学校法人立命館と京福電気鉄道が3月13日に連携・協力協定を締結した。これをきっかけとして、京福電気鉄道は北野線の等持院駅を「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」に改称すると発表。3月20日に改称された。同駅は表記17文字、音読数26文字となったため、表記文字数、音読数ともに日本一となった。

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改名の時期が興味深い。最近は全国のダイヤ改正や新路線開業に合わせるなど、ICカード乗車券システムの更改時に改称する駅が多かった。京福電気鉄道の場合は全線均一料金で車内精算のため、独自に駅名を変更しても他社に影響しないという判断だろう。

駅名改称を記念し、京福電気鉄道は「駅名変更記念硬券」を北野白梅町駅窓口で発売した。これはあくまでも記念グッズであり、乗車券ではないという。入場券としたいところだけど、「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」は無人駅のため、「記念硬券」という形になったようだ。その記念硬券は即日完売した。今後はイベント等で再販する場合があるものの、北野白梅町駅で販売する予定はないという。

3月13日に公開された報道資料によると、新駅名の表記17文字については「他に複数駅あり」。富山地方鉄道軌道線(市内電車)の「富山トヨペット本社前(五福末広町)」、ディズニーリゾートラインの「東京ディズニーランド・ステーション」「リゾートゲートウェイ・ステーション」の3駅が17文字だった。

音読文字数は「よみがなの文字」で、「音引き」「拗音(ゃゅょゎ)」「撥音(っ)」「促音(ん)」を数えて記号を省く。前出の3駅は、「とやまとよぺっとほんしゃまえごふくすえひろちょう」が24文字、「とうきょうでぃずにーらんどすてーしょん」は19文字、「りぞーとげーとうぇいすてーしょん」は16文字。これに対し、「とうじいんりつめいかんだいがくきぬがさきゃんぱすまえ」は26文字となった。

改名のきっかけとなった提携の内容は、おもに「学術研究、教育、健康、スポーツ、地域文化伝統等の継承と振興・発展」「地域貢献」「魅力あるまちづくり及び観光振興の推進」「SDGs 推進」「人材の育成」の5項目。具体的には、「学生が制作したまち歩きマップによるウォーキングイベント」「ラッピング電車や車内展示による立命館のSDGsへの取組事例や研究成果、市民向け講座などの紹介」「立命館創始150年・学園創立120周年記念事業と嵐電開業110周年の連携」「インターンシップ・人材交流」などが挙げられた。

「SDGs」は「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、2015年9月に国連で採択された国際社会共通の目標だ。「貧困をなくそう」「質の高い教育をすべての人へ」など、環境問題、経済成長、生きがいなどに関する「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」が掲げられている。地球の一員として、国や教育機関、企業が取り組む目標といえる。

ざっくりと言えば、「京福電気鉄道と立命館が協力して、より良い地域をつくりましょう」ということになる。駅名の改称はその取組みのシンボル、決意表明のようなもの。地域へアピールするために、わかりやすい看板を立てた。日本一長い駅名としたことは、日本全国に宣言するという決意の表れかもしれない。

これに対して、筆者の周囲やネット上では、「駅は衣笠キャンパス前って言うほど近くない」「通学していたけど、バスや自転車利用者が多く、嵐電(京福電鉄)を使う人はほとんどいなかった」との声がある。Google Mapで調べると、駅から立命館大学衣笠キャンパスまで直線距離で約460m。駅に近い南門までは約550mで徒歩7分、正門までは約800mで徒歩10分となった。ちなみに、ある不動産情報サイトでは「駅徒歩5分以内」を「駅近」としている。それを基準にすると少し遠い。

立命館大学の公式サイトでは、等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅から衣笠キャンパスまで徒歩6分と紹介している。ただし、このサイトではJR嵯峨野線(山陰本線)の円町駅・二条駅など周辺各駅からバスで衣笠キャンパス正門まで8~20分のルートも紹介している。バスで来る人が多いという意見も事実だろう。

