東急、東急電鉄、東急バスなど東急グループは1月15日、「東急線・東急バス サブスクパス」の実証実験を3月1日から開始すると発表した。月額定額制で東急グループの電車・バス乗り放題を必須とし、「しぶそば1日1杯」「109シネマズの映画見放題」「電動自転車&駐輪場」を組み合わせて販売。電車・バス乗り放題だけの設定はない。

  • 「東急線・東急バス サブスクパス」の実証実験が3月からスタート(写真は東急目黒線の新型車両3020系)

たとえば、電車・バス乗り放題に「しぶそば1日1杯」「109シネマズの映画見放題」を組み合わせると3万3,500円になる。この料金設定を高いと考えるか、安いと考えるか。週末に電車とバスを乗り継いで映画鑑賞に出かけ、昼飯にそばでもすすろうか、といった使い方では元を取れそうにない。どのように使えば得か、試しに計算してみた。

■そもそも「サブスク」とは何か?

「東急線・東急バス サブスクパス」の「サブスク」はサブスクリプションの略。「一定期間の利用権」と訳すとわかりやすいだろう。

近年、コンピューターソフトウェアのサービス提供方法として広まっている。ソフトウェアをサブスクリプション契約した場合、月額または年額で使用権を購入したという契約になる。その期間内にバージョンアップした場合も定額料金は同じ。従来はソフトウェアを購入すると、バージョンアップするたびに購入するか否か選択できた。もっとも、ソフトウェアのほとんどは購入ではなく、無期限使用契約である。無期限と言っても、PCに新技術が投入されたり、新バージョンが発売されたりすると古くて使えない。それが期間契約だと、期間中はつねに最新バージョンだ、という考え方である。どちらが得かはそのソフトウェアの使い方、新機能への期待度によって変わる。

サブスクリプション方式の他業種の例として、ビデオレンタル店がある。月額定額料金を払うと同時に●本まで借りられる。ただし、サービス期間内は何度でも手持ちの上限まで交換できる。「同時に4本まで」というサブスクリプション契約の場合、お気に入りの2本は手元に置いて、2本は交換という利用もできる。毎日2本交換すると、1カ月間で約60本を交換できる。もちろんそうした利用を見越した料金設定になっている。

■「東急線・東急バス サブスクパス」料金とサービス内容は

こうしたサブスクリプションサービスは、そのサービスの使用頻度が高い人にとっては得な方法となる。しかし、使用頻度が少ない場合は1回あたりの使用料金が割高になる。鉄道の場合、もともと定期券がサブスクリプションに近い形態だった。きっぷをそのつど買うよりも定期券のほうが割安で、しかも何回乗ってもよい。

  • 東急電鉄の路線網とサブスクリプションサービスの店舗マップ。「しぶそば」はおもに東急線駅構内で展開するけれども、池袋店もサブスクパスの対象だ。映画館の「109シネマズ」は川崎店も対象になる。鉄道周辺に路線網があるバスは省略。電動自転車駐車場は未発表(地理院地図を加工)

「東急線・東急バス サブスクパス」は1カ月単位で契約し、「東急線・東急バス」の乗り放題と「その他サービス」のセット販売となる。「その他サービス」として、「しぶそば(立ち食いそば)」「109シネマズ(映画鑑賞)」「電動自転車+駐輪場貸与」があり、組み合わせ料金は以下の通り。フルセットで3万6,500円になる。

  • 「電車&バス」+「しぶそば」 : 2万3,500円
  • 「電車&バス」+「109シネマズ」 : 3万円
  • 「電車&バス」+「しぶそば」+「109シネマズ」 : 3万3,500円
  • 「電車&バス」+「電動自転車&駐輪場」 : 2万3,000円
  • 「電車」+「電動自転車&駐輪場」 : 1万8,000円
  • 「電車&バス」+「しぶそば」+「電動自転車&駐輪場」 : 2万6,500円
  • 「電車&バス」+「109シネマズ」+「電動自転車&駐輪場」 : 3万3,000円
  • 「電車&バス」+「しぶそば」+「109シネマズ」+「電動自転車&駐輪場」 : 3万6,500円

