最近の小田急電鉄は代々木上原~登戸間の複々線完成、新型特急ロマンスカー・GSE(70000形)のデビューなど話題が豊富だ。そしてまた新しいニュースで鉄道ファンを喜ばせてくれた。

一部で噂のあった"小田急博物館"が、このほど「ロマンスカーミュージアム」として正式に発表された。貴重な鉄道車両の一般公開は、鉄道ファンだけではなく、後世に産業技術を伝えるためにも必要だ。一方で巨額な建設費、永劫に続く運営費の負担も大きい。小田急電鉄の英断に感謝したい。

  • 「ロマンスカーミュージアム」の車両展示イメージ。SE(3000形)、NSE(3100形)、LSE(7000形)と歴代のロマンスカーが並ぶ

ところで、ロマンスカーの保存といえば、昨年6月に起きた保存車全車解体の"怪文書"騒動を思い出す。当連載第77回でも紹介したように、この騒動を収めた人物が生方良雄氏だった。小田急電鉄OBで、現役時代はSE(3000形)の開発にも関わった「ロマンスカーの神様」といえる人物だ。生方氏は当時の取材で、「小田急博物館構想」の存在を明言していた。当時の課題は「候補地の調整」「会社の経営状態」だった。あのときは記事化しなかったけれど、候補地としては「海老名」が最有力と話していた。

「ロマンスカーミュージアム」の候補地は、海老名市が「海老名駅間地区」として2009年にまちづくりの方針を打ち出し、2010年に都市マスタープランを策定した地域。5つに区分された地区のうち、A・B地区が小田急電鉄の開発する「ViNA GARDENS」、小田急線に隣接するD地区(約7.1ha)の一部が「ロマンスカーミュージアム」の用地となる。海老名市はこの地区について、「鉄道事業者が設置する鉄道関連施設」「公衆便所、巡査派出所、自由通路附属施設その他これらに類する公益上必要な建築物」のみに制限しており、「ロマンスカーミュージアム」は海老名市によって「鉄道関連施設」と認められた。

もうひとつの課題「会社の経営状態」についても解決の見通しとなった。間もなく2017年度の最終的な決算が発表される予定で、2017年11月に発表された業績予想の連結損益計算書によると、営業収益、営業利益、経常利益すべてプラスとなっている。

箱根地区のグループ会社の輸送人員も対前年比でプラス。とくに箱根登山鉄道のケーブルカーは対前年比40%以上のプラス。箱根フリーパスの売上げも対前年比38%以上のプラスとなる見込み。ただし、ここは2016年度の箱根山噴火影響の運休による減収との比較なので、業績アップというよりは業績回復とみるべきかもしれない。いずれにしても、複々線事業の完成で50億円以上の増収を見込むなど、かなり好調とみていい。博物館を建設するなら、この勢いに乗った今しかない。

「ロマンスカーミュージアム」については本紙既報の通りだけど、展示車両についてもう少し詳しく紹介しよう。ロマンスカー・SE(3000形)は、それまでの重厚な車体、大容量モーターという常識を覆し、軽量化車体を採用。曲線区間を高速走行するための連接車体を日本で初めて採用した。国鉄との共同開発の過程で時速145kmを達成し、当時の狭軌世界最高速度記録を樹立した。

NSE(3100形)は小田急電鉄初の前面展望車だった、運転席を2階に上げ、客室を前に出す構造は、名鉄パノラマカーが先んじていた。名鉄は近年、前面展望タイプの電車を製造していない。小田急電鉄もEXE(30000形)の製造でいったんは途絶えたと思われた。しかしVSE(50000形)で復活、最新型のGSE(70000形)へ継承している。

  • LSE(7000形)は今年度中に引退予定

LSE(7000形)では先頭形状がさらに鋭角的になり、愛称版が字幕式になるなど、当時としては洗練されたスタイルで人気があった。現在も1編成が稼働し、GSE(70000形)の第2編成と交代で引退する予定となっている。

HiSE(10000形)は「中間車にも眺望を」という意図があり、観光バスなどで当時採用されていたハイデッカー(高床)方式となった。しかし、その構造がバリアフリーの対応の妨げとなり、いち早く引退した。一部車両は長野電鉄に譲渡されて活躍中だ。RSE(20000形)はJR御殿場線に直通する特急「あさぎり」用として作られた。前面展望席はなく、2階建て中間車を2両連結した。JR東海の371系と共通仕様とし、2階建て座席にはJRのグリーン車に相当する「スーパーシート」を備えていた。

モハ1形は小田急電鉄の創業時に製造された電車だ。いったんは熊本電気鉄道に譲渡され、廃車後に小田急電鉄に譲渡され、当時の姿に復元された。

これらの車両がそれぞれいくつ保存、展示されるか。小田急電鉄は「ロマンスカーミュージアム」の発表と同じ日に「一部車両の解体と今後の保存・展示について」という報道資料を公開している。LSE(7000形)で引退済みの「7003×11」編成は先頭車2両を残し、中間車9両は解体予定。現在運行中の「7004×11」編成は引退後、解体時期を検討中。2200形は2両のうち1両を解体予定。SE(3000形)は5両のうち中間車2両を解体予定だという。

2200形は「ロマンスカーミュージアム」の展示予定リストに入っていなかった。通勤形車両だからかもしれないし、あるいは今後、展示車両の入替えがあるかもしれない。「ロマンスカーミュージアム」の敷地は小田急電鉄の車両基地に隣接している。展示車両のレールを外部の線路と接続できそうだ。ぜひつないでほしい。

  • 「ロマンスカーミュージアム」は海老名電車基地とも隣接している

  • 「ロマンスカーミュージアム」外観イメージ

小田急電鉄が「ロマンスカーミュージアム」建設を決めた理由は、ファンサービス、誘客施設の収益だけではないかもしれない。そもそも保存車両を保管する線路が足りないからだろう。昨年6月の噂も「複々線の運用とロマンスカーの増発のため、喜多見にロマンスカーを配置する。そのために車庫にある保存車を移動する」という情報の誤解から始まった。今後、複々線を活用して増発しようとすると、通勤型車両の増備も考えられる。現役の線路の上に、保存車両を留置する余裕はない。

そして「ロマンスカーミュージアム」には、単なる記念館としてだけではなく、「技術の継承」という役割もある。これは生方氏の持論だ。懐かしいデザインを残すだけなら、現在、小田急電鉄がウェブサイトにて公開している「小田急バーチャル鉄道博物館」でもいいはず。しかし、生方氏は「連接台車などの機構は実物を残してこそ、車両技術者の参考資料になる」という。

そう考えると確かに、小田急電鉄の栄光の車両たちの姿はバーチャルよりもリアルで残したい。きちんと解説できる学芸員の養成も必要だ。ともあれ、小田急電鉄が民鉄最大規模の博物館の建設に乗り出したことを喜びたい。