阪急電鉄、JR西日本、南海電鉄の3社が、阪急電鉄の構想する「なにわ筋連絡線」「新大阪連絡線」について、事業化検討開始で合意したと報道された。今後は大阪府、大阪市と協議し、正式に国土交通省に事業許可を申請する。この2つの路線は、今年7月9日に事業許可を受けたなにわ筋線に接続する役割を持つ。
なにわ筋線は大阪駅の北側に開業する北梅田(仮称)駅から南下し、JR難波駅または南海電鉄の新今宮駅に接続する路線。JR西日本と南海電鉄が旅客営業を行い、JR難波駅から阪和線経由、新今宮駅から南海本線・空港線経由で関西空港駅に到達する。北梅田(仮称)駅から新大阪駅までは貨物線の東海道支線が地下化され、2023年春開業予定。なにわ筋線経由で新大阪~北梅田(仮称)~関西空港間を結ぶルートが誕生することで、JR西日本の特急「はるか」は大阪市内での走行区間・所要時間の短縮が見込まれ、南海電鉄の特急「ラピート」は現行の難波駅発着から新大阪方面へ延伸が可能となる。
阪急電鉄もなにわ筋線を好機とし、「十三から北梅田に延伸する。狭軌で建設するからなにわ筋線に直通したい」として関係機関に申し入れ、2017年に大阪府、大阪市、JR西日本、南海電鉄と合意。以降、新線の採算性などの調査を行っていたという。
国土交通省近畿運輸局は調査結果として、「なにわ筋連絡線」が輸送人員1日あたり約9.2万~10.2万人、費用便益比1.7~1.8、建設費を消化した黒字化は24~31年目、「新大阪連絡線」が輸送人員1日あたり約5.5万人、費用便益比1.4、建設費を消化した黒字化は27年目と説明している。どちらも鉄道の新線計画としては優良案件だろう。
これら2路線を同時に整備した場合、輸送人員は「なにわ筋連絡線」で約2万~3万人/日の増加、「新大阪連絡線」はほぼ横ばいか1日あたり約1万人の減少とされている。ただし、費用便益比は最大で1ポイントの増加、建設費を消化した黒字化は13~16年目となり、早期黒字化を期待できる。「なにわ筋連絡線」を成功させるには、「新大阪連絡線」が効果的というわけだ。
■「なにわ筋連絡線」を阪急規格で建設しない理由は
「なにわ筋連絡線」は阪急電鉄の十三駅に地下ホームを設置し、同じく地下の北梅田(仮称)駅へ線路を建設する。軌間は阪急電鉄の各路線で採用された標準軌(1,435mm)ではなく、JR西日本・南海電鉄の路線と共通の狭軌(1,067mm)。阪急電鉄の他の路線から直通できないけれど、「なにわ筋連絡線」からなにわ筋線へ直通できる。なにわ筋線からJR阪和線および南海本線に乗り入れ、関西空港駅にも足を延ばせる。
阪急電鉄は現在すべての路線が標準軌だから、「なにわ筋連絡線」を狭軌で建設する場合は専用の車両を製造しなければならない。標準軌でつくれば神戸本線・宝塚本線・京都本線のすべて、またはいずれかの路線と直通して北梅田(仮称)駅まで到達できるかもしれない。ただし、これら3路線から北梅田(仮称)駅へ直通する場合、十三駅の南側に分岐点を設置する必要がある。十三駅の南側には淀川があり、両岸とも建物が密集していることもあって、地下の北梅田(仮称)駅へ勾配をつくれない。梅田~十三間は3複線となっているため、北梅田(仮称)駅へ直通するとなると分岐器も煩雑になる。ならば初めから「地下に駅を作ろう」となる。
十三駅の北側で神戸本線・宝塚本線・京都本線のいずれかと直通する案はどうか。過去に「西梅田・十三連絡線」として、地下鉄四つ橋線を西梅田駅から十三駅まで延伸し、神戸本線と直通運転する構想もあった。この計画をもとに、神戸本線と「なにわ筋連絡線」を直通させる案も考えられる。
しかし、この案だと宝塚本線・京都本線の利用者は十三駅で乗換えが必要。その上、北梅田(仮称)駅で標準軌から狭軌のなにわ筋線へ乗り換えるため、神戸本線からだと1回、宝塚本線・京都本線からだと2回も乗換えが必要となってしまう。関西国際空港を利用する人々は荷物も多いので、乗換えの回数は減らしたい。
