4月1日は年度替わりで、多くの企業にとって会計年度の始まりである。鉄道事業者も例外ではなく、3月から4月にかけて動きがある。

JR西日本は三江線を廃止し、JR北海道は石勝線夕張支線の廃止を届け出た。一方、木次線の沿線自治体などが「木次線利活用推進協議会」を設立している。鉄道路線の存続に危機感を持ち、存続に向けたチャレンジを始めた。「乗って残そう」だけではなく、「乗らない人も巻き込む」作戦に注目したい。

  • 国土地理院地図から三江線が消えた…(国土地理院地図を加工)

三江線は3月31日をもって運行を終了した。多くの鉄道ファンらが駆けつけて最終列車を見送り、各媒体でも報道された。国土地理院が公開している「地理院地図」では、最終列車到着の3時間後に三江線の線路が消され、情報更新の早さと寂寥感がネットで話題になった。なお、4月2日現在、GoogleマップとYahoo!地図には三江線が残っている。

その翌日、4月1日に開催された三江線代替バスの運行開始はローカルニュースでの報道にとどまったようだ。全国紙の電子版では日本経済新聞がバス路線に触れているけれども、3月31日付けで、三江線の廃止に絡めた内容にとどまっている。

RCC中国放送は4月1日夕方のニュースで、三次市の「川の駅常清」で開催された代行バス出発式を伝えた。「川の駅常清」は旧三江線江平~作木口間のほぼ中間地点にあり、線路から見て江の川の対岸、集落の中心に位置する。インタビューでは「駅に行かなくても三次に直接行けるから便利」というお年寄りの声と、「乗車人数が少ないようで心配」という高校生の声を報じた。山陰中央日報4月2日付の記事「三江線代替バス運行開始 6市町で式典」では、旧石見川本駅での出発式を伝えていた。

三江線の代替バスは島根県・広島県と沿線6市町が計画し、18路線が設置された。三江線に並行する路線を基幹路線とし、地域内交通の区間路線を用意する。江津~三次間は、平日の場合は4路線で乗り継げるけれども、往復はできない。休日は3路線の乗継ぎで、江津発の場合は往復可能。三次駅の滞在時間は約1時間半となる。

休日ダイヤは観光利用に配慮したというけれど、4月2日現在、18路線のバスの乗継ぎがわかりやすく紹介されたウェブサイトはない。路線ごとに運営会社が異なっており、他社への乗継ぎが案内されていないようだ。三江線の廃線跡を観光利用しようという計画もあるけれど、バスの情報提供を工夫する必要がある。運行が始まったばかりだから、今後の改善に期待したい。

JR北海道は3月26日、「夕張支線」とも呼ばれる石勝線新夕張~夕張間の鉄道事業廃止届を提出した。廃止予定日は2019年4月1日とされた。

夕張支線については、夕張市長が2016年に「戦略的な路線廃止」を提案していた。JR北海道が「自社単独で維持できない線区について、上下分離やバス転換」する意向を示してから、約10日後だった。夕張市は路線廃止の条件として、「バスなどによる代替交通の整備に対するJR北海道の協力」を掲げた。今年3月23日に鉄道事業廃止の合意に至り、その内容は「JR北海道が代替交通の整備費として夕張市へ7億5,000万円を拠出」「夕張市が建設する交通拠点複合施設について、JR北海道が用地を譲渡」というものだった。

この1年、三江線へのお別れ乗車、その話題に誘発された観光客の増加で、三江線は連日の混雑が報じられていた。これからの1年は、その状況がそっくり夕張支線に移転するとみられる。前向きなバス転換を実施する夕張市のことだから、廃線までの1年間も観光アピールのチャンスとして取り組むと思われる。ただし、三江線は大雪や倒木などによって不通になる期間が長かった。夕張支線もまた、大雨による盛土崩壊などで不通となり、先日復旧したばかり。最悪の場合、災害不通になったまま廃止となるかもしれない。夕張支線にお別れ乗車するならお早めに。

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三江線の運行終了を前に、JR西日本のもうひとつのローカル線で動きがあった。木次線だ。山陰中央新報3月29日付の記事「木次線利活用推進協を設立 自治体やJR」によると、「島根県や沿線自治体、観光協会、JR西日本などでつくるJR木次線の全線開通80周年記念事業実行委員会が28日に解散し、新たに木次線利活用推進協議会を立ち上げた」という。島根県雲南市の公式Facebookページでも設立会議の様子が投稿されている。

木次線は山陰本線宍道駅と芸備線備後落合駅を結ぶ路線で、出雲坂根駅のスイッチバックや観光列車「奥出雲おろち号」の運行でも知られている。JR西日本が公開している「区間別平均通過人員および旅客運輸収入(2016年度)」では、木次線の平均通過人員は204人/日。三江線の83人/日、大糸線(南小谷~糸魚川間)の100人/日に次いで下から3番目だ。

