新幹線が登場する映画の名作をひとつ挙げるなら、『新幹線大爆破』で異論はないだろう。このタイトルに当時の国鉄が激怒したというエピソードもあるけれど、テロリストと戦う鉄道マンの姿をかっこよく描く物語。ぜひ現代の新幹線でリメイクしてほしい。
同作品は世界一安全な信号システムを逆手に取ったアイデアも秀逸ながら、キャスト陣の豪華さでも知られている。悪役の高倉健をはじめ、千葉真一、宇津井健、丹波哲郎、渡辺文雄など、当時の大スターが共演していた。現在は渋い父親役が多い山本圭も、本作では若さあふれる共犯者。運転士役には、『太陽にほえろ!』の「ゴリさん」で知られる竜雷太、そして小林稔侍。カット数は少ないものの、田中邦衛、北大路欣也、多岐川裕美、志穂美悦子の姿も。乗客のロックシンガー役で出演した岩城滉一は、これが映画デビューだったという。
1975年東映作品『新幹線大爆破』。DVDも発売中。なお、2月29日まで「創立60周年記念 東映オールスターキャンペーン」として、キャンペーン期間限定価格2,940円で販売されている(販売 : 東映、発売 : 東映ビデオ) |
速度連動型爆弾を抱えた「止まれない新幹線」
『新幹線大爆破』は、列車に爆弾を仕掛けた犯人と、国鉄、警察の駆け引き、爆弾列車に乗ってしまった1,500人の乗客のパニックを描くサスペンス作品。映画の公開は1975年7月で、東海道・山陽新幹線の博多開業から5カ月後だった。当時の新幹線は1時間あたりひかり5本、こだま5本を運行していた。現在は1時間あたり最大で13本だが、当時もかなり過密なダイヤになっていた。
その日、東京発博多行「ひかり109号」は定刻の9時48分に発車した。この列車が新横浜を通過した頃を見計らって、主犯の沖田哲男(高倉健)は国鉄に電話をかける。
「『ひかり109号』に爆弾を仕掛けた。この爆弾は時速80kmを超えると起動スイッチが入り、再び時速80km以下になると爆発する。嘘だと思うなら、同様の爆弾を夕張線の貨物5790列車にも仕掛けたから確かめてみろ」
国鉄本社はただちに5790列車の運転士に伝令。通過駅でメモを受け取った9600形蒸気機関車の運転士は驚き、勾配区間上りの手前で機関助手と脱出。速度を落とした貨物列車は、沖田が言った通り爆発した。
新幹線運輸指令の倉持(宇津井健)は、「ひかり109号」の青木運転士(千葉真一)に列車無線で爆弾の存在を通知する。「列車を停めるな。時速120kmを維持せよ」。青木は言う。「でも……、博多に到達したらどうするんですか」
沖田は国鉄に対し500万ドルを要求。カネを受け取ったら爆弾の解除方法を伝えると告げる。爆弾を探す国鉄マン、犯人を探す警察官、交渉と逃走を画策する犯人の駆け引きが始まる。一方、名古屋通過で異常を察した乗客たちがパニックに陥る。
鉄道ファンも満足の特撮映像
世界最速の新幹線には、世界最高の安全装置が搭載されていた。ATC(列車自動制御装置)とCTC(列車集中制御装置)だ。運転士が信号を無視したり、一定時間操作しなかったりという異常事態があれば列車は停止する。走行中に連結器が外れた場合もブレーキがかかる。遠隔装置で列車を止め、信号やポイントを操作できる。要するに、最も安全な対処は「まず列車を止める」だ。
しかし、犯人が仕掛けた爆弾は、「列車を止めてはいけない」ものだった。「ひかり109号」は東京発9時48分、名古屋発11時51分、その後、京都、新大阪、新神戸、姫路、岡山と停まり、ここから各駅に停まって博多着17時36分だった。全区間を時速120kmで走ると、博多着は21時頃になる。つまり事件発覚からのタイムリミットは約10時間。これがハラハラさせてくれる要素のひとつ。
次のハラハラポイントは、間一髪のすれ違いだ。運の悪いことに、先行する「ひかり157号」がBR(ブレーキ)系統の故障で立ち往生。このままでは、「ひかり109号」が追突してしまう。倉持は追突を回避するために、「ひかり109号」を上り線で走らせようとする。ポイントの速度制限は時速70km。ただし、これは安全のためのマージンをとっており、倉持は青木に、「時速90kmで通過せよ」と命令する。安全マージンをとっているとはいえ、初めての経験に、手に汗を握る青木運転士。
