11月23日、BIE(博覧会国際事務局)はパリで総会を開き、2025年の国際博覧会開催地を大阪に決定した。会場予定地は大阪市西部の人工島「夢洲(ゆめしま)」だ。今後、会場の整備と合わせて、アクセス手段の準備が急がれる。鉄道ファンの期待することは2つ。アクセス路線の開業と、博覧会で提案される交通システムだろう。
夢洲は大阪北港にある人工島で、埋め立て工事が完成すれば総面積は約390haになる。現在の交通手段は道路のみ。北側の舞洲(まいしま)から夢舞大橋、南側の咲洲(さきしま)から夢咲トンネルが通じている。どちらも歩行者や自転車は通行できず、公共交通手段は北港観光バスのコスモドリームラインのみ。
このバスは咲洲のコスモスクエアを起点とし、舞洲を周遊するルートとなっている。夢洲は単なる経由地で、「夢洲ヨコレイ前」「夢洲コンテナターミナル前」の2停留所があり、運行本数は1時間あたり2~3本である。現在の稼働施設はコンテナ埠頭と倉庫会社のみ。従事者はクルマ利用者が多いだろうから、これでもいいのだろう。
当連載第73回「大阪市営地下鉄が民営化へ、中央線の夢洲延伸構想も前進?」(2017年6月7日掲載)にて、夢洲の鉄道アクセス路線計画を紹介していた。夢洲は万博構想の前に、2008年夏のオリンピック招致を計画した場所だった。最近では万博のほか、カジノを含む統合型リゾートの建設予定地としてもしばしば話題になっている。いずれにしても、大阪中心部からはかなり離れた人工島だけに、利用を促進するために軌道系アクセスを整備する必要はある。
当時の夢洲の交通アクセス計画は3つのルートがあった。地下鉄中央線を終点のコスモスクエア駅から延伸する案、JRゆめ咲線(桜島線)の桜島駅から延伸する案、京阪中之島線を中之島駅から延伸し、JRゆめ咲線と一定の距離を置いて並行させる案である。
このうち、最も低コストかつ短期間で完成が見込まれるルートは地下鉄中央線だろう。コスモスクエア駅のある咲洲と夢洲を結ぶ夢前トンネルは、道路整備と同時に地下鉄用の空間が確保されている。あとはコスモスクエア駅とトンネル、夢洲内の路線を建設して、トンネル内の設備を整えれば完成する。建設費は約540億円と概算されていた。
次に実現性の高いルートはJRゆめ咲線の延伸。建設費概算は約1,700億円。こちらはJR西日本が今年4月に発表した「中期経営計画2022」にも盛り込み済み。なにわ筋線、北梅田(仮称)駅と組み合わせ、大阪の国際都市としての魅力向上に貢献したいという。JRゆめ咲線は現在、午前中と夕夜間に大阪環状線と直通運転を実施している。沿線にユニバーサルシティ駅があり、映画をテーマとした遊園地「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」のアクセス路線として知られる。
北梅田(仮称)駅にはおおさか東線が乗り入れる構想がある。おおさか東線新大阪~放出間は当初、2012年の開業予定だった。しかし、北梅田乗入れの準備として新大阪駅周辺の改良工事が追加されたため、開業が7年遅れたという経緯がある。新大阪~北梅田(仮称)間は梅田貨物線を転用するため、JRゆめ咲線から梅田貨物線(おおさか東線)経由で新大阪駅を結ぶルートも有望といえる。万博会場と新大阪駅を直結するという利便性は大きい。2025年までの7年間で、ぜひ実現してほしい。
京阪中之島線の延伸については、少し事情が変わってきた。中之島~西九条~夢洲のルートは2004年の近畿地方審議会答申第8号に盛り込まれている。これを受けて、京阪電気鉄道はひとまず西九条駅まで検討しつつ、自社開発は難しいとの見解を示した。その後も関連会社がユニバーサルシティにホテルを開業するなど関心を示しており、夢洲から先、咲洲のワールドトレードセンターも視野に入れるという経営幹部の発言もあった。
