2月6日、さいたま市の鉄道博物館で「鉄旅オブザイヤー2018」の授賞式が開催された。JRグループ、日本民営鉄道協会、日本旅行業協会などが後援する「鉄旅オブザイヤー実行委員会」が、国内の優れた鉄道旅行商品に対して表彰し、鉄道旅行ならではの魅力を発信する。

  • 授賞者の記念写真は鉄道博物館南館のE5系モックアップ前で撮影された。司会は毎年おなじみ吉川正洋さん(ダーリンハニー)と「女子鉄アナウンサー」久野知美さん。お楽しみコーナーには久野さんのマネージャー、南田裕介氏も登場

今年も楽しい旅がたくさんあった。キーワードは「プレゼンテーション」「ツアーのブランド確立」「人材育成」だ。筆者も審査員として参加しており、今回は審査員の立場から受賞作品を紹介したい。

旅行会社部門 グランプリ
JR只見線全線復旧決定祈念!
世界一ロマンチックな鉄道で1000人結婚式を!
ジョイフルトレイン観光トロッコ「風っこブライダルトレイン」で行く!
お花見&ご利益参拝!
開運福袋列車と「お土産どっさり」奥会津15大ご当地グルメ食べ比べ!
株式会社読売旅行山形営業所 JR只見線交流事業実行委員会 日本観光鉄道

読売旅行山形営業所に結婚間近の社員がいたこと、豪雨災害で不通だったJR只見線の復旧が決まったことの2つのおめでたい出来事を組み合わせ、「思い出に残る結婚式を列車で」という発案だった。読売旅行OBで、後に山形鉄道の公募社長も経験した野村浩志氏(日本観光鉄道)が参加したことで企画が組み立てられた。野村氏は2016年に準グランプリを受賞した島原鉄道のツアーにも関わっている。鉄道ツアー感動請負人といえそう。

只見線は小出駅と会津若松駅を結ぶ。そこで「こい(恋)で~あい(愛)づをご縁で結ぼう!」というコンセプトを軸に、只見線の現在の運行区間と沿線を広大なテーマパークとして再定義し、景観や味覚など100のお楽しみを演出。実際の運行区間は会津若松~会津川口間。使用車両は「びゅうコースター風っこ」にキハ40形気動車を2両増結。4組のカップルが交代で人前結婚式を挙行し、「びゅうコースター風っこ」で一般参加者にお披露目するというイベントだった。合計参加者は1,139名、日帰りツアーとしては大規模な動員で、沿線から応援する人々も多かった。

旅行会社部門 準グランプリ
列車から観賞! 東北復興冬花火と貸切三陸鉄道レトロ列車2日間
株式会社JTBメディアリテーリング

東京駅出発の1泊2日ツアー。1日目は新幹線で一ノ関駅へ。バスで中尊寺を観光して八戸駅へ。八戸線の八戸~久慈間で夜に「リゾートあすなろ」車両の臨時便を運行。メインイベントは車窓から眺める東北復興冬花火大会で、列車の走行と音楽と花火の打ち出しをシンクロさせたショーを行った。田野畑駅付近で宿泊し、翌日は三陸鉄道の旅を経由して東京に戻る。

鉄旅オブザイヤーの審査にあたり、審査員には所定の審査票の他に、募集時のパンフレットや実施時の写真などが資料として届けられるけれど、このツアーでは審査資料として、約7分間の動画ファイルが提供された。メインイベントの「列車から観賞する花火」の記録映像だ。素晴らしい映像作品に感動しつつ、これは反則ではないかと思ったけれども、規定には参考資料のメディアの指定はないので有りだろう。

花火と会場で流れる音楽の同期イベントは前例がある。ただし、今回の音楽は列車の中。タイミングが悪いと台無しになる。オーディオのスイッチを入れた担当者の緊張がこちらにも伝わってきた。映像資料の感動に引きずられないように心がけたつもりだけど、これだけの手間と経費、関係者の尽力の結果を見ると高く評価したかった。どんな旅もそうだけど、紙だけでは良さが伝わらない。

