横浜市都市整備局は12月6日、横浜都心臨海部において、「桜木町駅前と新港ふ頭とを結ぶロープウェイ」事業に着手すると発表した。JR桜木町駅前から運河パークまで、直線的に約630mを結ぶ路線となる。施設名称は「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」、開業時期は2020年度末を予定している。

  • ロープウェイ事業「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」とその周辺施設。地理院地図を加工(画像:マイナビニュース)

    ロープウェイ事業「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」とその周辺施設(地理院地図を加工)

「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」は、2015年に横浜市が策定した「横浜市都心臨海部再生マスタープラン」の「まちを楽しむ多彩な交通の充実」にもとづく。2017年に横浜市が「整備及び運営等にかかる費用は提案者自らの負担として、公費負担を伴わない提案」を公募した。事業採算が取れる業者だけが公募に応じられるしくみだった。横浜市は行政手続きなどで協力するけれども、建設費用も運営費用も出さない。

この事業構想は神奈川新聞の地域情報サイト「カナロコ」が2018年5月24日に報じていた。当時は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた事業だったようだ。カナロコの2019年2月13日付の記事「東京五輪前に開業へ 新港地区 - 桜木町ロープウエー計画」にて、「運河パークと桜木町駅前の両サイドに、鉄骨2階建ての駅舎」「ロープウェイの支柱は高さ約10メートル級を地上部に2基、高さ約30~40メートル級を海上に4基」「ゴンドラの定員は8人」「片道2~3分程度」と示された。

カナロコの2019年12月6日付の記事「横浜のロープウエー着工へ 市が事業者と協定締結」によると、事業費は約60億円を見込むとのこと。海上の支柱の数は3基とされ、結果として1基減っている。技術の進歩と景観に配慮したものと思われる。

すでに海中を含めたボーリング調査に着手しており、本格的な工事は2020年1月から始まる。東京オリンピック・パラリンピックには間に合わないけれど、2021年3月までには横浜での空中散歩を楽しめるようだ。眼下にはかつての貨物鉄道を活用した汽車道がある。往路はのんびりと汽車道を歩き、復路はロープウェイで夜景を見ながら帰る。そんな楽しみ方もできそうだ。

  • ロープウェイは汽車道に沿うルート(画像提供 : 横浜市都市整備局)

この事業を提案した企業は泉陽興業。運河パーク付近のよこはまコスモワールドの運営会社でもある。ロープウェイは桜木町駅とよこはまコスモワールドを結ぶ「新しいアトラクション」という見方もできる。泉陽興業の公式サイトを見ると、他の地域でも遊園地や博覧会の楽しい乗り物を手がけている。とくに観覧車で実績が多く、観覧車は「コスモクロック21」(横浜)のほか、「ダイヤと花の大観覧車」(東京・葛西臨海公園)や「天保山大観覧車」(大阪)など多数ある。鉄道ファンに興味深いところでは、「那須りんどう湖 LAKE VIEW」で運行していたラック式スイス鉄道(休止中)がある。

■都市型常設ロープウェイでは国内初

泉陽興業は1990年に開催された「国際花と緑の博覧会」の「フラワーキャビン」でロープウェイの実績がある。このたび事業化された「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」は、アトラクション的な乗り物とはいえ、同社にとっては初の公共交通事業となる。他にもジェットコースターのしくみを使った「エコライド」を東大と共同開発している。「楽しい都市型交通」の担い手として、同社の今後の展開も楽しみだ。

  • 付近はビル群。水面に光が映る夜景も楽しみ(画像提供 : 横浜市都市整備局)

ロープウェイは山岳観光やスキー場の乗り物として知られている。都市部で平地を結ぶ常設ロープウェイとしては、「YOKOHAMA AIR CABIN(仮称)」が国内初の事業となる。同様の構想として、博多駅と博多港を結ぶ都市型ロープウェイがあった。JR九州の提案で福岡市長が前向きだった。しかし今年3月の福岡市議会後、「博多港付近の再開発が進まず必要性が市民に理解されていない」として白紙撤回された。

ちなみに、横浜みなとみらい地区のロープウェイ運行は2回目。1989(平成元)年の横浜博覧会にて、横浜駅東口から博覧会会場までの約770mで運行された。現在も残していれば、パシフィコ横浜への交通手段になったかもしれない。このロープウェイを復活させ、さらに延伸しようという動きもあるようだ。

カナロコの2017年12月30日付の記事「横浜→山下ふ頭に空中交通!? ロープウエー構想浮上」によると、横浜駅東口・横浜市中央卸売市場・臨港パーク・パシフィコ横浜・新港ふ頭・横浜赤レンガ倉庫・大さん橋・山下ふ頭を結ぶルートが提案されたという。提案者のYNP(ヨコハマニューポート)は、今年10月に開業した新港ふ頭客船ターミナル(横浜ハンマーヘッド)の事業構成会社でもある。

この計画も含めて、横浜市が公募した「まちを楽しむ多彩な交通」について、2018年5月に横浜市が提案内容をまとめたリーフレットを公開している。ロープウェイ、水上バス、オープントップバス、連節バスなどが提案されていた。

この中で、連節バスについては横浜市交通局が2020年6月から運行開始する予定となった。カナロコの2018年10月2日付の記事「横浜臨海部に連節バス 20年6月運行」によると、横浜駅東口と山下埠頭を海沿いに結ぶルートで、「定員120~130人程度の車両4台を導入して、午前10時から午後7時台まで1時間あたり2~3本」を走らせるとのこと。このルートは既存のバスルートや観光周遊バス「あかいくつ」と重複するため、路線の再編成も視野に入れている。ただし、この連節バスのルートは前述のYNPが提案したロープウェイのルートとも重なるため、動向が気になる。