しかし、現実的な視点になると、2017年に経由駅をJR西九条駅から地下鉄中央線の九条駅へ構想を変更するという社長発言があった。夢洲へ延伸しやすい地下鉄中央線に接続したほうが、当面は夢洲につながりやすいという判断だったようだ。阪神電気鉄道との直通運転も検討するという。
さらに2018年2月、京阪電気鉄道は九条駅から西九条駅の延伸案も明らかにしている。JR西日本がJRゆめ咲線の延伸を中期計画に盛り込んだことに加えて、近畿地方審議会答申第8号のルートに沿いたいという意思の表れといえる。桜島~舞洲間・舞洲~夢洲間については、JR西日本と京阪電気鉄道が共有する線路を敷くという選択肢もある。関西空港連絡橋でJR西日本と南海電鉄が実施する枠組みと同じで、線路設備を自治体が保有し、JR西日本と京阪電気鉄道が運行する方式だ。
関西空港連絡橋のような上下分離型の整備によって、建設にかかる鉄道会社の負担も減らせる。夢洲の交通アクセスを整備するために、この方法が早道かもしれない。さらに議論を深めるならば、いっそ京阪が西九条付近でJRゆめ咲線に直通する案も考えられる。
新しい会場内交通システムの提案も期待
蛇足ながら、万博といえば新しい乗りものを提案する場でもある。こちらも期待したいところだ。2005年に愛知県で開催された「愛・地球博」では、トヨタ自動車が「IMTS(Intelligent Multimode Transit System)」という自動運転バスを出展した。専用道では路面に埋め込んだマーカーを車両側で読み取って自動運転を実施し、混合交通路では運転手が操作する。専用道を走るため鉄道事業法に準拠し、法改正も行われた。そのためか、運用中も停留所は「駅」、車両は「列車」と呼んでいた。
会場と名古屋市営地下鉄東山線藤が丘駅を結ぶ交通手段として、愛知高速交通東部丘陵線が開業した。「リニモ」の愛称で親しまれる磁気浮上式鉄道だ。日本で初めての完全磁気浮上式リニアモーターカーである。このシステムの基礎は、日本航空が開発したHSST(High Speed Surface Transport)だった。1989年の横浜博覧会で営業運転した実績があり、開発は日本航空から名古屋鉄道を中心としたチームに引き継がれた。
「愛・地球博」は会場が長久手と瀬戸に分かれており、2地点を結ぶ乗り物としてロープウェイが設置された。「モリゾー・ゴンドラ」「キッコロ・ゴンドラ」と呼ばれ、会場を展望する乗り物として人気だった。乗降場などは車いす対応で、後のバリアフリーな交通機関の先取りでもあった。住宅地を通過する約2分間、窓ガラスが液晶シャッターで曇りガラスになるしかけもあり、都市型ロープウェイに必要な装備として話題になった。
両会場を結ぶ乗り物には燃料電池バスがあった。長久手会場の空中回廊「グローバル・ループ」では、バッテリー駆動で走る「グローバル・トラム」もあった。1編成3両の自動車とトレーラー客車で、歩行者と共存できる乗り物を提案していた。この車両は現在、山口県岩国市の未成線観光ルート「とことこトレイン」で活躍している。
振り返れば、IMTSは現在注目される「クルマの自動運転」の先駆けといえた。リニモは都市型交通システムとして海外でも検討されている。都市型ロープウェイは江東区や福岡市が検討している。燃料電池バスは実用化されているし、グローバル・トラムはいま話題の「MaaS(Mobility as a Service)」の一翼を担うかもしれない。
そう考えると、万博は次世代交通の実験場としても興味深い。「愛・地球博」のテーマは「自然の叡智」だった。それでもJR東海がリニアモーターカーを展示するなど、交通分野の出展が多かった。2025年大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、サブテーマは「多様で心身共に健康な生き方」「持続可能な社会・経済システム」とのこと。どちらも交通の技術革新、新たな交通システムの提案に通じる。大いに期待したい。