国土交通省は7月18日、「都市鉄道の混雑率調査結果」を公表した。主要区間の平均混雑率は、東京が163%で前年と変わらず。大阪は126%、名古屋は132%で、ともに前年比1ポイント増となった。大阪と名古屋は東京の目標値を下回っており、通勤ラッシュ事情は「東京よりマシ」という印象。相変わらず東高西低の傾向にある。

  • 2018年度も混雑率の最も高い路線は東京メトロ東西線だった(写真:マイナビニュース)

    2018年度も混雑率の最も高い路線は東京メトロ東西線(199%)だった

東京都については、「平成28年4月20日交通政策審議会第198号答申」にて「主要31区間の平均混雑率を150%にする」という目標がある。東京の主要31区間とは、東京都に路線網を持つ大手私鉄・地下鉄の代表路線とJR東日本の5方面の路線をさす。これら31区間は複数年を観察するための指標であって、東京の混雑の平均値ではない。JR山手線(158%)、つくばエクスプレス(169%)が主要区間に入っていない一方、混雑率の低い中央緩行線(95%)は入っている。中央快速線と実質的な複々線区間であるため、組み入れて判断しようとの意図があるからだろう。総武線と常磐線は快速線・緩行線ともに主要区間に入っている。

東京圏の主要31区間の混雑率について、2018(平成30)年度と2017(平成29)年度を比較する表を作った。国土交通省の資料では、各路線の混雑率の高い区間で輸送力と輸送人員を公表している。輸送力は1時間あたりの通過車両数に定員をかけた数字。輸送人員は実際に乗車した人数だ。輸送人員を輸送力で割った数字が混雑率になる。表では前年より増えた数値を赤、減った数値を水色で示した。東京都の平均混雑率は前年と同じだったけれども、表で見ると増えた路線、減った路線があるとわかる。

  • 東京の主要31区間の混雑率など。太字は前年と比較して変化した数値。とくに赤は上昇した数値、水色は減少した数値を示す(国土交通省資料をもとに筆者作成)

輸送力は変化のない路線が多い。つまり、混雑解消のための増発や長編成化を実施した鉄道事業者はほとんどなかった。

輸送力が増加したおもな路線として、都営新宿線と東京メトロ千代田線が挙げられる。都営新宿線は8両編成の電車を10両編成にする事業に取り組んでいる。全編成の10両化は2022年度の予定で、それまで輸送力が増えていくだろう。ただし、輸送人員がそれを上回るペースで増えたため、混雑率は3ポイント増となった。

東京メトロ千代田線は2018年3月に小田急電鉄の複々線完成に伴うダイヤ改正が行われ、朝ラッシュ時間帯に10往復の増発が行われた。これが輸送力アップとして数字に出た。しかし、こちらも輸送人員増加が上回り、混雑率は1ポイント増となった。

小田急電鉄の数字は興味深い。代々木上原~登戸間の複々線が完成したことで運行本数が増えたはずだけれど、輸送力は下がった。一方、複々線化によるスピードアップ効果もあって輸送人員が増えたため、混雑率は6ポイント増となっている。小田急電鉄は複々線完成前の混雑率が192%と高く、複々線完成によって151%と大きく改善した。もっとも、2017年度の151%は参考値。複々線完成前の輸送人員を完成後の輸送力で割った数字だったからだ。今回公表された2018年度の157%が、複々線完成後の真の数値といえる。

輸送力が下がったように見える理由は混雑時間帯の変化だろう。運行本数や車両数の低下ではなく、混雑率の高い時間が10分繰り下がった。小田急電鉄はもともと、従来の混雑率ピークだった7:31~8:31に輸送力を最大にする運行計画を立てていた。したがって7:41~8:41は運行本数のピーク後となり、運行本数が減少していく。ところが、この時間の輸送人員が増加したため混雑率が上昇し、運行本数が少ない時間帯の混雑率が高くなった。