そこに新たな問題も起きる。上り線から下り線に戻るポイント付近に「ひかり20号」が接近していた。タイミングを間違えれば、「ひかり109号」と正面衝突の危機! このシーンは本当にドキドキする。映像の車両は模型だが、かなり良くできているし、ドキドキハラハラしているからあまり気にならない。
「ひかり109号」に酸素ボンベとバーナーを搬入するシーンもハラハラポイントのひとつ。「ひかり109号」の隣に救援用新幹線を並走させて速度を合わせ、非常ドアを開けて受け渡そうとする。ただし風圧でかなり不安定な上に、線路間にある標識柱が迫ってくる。並走シーンはさすがに模型とわかってしまうけれど、人々の迫真の演技に見入ってしまう。
そして物語終盤、新幹線は止められるか、じつは爆弾が複数あるのではないか……、などの要素を絡め、最後まで「ひかり109号」の動向に目が離せない。新幹線が無事であってほしいという気持ちとは裏腹に、犯人の事情にも感情移入してしまう。成功してほしい、うまく逃げてほしいという気持ちもあって、「ひかり109号」と同時進行する「犯人と警察との駆け引き」にドキドキする。
「停まったら爆発」というアイデアは新幹線の安全装置以上に画期的だ。1994年に公開されたハリウッド映画『スピード』も、同作品を模倣したのではないかと話題になった。もっとも、創作とはいえ、新幹線の安全神話が崩されたわけで、当時の国鉄が激怒し、この作品への撮影協力を断ったというエピソードがあるのも無理はない。新幹線のシーンは国鉄敷地外などで撮影し、客室内の場面は鉄道車両メーカーから実物を購入し、撮影所で組み立てたという。おかげで東映関係者は約3年間、国鉄に出入り禁止になったという逸話も残っている。
そうした事情もあり、DVDにも収録された予告編はかなり過激で、「世界事故史上最大」「空前の大惨事」「死の旅へ一直線!」といったキャッチコピーのオンパレード。極めつけは「ひかりは今 巨大な棺桶と化した」。いくらなんでもこれはヒドイ!(笑)
とはいえ、作品自体は国鉄マンの優秀さを称える内容となっている。「テロリストに屈しない」「新幹線はどんな悪にも立ち向かう」「世界一安全な列車」、そんなメッセージを発信できる作品だ。だからこそ、JRグループ全面協力のもと、リメイクしてほしいとさえ思うのだ。
『新幹線大爆破』に登場する列車たち
全編を通じて新幹線が走り続ける本作品だが、じつは1970年代の鉄道風景もいろいろと登場しており、興味深い。爆弾の存在証明に使われた夕張線の場面は、夕張で廃線同然だった炭鉱鉄道でロケが行われたという。蒸気機関車は「9600形」だが、これは炭鉱鉄道に国鉄から払い下げられた車両のようだ。貨車は2軸のワム(箱型)、トム(荷台型)、タム(タンク車)が並ぶ。
警察が犯人グループを探す場面では都電荒川線の7000形、7500形が登場。犯人を追い詰める場面では、都営地下鉄三田線の志村車両基地でロケが行われ、都営三田線の6000系が登場する。「ひかり109号」が京都を通過する場面では、近鉄の普通電車も姿を見せている。
1635貨物列車 902貨物列車 |
スタートから50秒あたりの操車場にて、2軸ワム(有蓋車)・2軸トム(無蓋車)・2軸タム(タンク車)が登場。保有会社名などがテープなどで隠されている |
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横須賀線111系 (スカ色) |
東京駅で新幹線と同じ画面に登場 |
貨物5790列車 | 牽引機関車に9600形を示す「9634」のプレートがあるものの、撮影用に付けられたプレートのようだ。北海道炭礦汽船夕張鉄道線の27形(元国鉄9600形49634号)と思われる |
「ひかり109号」 | 本作の実質的な"主役"。走行シーンはK47編成・N1編成・H4編成 |
「ひかり20号」 | 「ひかり109号」とのきわどいすれ違いのシーンがある。車両はH13編成 |
都電荒川線7508号・7506号・7067号 | 当時、サンシャイン60は建設を開始したばかり。 鬼子母神電停付近の背景にはまだ見えない |
近鉄電車 | 京都線の通勤電車3両編成 |
都営地下鉄三田線 | 志村車両基地を犯人と警察が走り抜ける。6000系電車がいくつか登場 |