三江線が廃止されたため、今後は木次線が下から2番目となる。最下位は大糸線だが、糸魚川駅が北陸新幹線の駅となったため、新幹線効果がある程度見込めるかもしれない。一方、木次線には好材料が少ない。JR西日本から公式には廃止宣告がされていないけれども、沿線自治体には「次の廃線対象になるかもしれない」という危機感がある。

そこで、早期から木次線の沿線自治体は廃止対象にされないための方策に取り組んできた。2016年は木次線の前身、簸上鉄道の開業100年だった。この機会に、木次線に関心のある人々を集めて開業記念事業に着手。イベントなどを実施した。2017年は全線開通80周年を記念した取組みを実施している。その中心が「全線開通80周年記念事業実行委員会」だった。記念年度が終了した後も活動を継続するために「木次線利活用推進協議会」として再出発するという形になった。

ローカル線廃止の大きな理由は赤字だから。ただし、鉄道は公共交通なので、赤字だけでは廃止になりにくい。その代わり、公共交通と認知されるために公共交通機関としての実績、つまり乗客が必要になる。たとえば前述の平均通過人員のような数字を大きくしなければならない。国鉄時代は平均通過人員4,000人/日が廃止、バス転換の指標だった。

赤字を黒字にするなんて簡単にはできない。しかし、乗客を増やすことはなんとかできそうだ。補助金などで定期運賃を補助したり、学校の遠足で使ってもらったり……。これまでに廃止危惧路線が取ってきた手法は、おもに「乗って残そう運動」だった。ただし、鉄道を普段から利用しない人々に頼んで乗ってもらったところで、長続きはしない。それは生活習慣を変えることになるからだ。

木次線の取組みは「乗って残そう」とは少し違う。いや、もちろん乗ってもらう取組みも行っている。利用促進助成事業として、生徒や児童、園児の遠足のために運賃を補助したり、駅までのバスやタクシーの費用を助成したりしている。その上で「乗らない人にも気にかけてもらう。乗車する以外のメリットを感じてもらう」という活動が加わる。

いままで、赤字路線反対運動のほとんどの事例で、関心の高い人々とそうでない人々の温度差が大きかった。方向性がまとまらず、結果として廃止またはバス転換を招いた。木次線の場合は、まず「沿線の誰もが気にかけてくれる路線」になろうとしている。

2016年度には、次の観光列車の試金石として「奥出雲おろち号」を利用した「ワイン&チーズ列車」を企画し、沿線のワイナリーと乳業会社の協力を得た。また、日本酒の酒蔵にも立ち寄っている。これらの企業の関係者は、普段から木次線に乗っているわけではない。しかし、木次線を訪れる観光客が商品を買ってくれるかもしれない。「木次線に関われば売上がある。木次線で来店者が増える」、そういう認識を持ってもらうことは重要だ。2016年4月以降、地元有志のグループ「つむぎ」が出雲大東駅の管理者となり、駅業務やグッズ販売、木次線でのイベントの企画などで活動している。

2017年度は、鉄道写真家の中井精也氏を招いたフォトコンテストや、地元の助成有志が結成した「おくいずも女子旅つくる! 委員会」の協力による「木次線カフェトレイン」の運行などを行った。「木次線カフェトレイン」は、地元のカフェや菓子店などが協力し、気動車をカーペット敷き、パステルカラーのカフェ空間として走らせたツアーだった。「木次線に関わると楽しいことができそうだ」という雰囲気作りができた。

2018年度は木次線利活用推進協議会のイベントの第1弾として、4月4~6日に木次駅からワイナリー、酒蔵を経由する無料送迎バスを運行している。桜が満開の時期とのことで、「列車の旅だからお酒を飲める。どうぞ木次線で来てください」というわけだ。

ビッグイベントで一時的な盛り上がりを作るのではなく、小さな、しかし満足度の高いイベントを持続的に実施する。木次線の観光客を増やすだけでなく、沿線の企業にもメリットがある。木次線を「関わると、いいことがある」という存在にしていく。こうして、沿線の人々の木次線に対する思いを高めていけば、いざ存続の危機になったときでも、同じ方向を向いて対処できる。

2018年は「奥出雲おろち号」の運行開始20周年を迎える。そして、そろそろ車両更新の時期でもある。「奥出雲おろち号」は、木次線沿線を含む自治体連合「出雲國・斐伊川サミット」が支援している。車両の更新費用をどうするか。その合意形成にも「沿線の人々の木次線に対する関心の高さ」がじわじわと効いてくるだろう。

木次線利活用推進協議会にはJR西日本も参加している。木次線を盛り上げ、木次線を目当てに特急「やくも」や寝台特急「サンライズ出雲」に乗る人が増えれば、JR西日本にとっても「木次線に関わるといいことがある」になる。そこまで到達できれば、赤字でも廃止にはならないのではないか。沿線の人々に見守られた木次線に悲壮感がない。楽しそうだ。それはとても大切なことだと思う。