北海道音威子府村の若手まちづくりグループ「nociw*(ノチウ)」が、2月15日から3月15日まで「鉄分撮りすぎ注意キャンペーン2018冬」を実施する。ちょっと変わったタイトルだけど、いわゆる鉄道写真やエピソードのコンテストだ。音威子府村を通るJR宗谷本線を応援するためのイベントである。

  • 音威子府村のまちづくりグループがユニークな鉄道コンテストを開催(写真はイメージ)

「nociw*」は旧称「天北線上音威子府機関支区鉄道倶楽部」として、上音威子府駅跡の保存活動に取り組んでいた。現在は宗谷本線の応援団として、音威子府村内の各駅で花壇の整備、村と共同でお祭りの開催、村の文化祭で鉄道模型運転会、村の自然を利用した生涯学習活動の支援を実施しているという。

「鉄分撮りすぎ注意キャンペーン2018冬」はSNS投稿型コンテストで、宗谷本線を応援するメッセージ、宗谷本線の思い出、宗谷本線の写真をツイッターやインスタグラムに投稿する。ハッシュタグ「#頑張れ宗谷本線」を添えて投稿すれば応募完了となる。

応募要項の中に、作品の使用権に関して「一定期間、宗谷本線の応援活動に限り、nociw*に使用権が帰属する」とあり、趣旨に賛同・理解した上での応募を呼びかけている。応募作品は音威子府村で展示されるほか、厳選したものを「宗谷本線応援ポスター」や応援グッズなどで使用するという(展示以外で使用する際は連絡するとのこと)。賞品はない、と言ってしまっては身も蓋もないけれど、「オフィシャルグッズに採用された」という名誉が得られる。

ちなみに、撮影するために音威子府村を訪れると、「音威子府駅でJRのきっぷを5,000円以上購入すると抽選で5名に特産品の詰め合わせが当たる」「音威子府駅のわがまちご当地入場券または鉄道グッズを買うと、もれなく非売品の撮りすぎ注意シールがもらえる」「音威子府村の2店舗のガソリンスタンドで2,500円以上給油すると、鉄分撮りすぎ注意カーサインマグネットがもらえる」「音威子府村の天塩川温泉に宿泊または日帰り入浴で記念品プレゼント」といった「いいこと」がたくさん用意されているそうだ。

ところで、「鉄分撮りすぎ」とは何かというと、「鉄道趣味に熱中しすぎて、撮影マナーが悪かったり、まわりに迷惑をかけたり」といった状態のことだという。音威子府村も「撮り鉄」の撮影マナーに困惑しているようだ。

冬の時期、宗谷本線ではラッセル車による除雪が行われる。とても珍しい、迫力のある場面だ。その風景を撮るために、全国から「撮り鉄」が集まる。残念ながら、線路に近づきすぎて作業を妨害したり、車で来て無作法な駐車で交通を妨げたりするケースもある。交差点や消火栓付近の駐車、歩道乗上げ駐車、進行方向逆向き駐車……、マナーどころか道交法違反レベルだ。「音威子府に来てくれてうれしい。でも人に迷惑をかける行為はやめようね」、そんな思いがキャンペーンに込められている。

「撮り鉄」のマナー問題は、何度も浮上しては不毛に終わる。かつて「マナーの悪い鉄道ファンは来ないで」と公式サイトやSNSで表明した鉄道会社もあったし、社長がブログでマナーの悪い「撮り鉄」を痛烈に批判した事例もあった。鉄道雑誌やカメラ雑誌が「撮り鉄」のマナー問題を特集し問題提起、マナーの啓蒙を試みた事例もある。

こうした取組みや啓発にもかかわらず、「撮り鉄」の迷惑行為は相変わらず繰り返されている。つまり、特効薬は見つかっていない。理由はそもそもマナー論議に参加するマナーもないからだろう。他人の迷惑を考えない人は、マナー問題そのものに関心がない。どんなに「君の行為は迷惑だ」というメッセージを出しても、当人に届かない。

むしろ「来るな」という側が「そこまで言うな」と叩かれることさえある。マナーに理解を示す者同士が、些細な意見の違いで叩き合いとなり、不毛な論争は自然消滅。本来、マナーを向上させるべき人は関知しないという状況になる。そしてしばらく経てば、再びマナー論争が浮上する。その繰り返しだ。

「鉄分撮りすぎ注意キャンペーン」は、マナーの悪い人を批判する姿勢とはちょっと違う。「悪い人は来ないで」ではなく、「良い人は歓迎、ぜひ来て」というメッセージがある。これなら悪い気がしない。「撮りに来てね」という呼びかけは「撮り鉄」すべてに伝えたいメッセージ。そこに「マナーの良い人は来てね」とあれば、参加すなわち「マナーを理解しました」となる。

このキャンペーンは「鉄分撮りすぎ注意」とたしなめつつ、実態としては「撮り鉄さんいらっしゃい」という趣旨になっている。「マナーの悪い人は来ないで」という気持ちをぐっとこらえ、「良い人は歓迎」の姿勢に転じた。この発想が前向きで好感を持てる。イソップ寓話の「北風と太陽」みたいだ。旅人のコートを脱がせたかったら、北風で吹き飛ばそうとするより、強い日差しで温度を上げ、脱ぎたい気分にさせたほうがいい。

音威子府村は2017年7月の村の広報誌で「鉄道、必要ですか?」という特集を組み、鉄道の価値を再確認するメッセージを投げかけて話題になった。真冬の音威子府で、鉄道が観光資源になるとなれば、鉄道の価値は高まる。「鉄分撮りすぎ注意キャンペーン」は、鉄道の価値を知っているからこそできる取組みともいえそうだ。

※写真は本文とは関係ありません。