  • 授賞式のプレゼンテーションでも列車とシンクロする花火の映像が紹介された。もっと多くの人々に見てもらいたい

もう一度実施されるなら、万難を排して参加したい。しかし今回の成功は、天候も含めてすべての条件がそろった奇跡。2度目はあるだろうか。もし予定がないなら、せめてこの映像資料を動画サイトなどで公開してほしい。

旅行会社部門 審査員特別賞
クラブツーリズム特別貸切運転! ありがとう旭山動物園号!!
クラブツーリズム株式会社 JR販売センター

羽田空港出発の1泊2日。タイトルに「旭山動物園号」とあるけれども、主題は「旭山動物園号」に使われている特急形気動車キハ183系だった。スラントノーズという独特の先頭車形状を持つキハ183系は鉄道ファンに人気の車両。うち1編成が「旭山動物園号」としてラッピングされ、車内にも動物をアレンジしたしかけがたくさんあった。人気のある列車だけれども、2018年3月に引退した。その引退前に旭川発札幌行として貸切運行を実施した。宿泊地として旭川の温泉ホテル、または札幌の一流ホテルの2コースを設定。日帰りタイプも用意した。もちろん旭山動物園も組み込まれている。

企画担当者の高橋美穂氏は新千歳空港駅の「みどりの窓口」で勤務した経験がある。10年間も運行された「旭山動物園号」は非常に人気があり、予約で埋まる。空港に到着した希望者に、満席のため売ることができず、断る毎日だったという。もうひとりの担当者、大塚雅士氏は数々の鉄道ツアーを成功させたベテラン。「鉄旅オブザイヤー2017」では貨物線の旅でグランプリを獲得している。

この企画は高橋氏の「旭山動物園号にもっとたくさんのお客様を乗せたかった」という悔しさと、大塚氏の「ありがとう183系」の思いが重なって生まれた。孫に乗せてあげたいという願いを叶えた老夫婦、九州から参加した親子、車両への惜別の思いを隠さない父親など、さまざまなドラマを乗せて走った。「旭山動物園号」が引退した現在、札幌~旭川間では789系による「ライラック旭山動物園号」が運行されている。この列車の引退時も、新たなドラマが生まれるかもしれない。

旅行会社部門 DC賞
<ひとり旅>近畿・中国鉄道コンチェルト 第1楽章
~日本海の美景と美食を訪ねて… 3つの貸切列車が繋ぐご縁の章~ 3日間
クラブツーリズム株式会社 第3国内旅行センター

DC賞はJRグループが開催するディスティネーションキャンペーン(DC)に合わせた旅行企画に贈られる。2018年のキャンペーン目的地は冬の京都、春の栃木、夏の山陰(鳥取・島根)、秋の愛知だった。受賞作は山陰を目的地とし、9月に2泊3日の日程で実施された。

1日目は東京発。新幹線「のぞみ」グリーン車から特急「やくも」のパノラマグリーン車で松江へ。一畑電車に乗り換え、車内で松江の茶の湯文化を楽しむ。出雲大社付近のリゾートホテルに宿泊し、翌日は観光列車「あめつち」で鳥取の温泉旅館泊。3日目は天橋立へ向かい、京都丹後鉄道の観光列車「丹後くろまつ号」で西舞鶴へ。京都駅からグリーン車で戻る。

山陰DCに合わせてデビューした「あめつち」を早速取り込み、デハニ50形体験運転も組み込むなど鉄分高め。出雲大社の早朝参拝、夕日鑑賞など観光要素もしっかり押さえている。

クラブツーリズムは鉄道企画旅行で定評がある。「コンチェルト」シリーズは本作品が23作目。「コンチェルト」は上質な列車と宿、特別な体験を組み合わせたブランドとして定着した。「コンチェルトに参加するために会員になった」「コンチェルトだから参加したい」という会員も多いことだろう。鉄道ツアーに「ブランド」があると、参加者は品質に安心できるし、企画する側もクオリティを維持する責任と誇りが生まれる。次はどんな趣向で開催されるか楽しみだ。

旅行会社部門 ルーキー賞
夏だ! 花火だ! SLだ! SL大樹乗車&2018日光花火観賞
東武トップツアーズ株式会社 東武旅倶楽部

下今市~鬼怒川温泉間を「SL大樹」で往復するツアー。行きは「呑み鉄列車」を主題とし、1人あたりビール6本とおつまみ弁当を提供。帰りは大谷川橋梁を徐行するときに合わせて花火大会開始のスターマインを打ち上げ、花火大会実行委員会との連携が行われた。その後、下今市駅のSL転車台広場をSL列車利用者限定とし、ゆったりと花火を鑑賞した。

