かつて「スーパーひたち」が走ったルート、東京都区内と仙台市内を常磐線経由で結ぶ特急列車が復活する。常磐線の全線復旧で、いったんは震災前の特急列車の運行体系に戻る形になるのか。新たな“常磐線縦貫特急”の列車名と停車駅はどうなるだろう。

  • 常磐線の全線運転再開後、東京都区内と仙台市内を結ぶ特急列車が運行される(写真:マイナビニュース)

    常磐線の全線運転再開後、東京都区内と仙台市内を結ぶ特急列車が運行される。車両はE657系を使用する

まずは「スーパーひたち」以降の常磐線特急の変遷を振り返ってみよう。

「スーパーひたち」は1989年、651系の投入に合わせて誕生した。1985年に東北新幹線上野~大宮間が開業しており、すでに上野~仙台間の直通需要は少なかったけれど、常磐線沿線の主要都市と上野駅・仙台駅を結ぶ速達列車としての役割があった。1991年、東北新幹線が東京駅発着となっても「スーパーひたち」は存続した。1997年、短距離特急用にE653系が投入され、「フレッシュひたち」の愛称が与えられた。

震災前の常磐線特急は「スーパーひたち」「フレッシュひたち」があり、上野駅を大体30分間隔で交互に発車していた。上野~仙台間を直通する「スーパーひたち」は下り3本・上り4本を設定。上野発仙台行は上野駅を8時0分、13時0分、16時0分に発車し、所要時間は最短で4時間10分。上野駅から11両編成(7両+4両)で発車し、いわき駅で切り離して4両となった。需要と供給のバランスに沿った運用だったといえる。

■常磐線特急再編計画、震災で幻に

2010年12月7日、JR東日本は常磐線特急の再編を発表する。2012年春から新型車両E657系を投入し、上野~いわき間で運行。いわき~仙台間は「フレッシュひたち」に使用されたE653系が担当し、輸送体系の見直しにより、上野~いわき~仙台間を結んだ「スーパーひたち」は消滅する見込みとなっていた。

E657系は10両固定編成で投入された。一方、E653系は7両の基本編成と4両の付属編成があり、連結によって11両編成または14両編成となるため、輸送量を調整することができた。再編計画では詳しいダイヤ等は紹介されなかった。上野~いわき間は10両編成のE657系を等間隔で運行して輸送量を確保する一方、いわき~仙台間は4両あるいは7両のE653系を使用し、利用しやすい時間帯に運行する意図があったと思われる。

東北新幹線の開業以来、上野~いわき~仙台間を直通する利用者は少なかっただろうし、長距離運行はダイヤ編成上の制約が大きい。上野駅発着時に都合の良い時間帯であっても、その列車が仙台駅発着時に都合の良い時間帯とは限らないからだ。運行区間のどこかで遅れや運休が発生した場合、全区間にわたって影響が出るし、接続する路線も含めて広範囲に影響が及ぶ可能性がある。それが長距離列車の弱点といえる。

2011年1月、いわき~仙台間を結ぶ特急列車の愛称公募が告知された。しかし、再編計画は実施されなかった。2011年3月11日に東日本大震災が発生し、以来、常磐線は直通列車の運行自体が不可能な状況が続いている。後に「スーパーひたち」は上野~いわき間のみ復旧したけれど、いわき~仙台間の「スーパーひたち」は運休のまま、E657系がデビューした2012年3月ダイヤ改正で消滅した。

■「ひたち」「ときわ」誕生、全線復旧後は

再編計画は立ち消えとなったけれども、E657系の投入とそれにともなう651系・E653系の置換えは進められた。

2013年3月のダイヤ改正で、「スーパーひたち」「フレッシュひたち」の全列車が原則的にE657系となる。2015年3月のダイヤ改正では、上野東京ラインの開通に合わせ、常磐線特急のさらなる再編が行われた。運行区間は最長で品川~いわき間となり、上野~水戸間の通過駅が多い列車が「ひたち」、停車駅の多い列車が「ときわ」となった。「ときわ」は1955年から常磐線を走った準急列車の愛称でもあり、後に急行列車に昇格し、1985年に特急「ひたち」へ統合された。

