現在、国内のほとんどの鉄道において盲導犬や介助犬の乗車は認められているけれど、ペットの犬を乗せるには規定サイズ以下のケージに入れる必要があった。したがって、大型犬は不可である。しかし筆者も含め、愛犬家の多くは「犬と一緒に遠くへお出かけしたい」と思っている。できればケージに閉じ込めないで。大型犬も一緒に。
日本経済新聞の10月18日付の記事「ひたちなか海浜鉄道、愛犬と乗れる列車 11月11日運行」によると、茨城県のひたちなか海浜鉄道が犬と一緒に乗れる列車「わんわんライド湊線」の開催を発表。沿線の犬好きさんから「ヨーロッパではペットの犬と乗れるのに」などと要望があったという。それを実現させてしまうとは懐が広い。
「ひたちなか海浜鉄道はヨーロッパ化したいのか……」なんて冗談はさておき、沿線の人々の要望をひとつずつ実現しようとしてくれる心意気がうれしい。きっといままでも沿線の要望を叶えてきただろうし、今後も沿線の人々のアイデアを吸収して、もっと愛される鉄道になっていくに違いない。
「わんわんライド湊線」は日経記事の見出しの通り、11月11日に開催される。言うまでもなく「1」が並ぶから「ワンワン」である。ひたちなか海浜鉄道の公式サイトに掲載された情報によると、通常運行の列車に犬と乗車できる車両を増結するとのこと。該当列車は那珂湊駅8時59発の阿字ヶ浦行からスタートし、阿字ヶ浦駅から勝田駅まで6往復、最後に勝田駅から片道運行して、那珂湊駅に17時59分着となっている。ほぼ日中は運行しているから、複数の駅や駅周辺を巡ってお散歩できる。利用するためには、飼い主は乗車区間の運賃が必要。1日乗車券の利用可。犬は1回乗車あたり260円が必要となる。
犬連れで乗れる列車としては、西武鉄道が2010年11月20日に「いぬでん」を実施した。これは西武遊園地で開催された犬関連のイベントに合わせ、「愛犬と一緒に行きたい」という要望に応えた企画だった。西武新宿~西武遊園地間の団体専用列車が1往復。100組限定の予約制で、応募多数の場合は抽選だった。動物病院院長の監修の下に企画され、獣医師と獣看護師も乗車し、保険会社も協力するという入念な内容だ。
ただし、犬は1歳以上9歳未満。乗車前、つまりプラットホームでは「3辺の合計が90cm以内で、1辺の長さが70cm以内の容器に入れること。容器に収容した重量が10kg以内」となっていて、大型犬は不可能、小型犬であっても1歳未満のパピーと高齢は不可であった。
西武鉄道に比べると、ひたちなか海浜鉄道の「わんわんライド湊線」は良い意味でゆるい。遵守事項は「車内では引き綱等でしっかりと支えていただくようお願いします」のみ。人数制限なし、予約も不要。車で来場する場合は駅の駐車場を利用してほしいとのこと。これを見る限り、大型犬も乗れるし、高齢犬も大丈夫。さすがに1歳未満は遠出のお散歩自体がよろしくないけれど、犬を飼っている人なら常識だろう。
つまり、獣医が乗るような手厚いケアはしないかわりに、「飼い主の責任とモラルを信じます」という感じがする。狂犬病などの予防接種の証明についても記載されていなかった。これも飼い主のモラルに委ねられている。ドッグランというより、公園の散歩の延長に列車がある。トイレのしつけは大切だし、車内ではマナーパンツも着用させたい。
注意点としては、列車は勝田~阿字ヶ浦間の全区間を走るけれども、利用可能な駅は日工前~阿字ヶ浦間の各駅に限定される。勝田駅はJR東日本と共用となっているため、「わんわんライド湊線」としては利用できない。阿字ヶ浦方面から勝田駅に到着した場合、降車せずに折り返す必要がある。もちろん折り返す時点で新たな運賃が発生し、新たなペット乗車料金が発生する。沿線の人々は気軽に散歩に出かける感覚で利用できそうだ。犬好きの筆者としては、沿線に住む人々の散歩コースが広がってうらやましい。
しかし、沿線外に住んでいる人で、この機会に「ひたちなか海浜鉄道に乗ってみたい」と思う愛犬家はどうしたらいいだろう。まず考えられる方法として、「最寄り駅までクルマで行き、公共駐車場を利用する」が挙げられる。那珂湊駅と阿字ヶ浦駅は隣接する駐車場がある。その他の駅でもコインパーキングなどを見つけて駅までお散歩すればいい。なお、金上駅には駐車場がないとのこと。この方法なら大型犬も大丈夫だ。
小型犬の場合は電車も利用できる。勝田駅は利用できないという趣旨だけど、これは「わんわんライド湊線」の遵守事項である。JRなど多くの鉄道会社はペットを「有料手回り品」として扱い、ルールを定めている。そのルールに則ってJR常磐線で勝田駅へ行き、ひたちなか海浜鉄道も勝田駅から日工前駅まで「手回り品」として乗車すればいい。日工前駅または任意の駅でペット専用車両に乗り換え、改めてペット乗車料金を支払う。愛犬はこの段階で「手回り品」というモノ扱いからペット乗車扱いになる。
ちなみに、JR東日本の手回り品規則では「長さ70cm以内で、タテ・ヨコ・高さの合計が90cm程度のケースに入れる」「ケースと動物を合わせた重さが10キロ以内」「駅や車内ではケースから出してはいけない」「手回り品料金は、1個につき280円」「乗車になる駅の改札口などで荷物を見せて普通手回り品きっぷを購入する」となっている。残念ながら大型犬は乗れないけれど、規定サイズのケージに入れた小型犬は連れて行ける。ひたちなか海浜鉄道もこのルールでOK。ただし手回り品料金は260円だ。
「わんわんライド湊線」の面白いところとして、「ペット連れではなくても乗車できます」という一文がある。犬好きなら乗ってみたい。やさしい飼い主さんならふれあいの機会も作ってくれそうだ。本当に「散歩に行く公園」感覚のようだ。
トラブルなく成功したら定例化されるかもしれない。犬を飼う人。飼ってないけれど好きな人、これから犬を飼いたい人が、犬選びの参考にする場、飼い主さんにアドバイスをもらえる場所、そういう列車になってくれたらうれしい。
ところで、ひたちなか海浜鉄道といえば那珂湊駅の駅ネコ「おさむ」「ミニさむ」が人気。犬好きより猫好きによく知られている路線かもしれない。もしかしたら、2月22日は「にゃんにゃんライド湊線」もあるだろうか……。