しかし、筆者はこの改名は悪くないと思う。実際に京福電気鉄道と立命館の関連性が薄いとしても、この改名によって両者の結びつきを印象づけると期待できる。「立命館大学前」で良いではないかとも思ったが、立命館には「衣笠キャンパス」の他に「びわこ・くさつキャンパス」「大阪いばらきキャンパス」「朱雀キャンパス」があり、「立命館大学前」だけでは不親切で、「衣笠キャンパス」の明示は妥当だろう。

■日本一長い駅名、競争の記憶

ところで、筆者は恥ずかしながら、「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」の前、つまり3月19日までの日本一長い駅名が「富山トヨペット本社前(五福末広町)」だったとは知らなかった。同駅は2015年3月14日に「新富山」から改称している。当時の全国紙の新聞記事を検索してみたところ、駅名では4件該当した。しかし、キーワードに「日本一」を含めるとゼロだった。日本一長い駅名としては話題にならなかったようだ。

「富山トヨペット本社前(五福末広町)」とともに、表記文字数で日本一だった「リゾートゲートウェイ・ステーション」「東京ディズニーランド・ステーション」は2001年7月に開業している。当時は一畑電気鉄道(現・一畑電車)の「ルイス・C・ティファニー庭園美術館前」が日本一だったため、話題にならなかった。「ルイス・C・ティファニー庭園美術館前」は2005年5月に「松江イングリッシュガーデン前」に改名されたから、このときに両駅とも日本一長い駅名を宣言できたかもしれない。それでも報道はなし。これは、音読文字数で鹿島臨海鉄道の「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」、南阿蘇鉄道の「南阿蘇水の生まれる里白水高原」(ともに22文字)のほうが長かったからだろう。

日本一長い駅名が話題になった時期といえば、「南阿蘇水の生まれる里白水高原」が開業した1992年が思い出される。その2年前、1990年に開業した「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」より表記文字数が1文字だけ長く、日本一となった。ただし、どちらも駅名としては珍しく、とくに「水の生まれる」という動詞が入ったことで、「日本一になりたいための命名だ」と揶揄(やゆ)もあったと記憶している。「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」についても、同様の揶揄は想定内だろう。

一方、日本一短い駅名は三重県の「津」。ローマ字表記では、「飯井(ii)」「粟生(AO)」など複数の駅がある。強いて言えば、「あ」「い」「う」「え」「お」という駅名を付ければローマ字表記も含めた1位になれるだろうが、短いほうの記録は更新しにくい。それに対して、長いほうはいくらでも言葉を足して作れてしまう。

だから2001年、古江駅が「ルイス・C・ティファニー庭園美術館前」に改称されたとき、話題にはなったものの、筆者は少し呆れた。その後、「ルイス・C・ティファニー庭園美術館」が閉館したため、前述の通り「松江イングリッシュガーデン前」と短くなった。これで「南阿蘇水の生まれる里白水高原」が日本一長い駅名に返り咲いた。ここで筆者の記憶が止まってしまった。

筆者のようなブルートレインブーム世代にとって、日本一長い駅名といえば札幌市電の「西線9条旭山公園通」。1974年に「旭山公園通」から改称され、1990年に「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」が開業するまで日本一だった。さかのぼれば1952年に開業した阪神電気鉄道の「尼崎センタープール前」、その前は1914年に開業した阪神電気鉄道北大阪線(後に廃止)の「天神橋筋六丁目」が日本一だったという説がある。ここまでさかのぼると、とくに日本一を意識したわけではなさそうだ。

「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」は、日本一を意識したとしてもわざとらしさはなく、駅名として違和感がないと思う。ただし、駅名として使いやすいかは疑問だ。長い駅名は呼びにくい。今後も旧駅名の「等持院駅」が通称として使われるのではないかと予想する。