これらの料金を比較すると、サービス単体の料金がわかる。「電車&バス」「しぶそば」「109シネマズ」の合計額3万3,500円から、「電車&バス」「109シネマズ」の合計額3万円を差し引くと、「しぶそば」は3,500円になる。同様に調べていくと、以下の通りとなった。

  • 「しぶそば」 : 3,500円
  • 「109シネマズ」 : 1万円
  • 「電車&バス」 : 2万円
  • 「電動自転車&駐輪場」 : 3,000円
  • 「電車」 : 1万5,000円

セット料金はこれらの料金を加算しただけで、複数セットで割り引くしくみではないようだ。そこで、それぞれ単体の料金でどれだけ使えば得か調べてみた。

●「しぶそば」

かけそば、または、もりそばが1日1杯無料。それぞれ320円だから、3,500円の元を取るには11日(食)かかる。ちなみに、「しぶそば」は2019年11月から独自に「しぶそば定期券」を同額の月額3,500円で提供している。かけそば、または、もりそばが1日1杯無料。アプリで契約し、アプリにログインするたびにポイントが付く。5ポイントでトッピング無料などの特典がある。「しぶそば」を利用するにしても、サブスクからは外して「しぶそば定期券」の利用をおすすめしたい。

●「109シネマズ」

通常、大人料金は1,900円。1万円の元を取るには6回の鑑賞が必要となる。ただし、1日の上限がないので、1日に2本観ても3本観てもいい。1日3本の「映画漬け」を2日間なら達成しやすそうだ。ちなみに毎日1本観た場合、ファーストデイ、ポイント特典無料などを勘案すると、30日間で4万6,400円になった。これが月額見放題で1万円というから、バーゲン価格と言える。

●「電車&バス」

筆者の場合、自宅からバスでたまプラーザ駅まで行くと1回220円。たまプラーザ駅から「109シネマズ」と「しぶそば」がある二子玉川駅まで片道IC運賃で199円。自宅から二子玉川駅まで往復で838円になる。2万円の元を取るなら24回、12往復でいい。毎週末、土日に映画館へ行けば8日間。あと4日往復すれば達成できる。映画に行く以外の用事で出かければ元を取れそうだ。通勤通学などで利用する人にもおすすめ。もっとも、回数券を活用すればお得に移動できる。東急には「東急線・東急バス 一日乗り放題パス」(1,000円)があり、「1日で沿線を何カ所か巡る×数日」というスタイルならこちらがお得だろう。

深夜バスは差額を支払えば乗車可能。ただし、深夜急行バス(ミッドナイトアロー)、通勤高速バス(TOKYU E-Liner)、羽田空港連絡バス、成田空港連絡バス、高速乗合バス、溝の口駅~新横浜駅間直行バス、渋谷区コミュニティバス(ハチ公バス)、大田区コミュニティバス(たまちゃんバス)、東急トランセ代官山循環線は乗車できない。高速バスは予約制で使えないとしても、その他のバスが使えれば便利だと思う。残念だ。

電車についても注意点がある。「東急線・東急バス サブスクパス」は磁気券で提供されるため、相互直通運転を行う各方面へ向かう場合、精算が面倒になる。境界駅でいったん改札を出て、また入り直せば面倒を避けられるとはいえ、これも面倒だ。

「電動自転車&駐輪場」については2月10日に明らかになるとのことで、今回は比較しないけれども、上記のように比較してみれば、自分にとって得かどうかは判断できるだろう。バスよりも電動自転車のほうが便利で、人気の駐輪場はつねに満車。その駐輪場が確保できるなら魅力的といえる。したがって、このオプションだけはバス抜きの「電車乗り放題」を選択できる。

このように比較してみると、最も元を取りやすく、お得度の高いサービスは「109シネマズ」だった。映画を6回以上鑑賞すれば、回数を増やすほど得になる。電車とバスにあまり乗らなくても、合計金額で元を取れる。

筆者の結論としては、「毎週末に映画を見に行く人、しかも映画館から遠い場所に住んでいる人にとって魅力的なサービス」だった。実証実験は3~5月にかけて行われる。実験の結果が好評なら、定例的なサービスになるかもしれない。そのときはぜひ、ICカード乗車券でも利用できるようにしてほしい。「PASMO」もAndroidスマートフォンで「モバイルPASMO」サービスが始まるとのことなので、アプリで使えるしくみを検討していただきたい。