準グランプリに通じる花火企画。こちらは日光花火大会の開催に合わせて「SL大樹」を運行した。大仕掛けはないけれども、その分、日帰りで9,000円以下という低価格を実現している。「呑み鉄」要素に力が入っており、キンキンに冷えたビールを提供するため、レンタカーの冷凍車を借りてSL列車の後を追いかけたという。

「SL大樹」は全国のSL列車の中でもとくに運行時間が短く、ツアーの主題になりにくいと思っていたけれど、往復利用と鉄橋徐行時の花火という演出は良いアイデアだ。大量にビールを提供しても、各所にトイレがあるという安心感も好評だったという。次回開催予定もあるとのことなので、参加したい人は早めに宿を確保して申し込もう。いや、ホテル付きツアーがあるともっといい。

一般部門 ベストアマチュア賞
みんなが幸せに ~KUMAMOTO EASTER~
駿台観光&外語ビジネス専門学校 芝谷沙那さん

一般部門は旅行会社と関係なく、誰でも参加できる部門だ。自分が参加したい旅、旅行会社となって企画したい旅などを応募できる。受賞作品は熊本地震の復興半ばの地域を活性化させたいという目的で企画された。熊本空港を起点とした1泊2日。初日は南阿蘇鉄道の未復旧区間の駅を訪れ、トロッコ列車に乗り、パワースポットなどを巡る。翌日もパワースポットを含む観光、熊本名物「桂花ラーメン」の総本店で締めくくる。

芝谷さんはいわゆる「鉄子」ではないとのこと。プランを見れば、トロッコ列車に乗る以外は車での移動となっている。宿は「泊まれる天文台」こと南阿蘇ルナ天文台・オーベルジュ「森のアトリエ」だ。夕食はフレンチで、星空を見るツアーもあるという。女子旅にぴったりのツアーとなっている。

応募作品の中で最も「鉄分」の少ないツアーだった。しかし、筆者も1票を投じた。それは「魅力的な女子旅ツアーに南阿蘇鉄道を組み込んでくれた」という感謝の気持ちによるものだ。「鉄子」ではなくても、この旅をきっかけに鉄道を好きになってほしい。

「鉄子」ではない芝谷さんが応募した理由は「授業の課題だったから」。なるほど、旅行や観光を学ぶ学校で、本賞が目標になっているとは素晴らしい。旅行学校の甲子園のような存在になったら、審査員として喜ばしく、誇らしい。芝谷さんは旅行会社に就職が決まっているという。今後の活躍と旅行会社部門での再登場を期待しよう。

  • 授賞式終了後の「おまけコーナー」。吉川正洋さん、久野知美さん、南田裕介氏が平成の鉄道を振り返った。5位は「SLが各地で復活」、4位は「鉄道博物館が全国で続々開館」、3位は「さよなら・ありがとうブルートレイン」、2位は「新幹線の路線が拡大」、1位は「豪華列車&観光列車が各地で大活躍!!」だった

今年の鉄旅オブザイヤーでは、いくつか気付きがあった。まず、動画資料という新しいプレゼンテーションが行われたこと。鉄旅オブザイヤーは、良い旅を作っただけでなく、その旅の素晴らしさを余すところなく伝えるプレゼンテーション能力も求められる段階に来たと思う。

そして「ツアーのブランド化」。いままでは旅行会社の中で、価格やホテルの品質など一定の条件を満たすブランドがあった。たとえば日本旅行の「赤い風船」。あるいは旅行会社の社名より覚えやすくという意味で統一ブランドが採用されたJR東日本の「びゅう」だ。一方、クラブツーリズムの「コンチェルト」は、「鉄道をテーマとしたハイクラスツアー」というブランドを確立している。

最後に、駿台観光&外語ビジネス専門学校のように、鉄旅オブザイヤーが「教材」あるいは「目標」となって人材育成に貢献している。審査員として、旅行業界への貢献だけでなく人を育てる責任も感じた。次年度も襟を正して審査に臨みたい。