「なにわ筋連絡線」を狭軌で建設すれば、神戸本線・宝塚本線・京都本線ともに1回の乗換えでなにわ筋線を利用できる。車両は共通化できないけれど、標準軌としたところで使い回しではなく、新路線向けに新造するだろうから、車両面のコストは変わらない。阪急電鉄にとって、「なにわ筋連絡線」は狭軌が正解ということだろう。
■「新大阪連絡線」は阪急電鉄の悲願だった
阪急電鉄における「新大阪連絡線」の構想は古い。東海道新幹線構想が具体化し、新大阪駅の設置が決まると、阪急電鉄は1961(昭和36)年に事業免許を取得している。当時は京都本線の淡路駅で分岐し、新大阪駅を経由して宝塚本線に乗り入れ、十三駅に至るルートだった。この路線は京都本線の急行線という意味も兼ねていた。新大阪駅周辺では、当時の名残を示すように阪急電鉄が保有する建物や空地があり、新大阪駅にも阪急電鉄の乗入れを想定した構造が残っている。
この構想は進捗せず、阪急電鉄は新大阪~淡路間と、支線として別途検討されていた新大阪~神崎川(神戸本線)間の免許を返上した。ただし、新大阪~十三間は維持して今日に至る。いわば塩漬け状態だった「新大阪連絡線」構想だが、なにわ筋線をきっかけに再浮上することとなった。地下に「なにわ筋連絡線」の十三駅を建設するなら、そこから「新大阪連絡線」構想も復活させ、一体的に整備としようというわけだ。そもそも十三駅北側の線路用地は転売されているため、宝塚本線との合流案の実現は容易ではない。むしろ狭軌として、「なにわ筋連絡線」と一体化するほうが得策だろう。
「新大阪連絡線」が建設されると、阪急電鉄沿線と新大阪駅のアクセスが大きく改善される。現在は梅田駅で地下鉄御堂筋線に乗り換えるルートが主流だけど、乗換駅が十三駅に移ることで、ルートとしても短縮される。「新大阪連絡線」が阪急電鉄の路線となった場合、建設費の利用者負担として加算運賃となる可能性はあるけれど、それでも他社線に乗り換えるより運賃は安くなるだろう。
■JR西日本・南海電鉄にもメリットがある?
「なにわ筋連絡線」「新大阪連絡線」はともに阪急電鉄が計画した路線として建設されるけれど、今回の報道では阪急電鉄とJR西日本・南海電鉄の三者合意という形になっている。なにわ筋線と直通運転を行うとはいえ、北梅田(仮称)駅から新大阪駅までJR線と並行するルートとなる。JR西日本にとって競合となりうる「新大阪連絡線」にも合意したところが今回のポイントといえる。
北梅田(仮称)駅から新大阪駅までのルートはJR線のほうが直線的で、十三駅経由は迂回ルートとなるから、速達性では優位に立っている。JR西日本にとって大きな脅威ではないと判断されたかもしれない。阪急電鉄の沿線利用者が十三駅からなにわ筋線経由で難波・関空方面へ利用すれば、結果的になにわ筋線の利用者が増え、採算性が高まるというメリットもある。
南海電鉄にとって、「新大阪連絡線」の存在は“保険”にもなる。北梅田(仮称)~新大阪間でJR線を走行する場合、南海電鉄はJR西日本に線路使用料を支払うことになるけれども、運行ダイヤとしてはJR西日本の列車が優先されるだろう。そう考えると、南海電鉄の特急列車を「新大阪連絡線」経由で走らせることになるかもしれない。
「なにわ筋連絡線」「新大阪連絡線」の路線建設構想が実現に向けて動き出した。次の関心は中間駅が設置されるか。山陽新幹線と阪急宝塚本線の交点から宮原の車両基地北側にかけて鉄道空白地帯となっているため、中間駅設置の要望が高まることも考えられる。開業後のダイヤ、とくに優等列車の動向も気になる。南海電鉄の特急列車は新大阪駅でJR西日本のホームを使うか、あるいは「新大阪連絡線」のホームを使うか。ひょっとしたら、阪急電鉄も独自に有料座席指定の空港特急列車を仕立ててくるかもしれない。いずれにしても、期待しながら続報を待ちたい。