「福井県並行在来線準備株式会社」が8月13日に設立された。2023年春に予定される北陸新幹線金沢~敦賀間延伸開業にともない、JR西日本から経営分離される並行在来線のうち、福井県内の区間を継承する第三セクター鉄道会社となる。
資本金は5億円。福井県が3億5,000万円、沿線7市町が1億円を出資し、残りは福井銀行と北陸電力が2,500万円ずつ出資する。
北陸新幹線敦賀延伸の取組みにおいて、当初、並行在来線会社組織は2020年を予定していた。予定を1年早めた理由は、人材確保に着手するためだという。本格会社への移行は2021年度から。資本金は20億円(予定)に増資され、開業時の社員数は約300人を予定している。正式な会社名は公募を行った上で決定する。
新会社の運行区間は、現在の北陸本線敦賀駅から石川県境までの79.2km。福井県・石川県の県境は牛ノ谷~大聖寺間にあり、県境から金沢駅までの区間はIRいしかわ鉄道に編入される予定。境界駅は大聖寺駅が有力とされている。現在、大聖寺駅も含む石川県内の区間はJR西日本金沢支社の直轄、福井県内の区間は同支社の福井地域鉄道部などが管轄しており、大聖寺駅発着で金沢駅へ向かう折返し列車の設定もある。
■旧国名も県名も使用済み、正式路線名はどうなる?
鉄道ファンとしては、正式な路線名がどうなるか気になるところだ。公募を行うとのことで、命名するチャンスもある。ちなみに北陸新幹線の並行在来線会社はこれまでに4社が発足している。長野県は旧国名を取って「しなの鉄道」。石川県の「IRいしかわ鉄道」は、「IR」に「Ishikawa Railway」と「愛ある」の意味をかけたという。富山県の「あいの風とやま鉄道」で採用された「あいの風」は、富山県で春から夏にかけて吹く風の名前で、豊漁の縁起が良いとのこと。列車が「あいの風」となって県民に幸せを運ぶ。「あい」に「愛」もかけている。
新潟県の「えちごトキめき鉄道」は、旧国名の「越後」、新潟県の県鳥「トキ」、そしてトキにかけて「ときめき」を社名に採用した。当初は耳慣れない社名だったけれども、報道記事などを見ると、「トキ鉄」の略称で親しまれているようだ。
えちごトキめき鉄道は並行在来線準備会社を早期に立ち上げた点で、福井県の会社の“先輩”ともいえる。直江津駅を境に、JR東日本・JR西日本が運営していた性格の異なる2つの路線を引き継ぐため、対応に時間がかかると判断された。
福井県並行在来線準備株式会社の正式な会社名はどうなるだろう。該当する区間の旧国名は「越前」だけど、すでにえちぜん鉄道があるから避けたい。県名の「福井」も福井鉄道がある。なかなか難しい問題になるかもしれない。
県の鳥は「つぐみ」、県の花は「水仙」、県の木は「松」。観光資源として恐竜もあるし、県のマスコットキャラクターも恐竜をモチーフとした「Juratic(ジュラチック)」だ。となると、たとえば「ふくいジュラチック鉄道」かな……。恐竜にちなんだ観光列車やラッピングトレインなどの展開もできそうに思える。
とはいえ、旧国鉄からの伝統的な路線名に親しんできただけに、ひらがな・カタカナの入った長い名前はもう勘弁してほしいとの思いもある。
■並行在来線会社は赤字前提か - 増収策は駅の新設
整備新幹線の建設条件として、「費用対効果の算定」「建設財源負担について国と自治体の同意」「運行を引き受けるJR会社の同意」「並行在来線の経営分離について地方公共団体の同意」が挙げられている。並行在来線に関して、沿線自治体が引き継ぐ義務はない。JRからの分離までを同意すればいい。しかし、並行在来線を廃止すると通勤・通学をはじめ、生活手段として鉄道を利用していた沿線住民が困る。したがって、第三セクター鉄道で並行在来線を残す選択となる。
それまで特急列車が担った役割は新幹線に引き継がれるため、並行在来線は基本的に乗車券のみの普通列車ばかりになる。割引される定期運賃の客が主体となり、当然ながら赤字になるだろう。それを納得して引き継ぐわけで、自治体の負担は増える。
福井新聞の6月22日付の記事「新幹線開業で北陸線は8億円赤字 福井県、敦賀開業初年度の収支予測」によると、2023年の収支は8億2,000万円の赤字が予測されたという。開業10年後の赤字は約15億円に膨らむ。人口減によって運賃収入が減り、設備の老朽化で費用が増えるからだ。
赤字で当然とはいっても、経営改善を怠ってはいけない。税金で補填するわけだから、少しでも赤字を減らし、便利な鉄道として認知してもらう必要がある。そこで、「新駅の設置」「他の鉄道やバスとの連携」により、新たな需要を開拓するという。
新駅の設置については、坂井市で「新坂井駅」の設置に向けた動きがあるそうだ。春江~丸岡間において、県道10号と交差する付近が候補地となっている。北陸道丸岡インターチェンジからこの地域と福井空港北側を通る「福井港丸岡インター連絡道路」を整備中で、新駅一帯を産業団地や商業中核、宅地として整備する構想がある。
福井空港は定期便がないけれども、小型プロペラ機空港として使われ、「グライダーの聖地」とも呼ばれる。坂井市では、福井空港を近年注目されるドローンの聖地とする構想もあり、産業団地にドローン関連企業も誘致したい考えのようだ。もっとも、駅の開業は2040年をめざすとしており、もう少しスピード感がほしいところだ。
新たな旅客需要について、えちごトキめき鉄道の「えちごトキめきリゾート 雪月花」、あいの風とやま鉄道の「一万三千尺物語」のような観光列車の運行も考えられる。ただし、いまのところ具体的な検討には至っていない。2018~2019年に福井市の商工会議所が研究会を開催したけれども、これは並行在来線だけに限定しないようだ。えちぜん鉄道の社長は出席。JR西日本の担当者はオブザーバーという立場だった。
「福井県並行在来線準備株式会社」の当面の業務は、「人材の確保」「JR西日本との協議」となる。正式な会社名も決まっていないうちから観光列車まで手が回らないだろう。沿線の敦賀市には旧敦賀港駅舎や赤レンガ内の大きな鉄道ジオラマがあり、金ヶ崎周辺施設整備基本計画を策定してSL運行の構想もある。鉄道ファンも楽しめる鉄道になってもらいたい。