山梨日日新聞が9月24日、「富士登山鉄道 県が検討会 近く庁内に設置 効果、実現性探る」と題して速報した。今回は山梨県が中心的な立場となって検討会を設置するという。2013年に盛り上がった「富士山登山鉄道」の構想が5年ぶりに動き出すようだ。

  • 「富士山に一番近い鉄道」と紹介される富士急行線。「富士山登山鉄道」の構想はは富士急行社長が2013年に提案している

翌25日の読売新聞記事「富士山5合目と麓を結ぶ鉄道、実現目指し検討会」によると、検討会の委員は、JR東日本や地元経済・観光団体の代表者、前山梨県知事で都留文科大理事長の横内正明氏など。検討会の運営は認定NPO法人・富士山世界遺産国民会議が担うという。かなり具体的な内容となっている。

産経新聞は9月25日付で「山梨知事、富士山の登山鉄道で検討会設置」と報じた。県議会の質問に現知事の後藤斎氏が回答したという。これで情報は確定的になった。民間主導ではなく、県が積極的に関わる姿勢を見せた点で、いままでの構想から一歩進んだといえそうだ。その後の報道で後藤氏は検討会の運営委員長代理に就く予定と語っている。

富士山に登山鉄道を建設しようという構想は古くからある。明治時代の鉄道建設ブームから、ケーブルカーや地下鉄道などさまざまな形で提案されていた。しかし、富士山は信仰の対象であり、自然破壊の懸念などから実現しなかった。その後、1964年に有料道路「富士スバルライン」が開通した。前回の東京オリンピックに合わせた観光投資ブームとマイカー文化の定着が後押しした。

その後も鉄道建設の構想が立ち上がったものの、「道路があれば鉄道はいらない」という情勢だったようだ。公害が社会問題となり、富士スバルラインの環境破壊という負の側面も指摘する声が上がっていた。そこへ新たに鉄道を敷けば環境破壊に拍車がかかるという見方もできる。

ところが、1997年の京都議定書の採択をきっかけに環境問題への関心が高まる。「鉄道は環境に優しい」「CO2削減は自動車の排気ガスから」という世論が広がると、鉄道、とくに電車が見直される。その流れはおもに路面電車のLRT化、路線復活や新路線の検討という動きに向かっていたけれども、自然の多い地域の観光鉄道も見直された。

こうした時代背景に「富士山を世界文化遺産登録に登録しよう」という運動が重なる。2013年に世界文化遺産登録が決定すると、国内外からの観光客が増えると予想された。自動車の排気ガスによる環境破壊を低減し、観光客急増に対応したい。そこで「富士スバルラインを撤去し、観光鉄道にしよう」という大胆なプランが提案された。商工会議所会頭でもある富士急行社長が発表し、富士五湖観光協会や、当時の山梨県知事も賛同した。2015年には富士五湖観光連盟が「環境保全のために富士スバルラインへ鉄道を整備することが望ましい」と報告書をまとめたという。

  • 富士スバルラインの正式名称は「富士山有料道路」山梨県道路公社が運営する(国土地理院地図より)

ただし、今回の流れは「県知事選を見据えた一過性の動き」との冷ややかな見方もあるようだ。来年、山梨県知事は2019年2月に任期満了となり、年明けに知事選挙が行われる。読売新聞の9月26日付記事「長崎前衆院議員、知事選に出馬表明」によると、知事選に立候補した長崎幸太郎氏が「検討会設置に尽力した」とアピールしたという。

山梨県知事選は現在、現職を含めて5人が立候補する見込みで、現職は旧民主党所属。長崎氏は自民党だが、自民党県連は長崎氏以外の候補も検討しているといわれる。地元有力者である富士急行社長は新聞報道で「富士山登山鉄道」の盛り上がりを期待するとコメントした。現職と長崎氏が早々に「富士山登山鉄道」を公約に掲げることで、他の候補をリードしたともいえる。

他の3人の候補が「富士山登山鉄道」に反対して当選すれば、「富士山登山鉄道」はまた立ち消えとなる。しかし、3人の候補が選挙戦略として賛成に回り、選挙の争点を鉄道から外すかもしれない。この場合、結果として「富士山登山鉄道」は候補者全員の合意事項となり、「富士山登山鉄道」実現に向けて動き出すはずだ。

鉄道建設を選挙公約にするとは、明治時代から続く「我田引鉄」のようで前時代的かもしれない。しかし、一鉄道ファンとしては、どんな理由であれ新路線建設は楽しみだ。それが富士山ならなおのことうれしい。今度こそ……という思いは観光業界だけではないだろう。ともあれ、山梨県知事選挙の結果に注目したい。