消費者庁は3月27日、空間除菌を標榜する製品群が景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、販売元の製薬会社に表示変更を求める措置命令を出しました。これに伴い、多くの薬局・薬店から姿を消してしまった、いわゆる「空間除菌製品」に用いられている成分・二酸化塩素について今回は解説しましょう。
そもそも二酸化塩素とは
二酸化塩素(分子式: ClO2)は、塩素に酸素が2個くっついた分子です。塩素のように非常に高い殺菌力がある反面、人体への影響は塩素より小さく安全なため、水道水の消毒や小麦粉の消毒漂白処理などに使われています。化学的には、亜塩素酸ナトリウムに酸を加えることで簡単に発生させることができます。酸はクエン酸でも代替可能です。
殺菌力が強い二酸化塩素はすなわち、反応性が高いということです。あまり長持ちする成分ではないため、スプレータイプの「空間除菌製品」の多くに、開封後は早めに使い切るように勧めている物が見受けられます。そのため、ゲルに溶かして徐放するタイプやタブレットから徐放するタイプの製品が存在するのです。
今回、「インフルエンザ予防」等を標榜したとして措置命令のメーンターゲットとなったのは、携帯タイプの「空間除菌製品」。首から下げるネームプレートのようなシートの中に、二酸化塩素を発生するタブレットを詰めたような製品が目立ちます。
大手企業が作った据え置きタイプの「空間除菌製品」とは異なり、薬局・薬店で大規模に展開していたこれらの製品は、決して大きいとは呼べない会社で作られていたケースが目立ちます。昨年も、排水溝のぬめり取りなどに用いられる次亜塩素酸カルシウムを詰めただけの「空間除菌製品」が、水にぬれて溶け出したために回収騒ぎにまで発展したことを記憶されている人もいるのではないでしょうか。
携帯タイプ「空間除菌製品」の"真実"
「空間除菌製品」の市場は数十億円規模とも言われているそうで、各メーカーは中身を「二酸化塩素発生タブレット」(亜塩素酸塩とクエン酸をポリマーで錠剤に固めた物で、空気中の水分と反応してじわじわと二酸化塩素を発生させます)として販売を継続しています。「首から下げるだけでウイルスが防げる」として、多くの売り上げがあったようですが、効果には疑問符が付きます。
そもそも二酸化塩素の殺菌性は、屋内に限ってのものです。また、インフルエンザなどの病原菌は飛沫(ひまつ)感染であるため、本当に「除菌」をするとなると、その飛沫(ひまつ)に二酸化塩素が溶け込むことで、ウイルスを失活させなければいけないのです。
それだけの二酸化塩素濃度を常に維持するのはかなり難しいため、「どこでも空間除菌」というのは「誇大広告」と言っても過言ではないのかもしれません。また、二酸化塩素には漂白作用もあるため、首から下げるとなると服の色が落ちてしまう可能性も高いです。
ニュースの裏側
「措置命令」というのは、会社組織に対して一定の強制力を持つ行政処分であり、無視すれば罰金や懲役もあります。ただ、言われた通りにすれば、それ以上のおとがめはないという問題もあります。毎年、多くの違法製品が措置命令を受けた後、一度は関連製品や類似製品が姿を消すものの、しばらくするとまた別の製品が出回る構図になっているような気がします。このようないたちごっこでは、問題の根本的解決にはほど遠いのではないでしょうか。
ただ、今回の措置命令の内容は、圧倒的大多数である首から下げる携帯タイプの「空間除菌製品」を撤去する目的が大きかったように見え、大手メーカーが販売する据え置きタイプの製品はその巻き添えをくらってしまったという感が強いです。大手メーカーはきちんとした実験を踏まえてから製品化に踏み切っており、中にはかなりの大規模実験をしたケースもあります。
携帯タイプと据え置きタイプの「空間除菌製品」では様相が違う点がニュースでは見過ごされているように思えますが、はてさて「空間除菌製品」に端を発した二酸化塩素騒動、今後はどうなるのでしょうか……。
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筆者プロフィール : くられ
『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス、シリーズ累計15万部超)の著者。全国の理系を志す中高生から絶大な支持を得ており、講演なども多数展開している。近著に『ニセモノ食品の正体』(宝島社)がある。メールマガジン「アリエナイ科学メルマ」やツイッターなどで、日々に役立つ話を無料配信している。