田スカイアクセス線の線路容量の拡大、駅の改良によるボトルネックの解消」「成田空港利用者の増加に対応すべく、スカイライナー車両・停車駅等のあり方を検討」と明記されている。
「スカイライナー」のような列車の停車駅増加は、鉄道事業者にとって慎重な案件になる。速達型の特急列車において、基本的なサービスは「所要時間の短縮」である。特別料金を設定する場合、ここに「快適な乗車サービス」も加わる。特急列車の停車駅を増やすと、それだけ所要時間がかかり、基本的なサービスを削ることになる。それでも所要時間を増やす理由は、「集客が増える」からだろう。
停車駅をひとつ増やせば、その駅で乗降りする人にとって便利になる。だからといって停車駅を増やしていくと所要時間が延び、早く目的地に行きたい人にとってサービス低下になる。他の交通手段を選ぶか、格下の特別料金なしの列車に移ってしまう。停車駅増加は「諸刃の剣」といえる。
「スカイライナー」は当初、京成上野駅から成田空港(現・東成田)駅までノンストップで結んだ。1991(平成3)年、成田空港地下への乗入れをきっかけに日暮里駅にも停車。JR線との乗換えを便利にすることで集客を増やした。しかし、2003年に京成成田駅、2006年に京成船橋駅で一部列車が停車するようになる。空港特急として、ライバルである「成田エクスプレス」や空港直行バスに苦戦した様子がうかがえる。
2010年、京成電鉄は成田スカイアクセス線の開業を機に新型車両を投入し、「スカイライナー」を空港特化型の列車に戻した。その結果は順調だった。成田国際空港の調査によると、空港利用者の交通手段のシェアについて、「スカイライナー」は2014年に9%、2016年に14%へと躍進。2018年は13%と1ポイント減だったものの、LCCの増便によって成田空港の利用者は増えていた。その勢いに乗るためにも、「スカイライナー」の青砥駅停車は必要だったと考えられる。
停車駅が増えると所要時間も増える。「スカイライナー」も例外ではなく、上り列車が1~2分の増加となっている。もっとも、飛行機を降りた後の帰路だし、ホテルのチェックイン時刻を変更するくらいだから問題ないだろう。
平日の下り列車は所要時間が変わらない。朝のラッシュ時間帯も都心とは逆方向に運転されるため、ダイヤにゆとりがあったのかもしれない。京成上野駅・日暮里駅から乗る人々にとっては所要時間に変わりなし。この采配は見事だ。ただし、土休日の下り「スカイライナー5号」だけは空港第2ビル駅の到着が9分遅くなり、成田空港駅の到着が8分遅くなっているから要注意だ。
青砥駅から「スカイライナー」に乗り換える人が増えたら、他の「スカイライナー」も青砥駅に停車するかもしれない。いや、ひょっとしたら地下鉄乗入れ対応の専用車両がつくられ、羽田空港・横浜方面から成田空港駅へ直行する「スカイライナー」が誕生するかも……、と妄想した。京急線内発着だから、列車名は「スカイライナー」ではなく、「成田空港ウイング」でどうだろうか。