気象庁は6月末から7月上旬にかけて発生した集中豪雨を「平成30年7月豪雨」と名づけた。7月15日には、安倍首相が「激甚災害に指定される見込み」と述べた。従来、激甚災害指定は被害額が確定されてから閣議設定した。しかし昨年12月から運用が見直され、被害が大きい場合は正式決定を待たずに「見込み」を公表するという。自治体も政府支援を「見込み」、復旧に向けて予算や人員を手配できるようになる。「平成30年7月豪雨」は新しい運用が適用される初の事例となった。
鉄道の被害は甚大で、東日本大震災を超える規模だという。被害の軽度な区間から復旧が始まっているけれども、運行本数の減便、観光列車の運休が続く。夏休みのかき入れ時に観光列車が走らないとなると、観光客頼みのローカル線の存続問題につながる。
「SLやまぐち号」は山口線に大きな被害がなかったにもかかわらず、当面運休となった。蒸気機関車の交代と山陽本線の被災の時期が重なった。7月1日まで任務に就き、点検のために京都の梅小路運転区へ向かっていたD51形は広島で足止め。山陽本線は三原~海田市間・柳井~徳山間で長期の運転見合わせが見込まれ、迂回路になりそうな路線も不通となった。D51形は京都方面にも新山口方面にも行けず、閉じ込められてしまった。
C57形は梅小路運転区で車軸を修理し、7月21日から運行予定だった。しかし、山陽本線の不通によって新山口駅へ行けない。山陰本線を迂回して回送できるか。JR貨物も長期不通となっている山陽本線の迂回ルートとして、山陰本線経由を検討していると報じられている。山陰本線は益田~東萩間で不通となっていたけれど、7月21日に復旧予定となった。ただし単線のため、仮に貨物列車を走らせるにしても運行本数を増やせない。その場合は山口線も使うかもしれない。「SLやまぐち号」を走らせる余裕があるかどうか。
7月7日出発分から運休していた「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」は7月18日から運行再開した。ただし、7月18日出発の「山陽・山陰コース(周遊)」は山陽区間が山陰区間に振り替えられ、山陰本線浜田駅で折り返すルートとなった。8月1日出発の「山陽コース(下り)」は「山陰コース(下り)」に変更となった。
木次線のトロッコ列車「奥出雲おろち号」も7月末までの運休が決まった。8月の運行は未定とのこと。木次線は出雲横田~備後落合間が運転見合わせとなっている。備後落合駅の構内と芸備線・木次線の合流地点に土砂が流入しているという。木次線は名物のスイッチバック区間をはじめ、山沿いの区間が多く、斜面が水分を含んでいると土砂崩れのおそれがある。木次線は宍道駅から出雲横田駅まで運行しているけれども、こんどは猛暑でレールの温度が上がり、たびたび運休・点検という状況である。
京都丹後鉄道の食事付き観光列車「丹後くろまつ号」は7月31日まで運休。宮津~西舞鶴間が運転見合わせ、バス代行となっているため、観光アテンダントが添乗する「丹後あかまつ号」はルートを変更し、福知山~天橋立間で金土日祝日のみ運行する。「丹後あおまつ号」は宮津~天橋立間を運休する。京都丹後鉄道はJR線から直通する特急列車や快速列車も運休するなど減便が多く、夏休みスタンプラリー企画も延期された。
長良川鉄道の観光列車「ながら」も7月中の運休が決まった。路線の中間にあたる美濃市~郡上八幡間が不通となっているためだ。この区間は運行再開のめどが立たないという。鉄道再開区間は代行バスに合わせて時刻が変更されている。
JR四国の予讃線「伊予灘ものがたり」も7月中の運休が決まり、8月も運休するおそれがある。7月29日に予定された運行開始4周年記念式典も延期となってしまった。予讃線は内子線も含む山回りのルートが復旧しており、「伊予灘ものがたり」が走る海回りのルートの運転再開見込みは「早くても2ヶ月後」とされている。山回りルートの運行は可能だけれども、伊予灘を通らない「伊予灘ものがたり」では乗客が納得しないだろう。
平成筑豊鉄道が運行する門司港レトロ観光線(北九州銀行レトロライン)のトロッコ列車「潮風号」も土砂流入のため、「当分の間」は運休とのこと。土砂流入とひと口に言っても、線路が被る程度から山崩れまで、被害の度合いが大きく異なる。早くて即日、長くて2週間程度かと思うけれども、広範囲にわたって被災した場合は復旧予算も人材も限られる。生活路線が優先されるから、観光路線は後回しにされがちだ。
優先順位を考えれば、全国レベルの物流ルートとなる山陽本線の復旧は最優先となり、次に通勤通学路線が優先されるだろう。JR西日本は1カ月以上の運転見合わせが見込まれる呉線を補完するため、呉~広島間でバスとフェリーによる代行輸送を始めた。
その一方で、どうしても閑散区間は後回しにされがちだ。前述の木次線出雲横田~備後落合間や芸備線備後落合~備中神代(新見)間は平均通過人員が少ない。「いつ復旧するか」よりも「多額の費用をかけて復旧するか否か」という協議が始まりそうだ。鉄道軌道整備法が改正されたばかりで、黒字鉄道会社の被災路線も国が支援できるようになった。ただし、無条件に復旧されるわけではない。「民生の安定のため必要な路線」という但し書きがついている。要するに、多くの人々が利用し、生活に支障が出る路線であって、鉄道事業者と自治体が復旧を望まないと国の支援は受けられない。
悲しい知らせが多い中で、運行再開のうれしいニュースも出ている。JR四国の土讃線「四国まんなか千年ものがたり」は7月13日から運行を再開した。JR九州の久大本線は昨年の九州北部豪雨からようやく復活し、特急「ゆふいんの森」などが本来のルートに戻った。肥薩線八代~人吉間は7月19日に復旧し、「いさぶろう・しんぺい」「かわせみ やませみ」「SL人吉」も運行を再開する。
復旧した路線、観光列車に乗りに行き、大いに楽しみ、食事や買い物など経済活動で応援しよう。そのためにも、多くの路線が元通りに復旧してほしい。鉄道ファンとして、なにか応援できる方法はないか。たとえば、発効から1年間、使用当日限り有効の「鉄道復旧基金付きフリーきっぷ」を売ってくれたら、通販で購入して乗る日を待つという楽しみもあっていいと思う。