残暑が続く中、毎晩寝苦しかったり、うまく眠れなかったりして悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、睡眠研究家で『最強の睡眠』(SBクリエイティブ)の著者でもある西川ユカコさんが、「快眠と健康を手に入れる『夜時間の過ごし方』」についてご紹介します。
日中に分泌されたセロトニン(脳内物質の一種。精神を安定させ、幸福感を与えてくれる)は、夕方以降になるとメラトニンという睡眠ホルモンにつくり変えられます。つまり日中にどれだけセロトニンを蓄えられるかで、睡眠の質は変わってくるのです。ただし、夜の時間帯の照明の明るさ次第で、その効力は低下してしまいます。
一般的な日本の家庭の照明は200~500ルクス。目の網膜に500ルクス以上の光が届くと、メラトニンの分泌が抑えられてしまうという報告があります。さらには、200~300ルクス程度の光を見ただけでもメラトニンの分泌が減ってしまうというデータも。
つまり一般的な家庭の照明下では、夜に家にいるだけで、メラトニンを減らしてしまうということ。夜は、寝室はもちろん、居間もキッチンもトイレもお風呂も、あまり明るくしないほうがいいでしょう。
睡眠の質をよくする照明の「色」とは
明るさだけでなく、照明の「色」も睡眠に影響を与えます。市販されている電球や蛍光灯には、「昼光色(最も白い)」、「昼白色(中間)」、「電球色(オレンジがかっている)」の3種類があります。日中、仕事をする時には、ものがハッキリ見える「昼光色」が好まれます。実際に多くのオフィスで、この色のLEDや蛍光灯が使われています。
しかし、夜に家でくつろぐ時には、温かみのある「電球色」がお勧めです。とはいえ、電球色の100ルクスよりは昼光色の40ルクスのほうがマシ。夜は少しでも「暗め」に、次の条件を参考に色味や明るさを検討してみてください。理想は、ホテルのバーのように、オレンジ系の明かりが少しだけムーディに灯っている状態です。
欧米人の暮らす室内も参考になります。欧米人は日本人よりも瞳の色が薄く、明かりをまぶしく感じるので、家の照明は暗めに設定されています。
明るい部屋に慣れている私たちは結構戸惑いますが、本当は日本人にとってもこのくらいで良く、例えば入浴時に、煌々と明かりが灯った洗面所で脱衣したりドライヤーをかけたりしていたら、メラトニンは激減してしまうリスクがあります。
逆に、朝はどれだけ明るくしてもOK。洗面所も、ひげそりを安全に行ったり、化粧したりするためには明るさが必要です。同じ場所でも、朝と夜で、明るさが変えられる工夫をしてみましょう。
・電気が2ケ所にあるなら、夜は1つだけ利用する
・ワット数の小さい電球に変えてみる
・夜は別途、間接照明を活用する
今は、LED電球が普及し、明るさも色味も手元のスイッチ1つで調整できる照明器具が多く出回っています。そうしたものを取り入れれば、朝は白くて明るい空間に、夜はオレンジ系の暗めの空間に、という調整が簡単にできます。
眠りの質を格段に上げた「たった1つの方法」
わが家はもともと、明るさとしては控えめな60形相当(電球に「54W」など、60に近いワット数が印字されているもの)で、電球色のLEDを使用していました。そして数年前に思い切ってリビング、ダイニング、キッチン、寝室、洗面所、バス、トイレと、夜に使用するエリアの照明を全て調光スイッチに取り換える工事をしました。
この工事は数万円で済む上に、夜を極力暗い照明で過ごすことで部屋の表情が変わるので、同じ家なのに違う空間のように感じることができて新鮮でした。
照明の明るさを落としてから夜のリラックス度、心の豊かさや幸せ感も格段に上昇。その結果、毎日早く家に帰りたくなり、なぜもっと早くやらなかったのかと後悔したほどです。睡眠に関してはメラトニンが減りにくいせいか、ますます早い時間に眠れるようになった気がします。
このように家の光は調整できますが、街の光はそうはいきません。看板、ネオン、信号、車のライト……夜はたくさんの明かりがあなたを狙っています。できるだけ、それらを直視しないように注意しましょう。
とくに都心で暮らしていれば、ちょっとコンビニに買い物に出ただけで、明かりをたくさん浴びてしまいます。そういう環境にある人は、夜にこそサングラスをかけてもらいたいくらいです。
眠る時に最適な温度と湿度
質の良い睡眠を得るためには、寝室の環境づくりも大切です。寝室には、スマホを持ち込まないようにしましょう。そばにあるとつい、手に取ってブルーライトを目にしてしまいます。またスマホの充電は寝室とは離れた場所で行うのがベスト。眠くならないうちに別室に充電器を移動させておいてください。スマホを目覚まし時計代わりにしている人は、代わりの目覚まし時計も用意しておきましょう。
私の場合は、充電器をキッチンに移動させてベッドでスマホを見ないようにした途端、大きな変化が感じられるようになりました。朝起きた時に「眼球、脳、首・肩などの変な疲れ」がなく、「何かハッピー」と感じられるようになったのです。実際に行ってみると、ぐっすり眠れた実感が生まれ、どこか穏やかで、満たされた気持ちになるでしょう。
温度と湿度も、睡眠に非常に大きな影響を与えます。快眠のための寝室の温度は、夏は26度以下が最適と考えられますが、あくまで目安であり、人によってかなり違いが出るところです。湿度については、夏は50~60%と言われています。
夏場はためらわずにエアコンを使うことをお勧めします。エアコンの風が直接肌にあたらないように、羽根を上向きにしておくといいでしょう。首が天井に向く扇風機を併用すると、室内の空気が循環してなお快適な温度が保てます。
今回で本連載は最終回となります。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。皆さんの毎日が、少しでも快眠の方向へ進めばうれしいかぎりです。
睡眠についてもっと詳しくお知りになりたい方は、拙著『世界の最新論文と450年企業経営者による実践でついにわかった 最強の睡眠』をお役立ていただけるとうれしいです。