いすみ鉄道に転換期を予感させる発表があった。公式サイトによると、大多喜駅と国吉駅の売店を1月31日で閉店するという。大原駅売店は存続する。いすみ鉄道では「いすみ揚げ」などオリジナルグッズを販売しているけれども、「お土産品の購入については、大原駅売店をご利用ください」とのことだ。
2つの売店の閉店はいすみ鉄道ファンにとって寂しいニュースといえそうだ。とくに国吉駅の売店「VALLEY WINDS」はムーミングッズ専門店としても知られていた。いすみ鉄道とムーミン谷の仲間たちのコラボレーショングッズもあり、日本で数少ない「ムーミンファンの聖地」でもあったはず。閉店の理由は明らかにされていないけれども、大原駅の売店は残るとのこと。いまのところオンラインショップも続くようで、おそらくは売上とコストが見合わないといったところだろう。残念なお知らせだ。
大原駅の売店が存続するとはいえ、大原駅はJR外房線の駅であり、いすみ鉄道に乗らない人もいすみ鉄道グッズ買える。それも良いことだけど、いすみ鉄道に乗った上で、大多喜駅や国吉駅でお土産を買いたいという人も多いのではないか。大多喜駅・国吉駅限定グッズがあれば、「いすみ鉄道に乗りに行こう」という吸引力になったはず。実際、国吉駅では駅弁も販売していた。熟慮の末の決断だったと思うけれども、もったいないと思う。せめて駅弁だけでも続けてほしい。
グッズ販売はオンラインショップがあるから店舗所在地にこだわらないかもしれないし、実際、筆者もオンラインショップでカレーを買っていた。しかし、現在、オンラインショップを見ると、筆者が好きだった2人前入り1,000円のカレーも、名物の「キハカレー」もない。後発の「キロカレー」はあるけれども、全体的に品数が減った印象がある。
気になることとして、2つの売店の閉店を発表した翌日、12月28日に「いすみ鉄道福袋」「いすみ鉄道オリジナルムーミン福袋」を発売するとのお知らせが掲載されている。「いすみ鉄道福袋」は12月29日から販売され、大多喜駅・国吉駅・大原駅売店で扱う。価格は4,000円。「いすみ鉄道オリジナルムーミン福袋」は1月1日から国吉駅で販売。価格は5,000円。オンラインショップ扱いはなく、現地限定品である。現地に行きたい気持ちにもなるけれど、店舗閉鎖を発表した後のタイミングだと「在庫処分」に見えてしまう。
いすみ鉄道の売店事業推移(円) | ||||
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年度 | 営業収益 | 仕入原価 | 営業諸掛費 | 収支 |
2013(平成25)年度 | 73,936,644 | 41,868,276 | 17,139,757 | 14,928,611 |
2014(平成26)年度 | 82,042,507 | 48,142,747 | 20,478,157 | 13,421,603 |
2015(平成27)年度 | 79,551,900 | 52,904,239 | 23,640,597 | 3,007,064 |
2016(平成28)年度 | 58,914,293 | 38,047,837 | 21,081,096 | -214,640 |
2017(平成29)年度 | 49,238,935 | 30,592,972 | 19,792,439 | -1,146,476 |
いすみ鉄道の決算報告書を追ってみた。2013(平成25)年度は売上が7,393万6,644円。仕入れ原価と営業諸掛費が5,900万8,033円。黒字額は1,492万8,611円。2014(平成26)年度の黒字は1,342万1,603円。ところが、2015(平成27)年度の黒字は300万7,064円と大きく減少した。2016(平成28)年度はついに赤字となって-21万4,640円。2016(平成28)年度は赤字が100万円台に達して-114万6,476円となった。なるほど、当初は新規事業として1,000万円以上を稼ぐほど好調だったものの、現在は赤字のお荷物になっていたわけだ。
2018年、いすみ鉄道の社長が交代した。前任の鳥塚亮氏が任期満了で退任し、新たな公募社長として古竹孝一氏が11月7日に就任したばかり。千葉日報の11月9日付記事「いすみ鉄道・公募社長に古竹さん 就任会見で抱負」によると、古竹氏は高松市でタクシー会社や広告代理店などを経営し、その会長職といすみ鉄道社長を兼務する。運輸業を経営し、高松琴平電鉄の飲食イベントなどを企画した実績も評価されたという。
古竹氏は就任後の記者会見で、「いくつかのイベントはバージョンアップして引き継ぐとともに、新事業も考えたい」と抱負を語りつつ、「今のままではだめ」とも述べている。これまでの施策を見直す姿勢のようだ。また、「何かアクションを起こさないといけない」とも語る。経営のプロとして、まずは不採算事業の縮小と撤退、それが駅売店の閉店という形で現れたということか。
前社長が手がけ、強力な発信力で集客したレストラン列車などが今後どうなるか。運転士希望者が訓練費を自費負担する自社養成運転士制度はどうなるか。
「ムーミンの鉄道」が今後も続くかも気になる。今年3月、埼玉県飯能市に大規模な「ムーミンバレーパーク」がオープンすると、いすみ鉄道にムーミン目当てで来訪する観光客に影響がありそうだ。それを見越しての国吉駅ムーミンショップ閉鎖かもしれない。
2019年、いすみ鉄道がどんな鉄道になるか、とても興味深い。