大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)は4月19日、中期経営計画の改定を発表した。同社は昨年7月、1回目の中期経営計画を発表している。ただし、進捗を確認しながら随時、事業戦略を練り直す方針だという。今回の改訂について、開業から1年が経過した段階で経営状況を総括するとともに、大阪万博の開催決定も踏まえたと説明する。

  • 大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が中期経営計画を改定(写真:マイナビニュース)

    大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が中期経営計画を改定

昨年7月に策定された中期経営計画は、対象年度を2018~2024年度の7年間としていた。開業わずか3カ月後の発表で、いわば「助走」しながらの策定だった。

改訂版は1年延長され、2018~2025年度の8年間を対象としている。2018年度を総括し、経営体質を確認した上で、改めて中期経営計画を作ったといえるだろう。期間の1年延長は、昨年末に決定した大阪万博の2025年開催に向け、「大阪万博までにここまでやる」という強い意志が込められている。

経営指標としては、2024年度に売上2,100億円、営業利益430億円を当初の目標として掲げていた。売上の27%、営業利益の33%は非鉄道部門とされた。改訂後は2025年度に売上2,500億円、営業利益710億円を掲げ、非鉄道部門の比率は売上の32%、利益の36%。非鉄道事業の成長率を年平均14%と見込んでいる。

改訂前の中期経営計画では、大阪市営地下鉄の民営化計画を上回る目標を掲げたという。それを踏まえて、1年後にさらに高い目標を設定している。実現に自信ありといったところか。東京メトロの2017年度の非鉄道部門営業収益は約11%だったから、Osaka Metroはそれを上回る比率で急速に多角化を推進するつもりのようだ。

具体的には万博終了後の夢洲でIR(カジノを含む統合型リゾート)と歩調を合わせ、大阪の新たな活力拠点を作る。その他の地域も2019年度から地上の商業施設の運営に参入するほか、住宅事業として2019年度に新築賃貸マンションを運営し、2022年度目標で上本町六丁目において集合住宅を中心とした開発を行うなど、12の案件が進行中。2022年度には、ホテル事業やアミューズメント施設にも参入するという。

市営交通の本分、民間企業への配慮といった足かせがなくなり、民間企業となったOsaka Metroが多角経営にチャレンジする。頼もしい。

■車両更新は継続、自動運転化へ実証実験を実施

鉄道ファンとして注目したい要素といえば、路線と車両の動向に関してだろう。車両については改訂前の中期計画にて、2018~2019年度、2020~2021年度、2022~2024年度の各段階で「順次車両更新を実施」と定めていた。具体的な形式名や外観などは明らかにされていないけれど、訪日外国人需要を見込んだフリーWi-Fiや、調光・調色機能と空気浄化装置を導入する。目的地情報などを提供する車内AIコンシェルジュサービスも2022年度から実施する。

また、車両、駅、地下街を共通のコンセプトでデザインするため、外観の洗練されたイベント列車の導入やレア車両の導入を検討するという。これが楽しみなところ。改訂版では中央線の阿波座駅から夢洲新駅(仮)までの区間で2024年度に自動運転の実証実験を開始し、他の路線も車両の更新時期を踏まえ、順次導入予定としている。このことから、万博会場となる夢洲新駅(仮)への延伸は既定路線となっているようだ。

子会社の大阪シティバスにおいても自動運転を推進する。2019年度にバスの営業所内と路上の実証実験を開始し、2020年度に夢洲、舞洲など4路線で実用化する。改訂前の中期計画では、2024年度に20路線で自動運転バス運行を目標としていた。その段階的な目標が示された形となった。この経験を蓄積し、2025年の大阪万博における万博工事関係者輸送、利用者輸送に自動運転バスを使用する。

■新技術によるチケットレス・キャッシュレス化も

交通系ICカードの普及により、鉄道のきっぷは姿を消しつつある。そんな中、Osaka Metroはさらなる先進技術に挑戦する。顔認証技術を導入して改札を通過可能とし、IC乗車券さえ過去のものにするつもりだ。2019年度に実証実験を開始し、2024年には全駅で実現させるという。将来はゲートレス、つまり改札機さえ不要とする。駅の出入口からカメラで乗客の移動を検知し、自動的に口座から運賃を徴収する。

顔認証技術というと、かなり先進的のように思える。しかし、最近のスマートフォンは顔認証でロックを解除する機能があるし、筆者のノートパソコンも顔認証でログインできる。じっくりカメラを見つめる必要はなく、動作は速い。空港などのセキュリティシステムを調べてみると、歩行中、つまり動いているときの顔も高精度で検知できるようだ。問題は顔を隠している場合で、将来は駅でIC乗車券を取り出す代わりに、いったん帽子とマスクとサングラスを外す風景が見られるかもしれない。

この顔認証技術は改札口だけでなく、駅構内や地下街のショップでも使用するという。IC乗車券に対応する施設はすべて顔認証に変わりそうだ。

その他、得意分野の駅ナカ、地下街の開発、デジタルサイネージの導入、地上の広告空間への進出を着々と進める。顧客の許諾を得た上で、ひとりひとりの生活行動を把握し、最適なサービスを提供する環境も作るとのこと。

Osaka Metroといえば、昨年12月に夢洲新駅として巨大なタワービルを建設する構想や、御堂筋線・中央線の駅に対する奇抜なリニューアルなどを発表し、世間をざわつかせた。駅のリニューアルに関しては、伝統を重んじる人々から反対意見も多かったのか、当初のデザイン案を保留し、「お客さま、地域の皆さまのご意見をお聴きし、反映した新デザイン案を5駅について8月以降順次発表予定」とトーンダウンしている。

同社の中期経営計画は多岐にわたり、今後のITの進化に頼る部分も多い。目論見通りに進むか心配な部分もある。しかし、これだけの構想を打ち出す可能性が、現在のOsaka Metro、そして関西経済にはあるということだろう。