「みんゆうNet」(福島民友)の2019年6月12日版「JR常磐線の早期全線開通を 国交相に要望、県鉄道活性化協など」によると、福島県鉄道活性化対策協議会と常磐線活性化対策協議会は6月11日、国土交通省とJR東日本に対し、常磐線富岡~浪江間の早期全線開通と「浜通りと東京を直通で結ぶ特急列車」の運行を要望したという。浜通りとは福島県の太平洋側の地域をさし、常磐線では勿来~いわき~原ノ町~新地間が該当する。

前述の通り、JR東日本は当初、いわき駅で特急列車の系統を分ける計画だったから、この要請に対するJR東日本の回答に期待が高まった。「みんゆうNet」(福島民友)2019年7月5日版「常磐線・東京-仙台間の特急再開検討 JR東、20年3月全線開通で」では、JR東日本が東京から浜通りまでだけでなく、仙台まで特急列車の運行を再開させる方針を固めたと報じられている。これと同じ日に、JR東日本は「常磐線全線運転再開にあわせた特急列車の直通運転について」という報道発表資料を公開した。

この発表を受けて「みんゆうNet」(福島民友)2019年7月6日版「JR常磐線・東京-仙台間『直通特急再開』発表! JR東日本」では、「品川駅か上野駅と、仙台駅の間で運行する方針」と伝え、JR東日本の「復興が進んでおり、沿線都市間の輸送の需要増も期待できる」という意図を報じた。南相馬市長、相馬市長、いわき市長の喜びと期待を込めたコメントを掲載している。

■直通特急の列車名は? ダイヤの詳細も気になる

今回の発表は地元の人々に限らず、鉄道ファン、とくに在来線長距離特急ファンにとってもうれしいニュースだろう。在来線特急列車は新幹線より遅く、乗り心地もまずまずといったところだけど、沿線の景色を近くに感じられるし、貨物列車とのすれ違いや普通列車の追い越しなど、複雑に入り組んだダイヤを堪能できるからだ。

  • 品川~仙台間で運行する場合、在来線昼行特急として走行距離が第5位になるという(地理院地図を加工)

JR東日本の発表はまだ情報が少ない。決定事項は「E657系を増備」し、「東京都区内と仙台市内を直通で結ぶ特急列車」を「2019年度末までの常磐線全線運転再開にあわせて」運転するという内容のみ。「詳細な運転再開時期や時刻・料金等については、決定次第お知らせします」と締めくくられている。

列車名は「ひたち」を継承するか、それとも特別な列車として新たな列車名を与えるか。運行本数は「スーパーひたち」時代の下り3本・上り4本を維持するか……など、興味は尽きない。JR九州の「九州横断特急」(現在は運休)にならい、「常磐縦貫特急」にすると勇ましくて良さそうな気がする。いや、「スーパーひたち」の復活もうれしい。そういえば、2011年1月に行われた公募結果はどうなっただろうか。応募期間は2月1~28日で、震災前に締め切られていた。そのデータはどうなっただろう。

停車駅も気になる。「スーパーひたち」がいわき駅以北まで運行された当時、途中の冨岡駅、浪江駅、原ノ町駅、相馬駅は全列車停車。さらに一部列車が四ツ倉駅、広野駅、大野駅、双葉駅、小高駅、亘理駅、岩沼駅に停まった。

ちなみに現在、寝台特急「サンライズ出雲」「サンライズ瀬戸」を除く在来線昼行特急の長距離ランナーは、1位が「にちりんシーガイア」の博多~宮崎空港間(413.1km)、2位が「宗谷」の札幌~稚内間(396.2km)、3位が「スーパーおき」の鳥取~新山口間(378.1km)、4位が「オホーツク」の札幌~網走間(374.5km)、5位が「スーパーおおぞら」の札幌~釧路間(348.5km)だという。

常磐線縦貫特急が品川~仙台間で運行されると373.9kmとなり、在来線昼行特急では「スーパーおおぞら」の走行距離を上回り、第5位となる。あと700m余分に走ると4位になるし、横浜駅始発にした場合は395.9kmで3位。もう少しで「宗谷」も超えるけれど……、数字遊びはこのくらいにしておこうか。

東京都区内から仙台市内へ、常磐線を縦貫する特急列車の運行が始まったら、ぜひ全区間通して乗りたい。そして復興に取り組む福島県浜通りを訪問したいとも思う。特急列車の運行再開に向けて、観光などの取組みも始まるだろう。楽しみだ。