小田急電鉄は2019年3月のダイヤ改正で、小田急多摩センター発の通勤急行を8両編成から10両編成へ、代々木八幡駅のホーム改良によって各駅停車も8両編成から10両編成へ増強した。その効果は来年に発表される数字に現れるはずだ。

  • 東急大井町線は急行の7両化など輸送力を増強。2018年度は田園都市線・大井町線ともに混雑率が下がった

輸送人員の増減については沿線施設の増減などの要素もあるため、一概には言えない。しかし想像してみると楽しい。たとえば、相互直通運転を行う東急田園都市線と東京メトロ半蔵門線はともに輸送人員が減少している。田園都市線の場合、二子玉川駅から大井町線へ乗り換える人が増えたことが影響していると考えられ、これは大井町線の輸送人員増加として数値にも表れている。その大井町線は急行の7両化などで輸送力を増強したため、輸送人員が増加しても混雑率は166%から155%へ低下した。東急電鉄の田園都市線混雑対策「大井町線への誘導」は成功しているといえる。

混雑率改善のもうひとつの目標は、「ピーク時における個別路線の混雑率を180%以下にする」だった。表で見ると、ほとんどの路線で目標を達成している。未達成の路線は東京メトロ東西線(199%)、横須賀線(197%)、総武緩行線(196%)、東海道線(191%)、東急田園都市線(182%)、中央線快速(182%)、総武快速線(181%)となっている。

国土交通省による混雑率の目安によると、100%は座席が埋まり、つり革とドア付近の柱に捕まった状態。150%は新聞を広げて読める状態。180%は折りたたむなど無理をすれば新聞を読める状態。200%は体が触れあい圧迫感があるけれども、週刊誌程度なら読める状態。250%は電車が揺れるたびに体が斜めになるほど身動きができず、手も動かせない状態とされている。

いまどき新聞や週刊誌を読む人は少なく、スマホやタブレット端末、携帯ゲーム機を指標としたほうがわかりやすいと思うけれども、いまだ新聞や週刊誌は存在するから理解できないというほどではない。むしろ電子機器は、音楽を聴くとイヤホンからの音漏れなど別の問題に注意が向きそうだ。目安は当分の間、変わらないだろう。

さて、この混雑率の数字について、実際に通勤している人からは疑問が生じるかもしれない。いつも乗っている電車は混雑率250%の状態だけど、表では180%以下。実態と合っていないではないか。資料の数値と実際の通勤電車の状況には違和感がある。その理由としては、混雑率の計算が「輸送人員全体を輸送力全体で割る」という、いわば「どんぶり勘定」だからと考えられる。

同じ列車でも先頭車両は混雑して、後部車両は空いていることがある。また、各駅停車より急行のほうが混んでいる。しかし、混雑率は個別の車両や種別などを反映しない。その時間帯の列車の車両数と人数を割っただけだから、いわば混雑率の平均値だ。混雑率より空いている車両もあれば、混雑率より混む車両もある。たとえば、中央快速線の混雑率は184%、中央緩行線の混雑率は95%。それぞれ最高値だから、中野駅から新宿駅までの区間は中央緩行線のほうが空いている。同じ区間でも、快速と各駅停車で大きく違う。

国土交通省の報道資料「東京圏における主要区間等の混雑の見える化」では、同一区間における時間帯ごとの混雑率の変化をグラフで示し、オフピーク通勤を推奨している。この場合の「オフピーク」とは、ピークとなる「時間帯」を避けるという意味になる。しかし、最も混雑した時間帯でも、ピークとなる「車両」を避け、目的地駅のホームの階段から遠い車両を選ぶ。あるいはピークとなる「列車種別」の特急・急行ではなく、各駅停車を選ぶ。これだけでも、通勤はかなり楽になるだろう。

つまり、混雑率の調査結果は鉄道事業者による車両の設備投資やダイヤ編成の用途では役に立つけれども、実際に通勤電車を利用する側としては参考程度に考えておこう。工夫次第で混雑率の低い電車を選べる。資料の数値を過信して勤務先や居住地を選んではいけない。「時間帯」「車両」「列車種別」の3つのピークを比較検討したほうがいい。