北海道新幹線の札幌延伸によって、函館本線の函館~小樽間はJR北海道から経営分離される。このうち長万部~小樽間に関して、7月22日に「北海道新幹線並行在来線対策協議会」の後志ブロック会議が開催され、沿線の10の自治体と北海道が参加した。

  • 北海道新幹線の並行在来線区間(国土地理院地図を加工)

北海道新幹線の並行在来線については、全線一括ではなく、函館~長万部間の「渡島ブロック会議」と長万部~小樽間の「後志ブロック会議」に分かれて協議している。理由は線路の使われ方の違いにある。函館~長万部間は貨物列車が運行され、道内各地と本州を結ぶルートになっている。だから北海道新幹線開業後も線路は残る。

長万部~小樽間を維持した場合、貨物列車からの線路使用料などが期待できない。したがって、鉄道を維持した場合は大幅赤字が必至。貨物列車が走らない並行在来線は初の事例となる。維持する自治体の負担も大きいため、まずは存続か廃止かの判断が行われる。

函館本線の長万部~小樽間は通称「山線」と呼ばれる。内浦湾側と日本海側を結び、渡島半島の付け根を横断するため、目名峠、倶知安峠、稲穂峠などの峠越えが多い区間だ。沿線人口も少ないため、特急列車や貨物列車は「海線」こと室蘭本線を経由する。距離としては遠回りだけれども、所要時間が短くなる上に、観光地の洞爺・登別、工業都市の室蘭・苫小牧を通り、輸送量が見込める。

北海道新幹線並行在来線対策協議会は2012年の会議の時点で、北海道新幹線札幌延伸開業の5年前に鉄道存廃の判断を行う前提で進められていた。しかし、7月22日の第6回協議会では、判断の時期をさらに前倒しする方針となった。札幌延伸開業は2030年度。その5年前は2025年度。現在は2019年度だから、5年以内に存廃の結論が出るだろう。

■まちづくりの準備期間が必要

2016年に並行在来線区間を継承し、開業した道南いさりび鉄道の場合、2005年に「北海道道南地域並行在来線対策協議会」が発足。2012年に三セク鉄道開業準備協議会へ移行し、2014年に北海道道南地域並行在来線準備株式会社が発足した。貨物輸送のために線路は残る。その線路を使って旅客輸送をするなら第三セクター会社を設立する必要がある。その意思決定は2012年。開業の4年前だった。

長万部~小樽間の存廃決定を早める理由は、新幹線開業後のまちづくりにある。新幹線の開業に合わせて駅周辺を整備する場合、在来線の線路がある場合とない場合で計画が変わってくる。5年前の存廃決定では、新幹線開業にまちづくりが間に合わない。

その象徴的な事例が倶知安町だ。倶知安駅は当初の計画において、新幹線の駅は地上駅となり、在来線の地上駅と並ぶ予定だった。しかし、新幹線の線路は踏切を作れないため、町の東西を分断してしまう。そこで倶知安町と北海道が新幹線の高架化を要望した。これを受けて、2016年7月22日、鉄道・運輸機構は倶知安駅の高架化を決定した。

  • 倶知安町は駅南側の道道58号陸橋の撤去問題がある(国土地理院地図を加工)

ところが、倶知安駅の南側に函館本線をまたぐ道道58号の陸橋がある。この陸橋は新幹線の地上線路の開通を見越して長めに作ったようだ。しかし、新幹線が高架になった場合、陸橋の高さを線路が通るため、陸橋を取り壊す必要がある。陸橋の道路を地平にすれば解決すると思うけれども、現在の法律では鉄道に新しい踏切を設置できない。

踏切の新規設置に関して、可部線の延伸区間(可部~あき亀山間)で設置されたという例外はある。しかし、新線ではなく現行の線路、いったん道路を高架化して除却した踏切の復活が認められるかどうかは不明。踏切の新規設置が認められないとなれば、せっかく新幹線を高架化しても、在来線の線路が倶知安町の東西を分断してしまう。

倶知安町としては、並行在来線が廃止されれば道道を地平化できる。並行在来線が存続すれば、道道58号の迂回ルートを整備する必要がある。北海道建設新聞社の2019年3月19日付の記事「倶知安町が道新幹線駅周辺の整備構想案をまとめる」によると、駅前整備に関して、駅前通については2022年度、その他の整備も2024年度以降に設計・用地買収を実施する予定だという。存廃決定から5年では時間が足りない。

他の自治体も同様で、並行在来線の有無がまちづくりと密接に関わる。余市町では、高校生の8割が鉄道で小樽の高校へ通っているという。地域の交通手段として鉄道は維持したい。しかし、維持できないと決まってからでは、まちづくりも、代替交通機関の整備も出遅れてしまう。

並行在来線を残したい。しかし維持するための自治体の負担は大きい。並行在来線の有無がまちづくりを左右する。協議会としては、並行在来線に観光列車を走らせる案も検討している。道南いさりび鉄道からの参考意見も得ているようだ。しかし、道南いさりび鉄道の「ながまれ海峡号」も、鉄道側には定員の運賃収入しかないため、経営改善への貢献度は低そうに見える。長万部~小樽間の存続については「赤信号かな」という印象を持っているけれど、今後の協議会の進捗に注目していきたい。

函館~長万部間の「渡島ブロック会議」については、現在のところ並行在来線の存廃判断には至っていない様子だ。次回の会議開催は8月2日。北海道、函館市、北斗市、七飯町、鹿部町、森町、八雲町、長万部町が出席予定となっている。

ちなみに、整備新幹線の着工の条件として、「安定的な財源見通しの確保」「収支採算性」「投資効果」「営業主体であるJRの同意」「並行在来線経営分離について沿線自治体の同意」が挙げられる。並行在来線についてはJRからの分離までが条件で、分離された路線について、沿線自治体が維持する義務はない。

つまり、函館~長万部間についても旅客営業を廃止するという選択肢はある。そうなると、線路があっても並行在来線の旅客営業はしないという初の事例になる。北海道新幹線の並行在来線問題は、今後の整備新幹線と並行在来線の関係に大きく影響するだろう。