5月13日、取材で伊豆に行ってきた。JR伊東線・伊豆急行線にはさまざまな列車がやって来るので、眺めているだけでも飽きない。

この日は「THE ROYAL EXPRESS」も走っていた。伊東駅では回送待機中の「THE ROYAL EXPRESS」「IZU CRAILE」や251系「スーパービュー踊り子」、185系「踊り子」が並ぶ。なんと贅沢な光景だろう。伊豆急下田駅では「リゾート21」が真っ赤な車体となった「Izukyu KINME Train」が停車していた。筆者は気づかなかったけれど、伊豆急行の初代レトロ電車も「伊豆急行100系 水族館でんしゃのたび」として走ったそうだ。

  • 251系を使用する特急「スーパービュー踊り子」

2020年からは、さらに新型車両が加わる。JR東日本は5月8日、伊豆方面の新たな観光特急列車としてE261系を導入すると発表した。伊豆の列車旅がますます面白くなりそうだ。全部乗りたかったら1往復では足りない。何度でも伊豆に通いたくなる。

現在の伊豆方面の列車も多彩で楽しい

現在、伊豆方面の特急「踊り子」に使用される185系は、もともと急行「伊豆」用として設計された。普通列車から急行列車まで幅広く運用する予定だったという。しかし、車両の設計中に「伊豆」の特急列車化が決まった。185系は特別料金不要の普通列車から、特急料金を必要とする列車まで使用される車両になった。普通列車としては贅沢であり、特急列車専用に設計された183系の「踊り子」と比較すると見劣りする車両でもあった。ただし、185系は後に特急列車専用を前提として客室や座席の改装が行われている。それが現在の185系「踊り子」だ。

  • 185系の特急「踊り子」

185系登場の4年後、伊豆急行は2100系「リゾート21」を投入する。同社を代表する観光車両であり、先頭車両に展望座席を備え、劇場のように後席を高くして眺望に配慮した。中間車も座席を海に向けたソファタイプとした。これを普通列車用として導入したから、伊豆急行および東急グループの伊豆へ力の入れ様がわかる。「リゾート21」は快速列車として東京駅へ乗り入れ、後に「リゾート踊り子」としても運行された。

「リゾート踊り子」の人気に手応えを感じたか、JR東日本は「踊り子」の上級版といえる車両を開発する。それが1990年に誕生した251系「スーパービュー踊り子」だった。10両編成で先頭車両は展望席。伊豆側の1・2号車がグリーン車だった。座席はダブルデッカー(2階建て)とハイデッカーで、ダブルデッカーの階下にはグリーン車用ラウンジ、グリーン個室、子供用遊び場が設置された。251系は1992年に2編成が追加され、合計4編成となる。2002年にリニューアル工事が行われ、塗装も変わった。

  • E259系で運行される臨時特急「マリンビュー踊り子」

「踊り子」は近距離用で安価なB特急料金を必要としたけれども、「スーパービュー踊り子」は主力特急用のA特急料金を採用。2012年からE259系を採用した臨時特急「マリンビュー踊り子」が運行開始。こちらもA特急料金となった。「185系は安くしておくけれども、こっちはお高めてすよ」という気持ちがあったかもしれない。

近年、再びリゾート列車ブームがやって来ている。2016年、JR東日本は小田原~伊豆急下田間に食事付き観光列車「IZU CRAILE(伊豆クレイル)」を導入した。背景に全国的な観光列車ブームの成功がある。JR東日本としては、乗客の多い関東圏から観光列車を運行したいという思惑もあったことだろう。「踊り子」より割高な「スーパービュー踊り子」のグリーン車人気も後押ししたと思われる。

  • 651系を改造したJR東日本の観光列車「IZU CRAILE(伊豆クレイル)」

  • 「THE ROYAL EXPRESS」は東急電鉄・伊豆急行が運行

昨年は「アルファ・リゾート21」車両(2100系第5編成)が大改装を受け、東急電鉄・伊豆急行が運行する観光列車「THE ROYAL EXPRESS」が誕生。運行区間は横浜~伊豆急下田間。横浜駅は東急電鉄の路線網とJR東海道本線の接点であり、駅構内に専用ラウンジが設置された。

既存車両の今後については未発表だが…

伊豆方面に限らず、「小田急・箱根・ロマンスカーGSE」「西武・秩父・新レッドアロー(2018年度登場予定)」「東武・日光・リバティ&SL大樹」といったように、関東各地で大手私鉄による観光開発や、そのアプローチとしての列車開発が盛り上がっている。これらは首都圏からの観光地として、伊豆のライバルでもある。JR東日本や東急電鉄・伊豆急行は伊豆を盛り上げていきたい。しかし、対抗するにも185系や251系は老朽化しているし、改造車による施策だけでは弱い。

そこで、JR東日本の新たな一手が新型車両E261系。運行区間は東京・新宿~伊豆急下田を想定しており、「スーパービュー踊り子」と重なる。一部報道では「スーパービュー踊り子」の廃止が取り沙汰されている。しかしJR東日本横浜支社に聞くと、「まず新型を投入すると決めただけで、他のことは何も決まっていません」とのことだった。「スーパービュー踊り子」(251系)は10両編成×4本あり、これをE261系の8両編成×2本で置き換えるとすれば、輸送量も収入もバランスが取れない。当面はE261系による新列車を純増するか、あるいは251系の半分を置き換えるつもりかもしれない。

251系は1990年に2編成導入され、1992年に2編成が追加された。これと同様に、E261系も2年後に2編成を追加して4本とし、そこで251系完全引退というシナリオも書ける。251系は初期の2編成が製造されてから28年経過し、E261系が登場するときには製造から30年になる。その2年後、後期の251系2編成も製造から30年となる。「そこでE261系を2編成追加投入し、251系引退」という見方は大きく外れてはいないだろうと思う。

「踊り子」の185系は製造から35年以上経過している。こちらは中央本線のE257系を転用するのではないかと報じられた。E257系は2001年から特急「あずさ」「かいじ」に投入された車両だ。中央本線は今後、車体傾斜システムを搭載したE353系の増備が進み、E257系は余剰となるため、185系「踊り子」の後任に選ばれた形となる。E257系は房総方面に投入された500番台に余剰車があり、こちらも「踊り子」に組み込まれるかもしれない。グリーン車付きの0番台が伊豆急行線、普通車のみ5両編成の500番台が駿豆線(伊豆箱根鉄道)用となれば、車両数のつじつまは合う。

もっとも、常磐線で「フレッシュひたち」として活躍したE653系が、羽越本線の特急「いなほ」に転用されたときは大幅なリフレッシュ改装を受けている。E257系が伊豆を走るときも、同様に「伊豆らしさ」を強調した仕様になるものと予想される。

今後2年間で、伊豆方面の列車は大転換期を迎える。興味深く注目したい。