「『プレゼンが聞きとりにくい』と言われました。話し方が良くないせいでしょうか」というご相談をよく受けます。
頑張ったプレゼンテーションの後に「聞き取りにくかった」なんて言われたら、がっかりですよね。声が小さかったり、滑舌が悪かったりするプレゼンテーションは、聞き取りにくく、聞き手にストレスもかかります。
今回は、プレゼンテーションのための話し方について説明します。
プレゼンテーションで失敗する理由
プレゼンテーションで緊張すると、普段だとスラスラと話せるものでも話せなくなって、焦ってしまい、「またしゃべれなくなるのでは?」と不安になるものです。
こう考え始めて、さらにつっかえてしまう、という悪循環に陥りがちです。
「滑舌が悪いせいかな?」と考える人もいます。しかし滑舌に調子が良い・悪いはありません。滑舌は原因ではありません。
プレゼンテーションの話すスピードを意識する
ほとんどの場合、原因はただ一つ。話すスピードが速いことです。人は、緊張したりあがったりすると、話すスピードが速くなります。緊張していると無意識に話すスピードが上がり、早口になってしまいます。
こうなると、普段はスムーズに話せている言葉でも、口が回らなくなり、話せなくなるのです。こう考えると、当たり前のことですよね。
しかし本番前に「今日はいつも通りに話そう」と考えても、やはり失敗するものです。プレゼンテーション本番は普段とは心と身体の状態が違いますから、普段通りにはなりません。
普段通りに動かそうとすると、身体は速く動いていますから、筋肉が追いつかなくなり、ミスをするのです。当人は普段通りに話していても、第三者から見るととても早口になっているのです。
対策は、いつもより意識して「あり得ない」と思うくらいゆっくり話すことです。こうすることで、滑舌や声の問題のほとんどは解決します。
意識しないと速いスピードが、これで適度な速さになり、聞いている人も聞きやすくなります。
プレゼンテーションを成功させるコツ
さて、ゆっくり話せるようになった上で、本番で成功する話し方のコツは、あと三つあります。
息をたくさん吸う
息が足りないと、子音を発音する際に舌で口の中をこすったり弾いたりしにくくなり、滑舌が悪く聞こえてしまいます。
また声も小さくなり聞き取りにくくなります。しっかり呼吸し、息をたくさん使いましょう。
言葉を区切って発音する
どんなに難しい言葉でも、ほんの少し区切って言うだけで確実に言えるようになります。しゃべりにくいと思った言葉は、人に分からない程度に少しずつ区切って話すと安定感が増します。
たとえば多くの人が「きゃりーぱみゅぱみゅ」はスムーズに発音できませんよね。
ここでぜひ実際に試していただきたいのですが、次のように発音するといかがでしょうか?
「きゃりー(間)ぱみゅ(間)ぱみゅ」
恐らくちゃんと発音できたと思います。これはプレゼンテーションでもまったく同じです。
たとえば、息をしっかり吸って、ゆっくり話しながら、
「本日は(間)ご(微妙な間)静聴(間)ありがとう(間)ございました」
というように話します。区切ることでブレーキが利いて、早口防止にもなります。
加えて、プロが意識する日本語特有のポイントもお伝えします。
「ほんじつわ~りがとうございました」
何を言っているか分かりにくいですね。「本日は、ありがとうございました」がきちんと言えていないのです。
早口の上、メリハリのない、だらしない印象に聞こえてしまう方は、大抵このような発音方法になっています。これは、日本語特有の現象です。
日本語は、言葉の頭に母音が来る場合、冒頭の例のように前の母音とつながりやすいのです。母音と母音がつながってしまうと何を言っているのか聞き手には理解できなくなります。
この場合はただ区切るだけではなく、母音の頭の前で一瞬間合いを取り、母音の頭に小さなアクセントをつけるとスッキリと言葉を区切ることで解決できます。
「本日は、(間合い)『あ』(「あ」に小さなアクセントを付ける)りがとうございました」 このように、母音の前で少し間合いと母音にアクセントをいれると、プロのような明瞭な話し方になります。
プレゼンテーション途中で水を飲む
話し方を良くするために、プレゼンテーションの途中でも水を飲むことをおすすめします。水を飲むとき、格段に話しやすくなる飲み方のコツがあります。
緊張すると喉周辺の筋肉が硬くなり、声が出しにくくなります。さらに喉が疲労してきたときも、声がかすれたりします。
原因は喉頭(喉仏)を下げる筋肉が硬くなり上がりすぎている状態になっていることです。
喉頭の上下は声の音色にも影響します。喉頭が上がりすぎていると声が薄っぺらな響きになりやすいのです。
喉頭を下げるには、喉頭を下げる筋肉をリラックスさせることです。そのためには、あくびをすればリラックスできます。でもプレゼンテーションの最中にあくびをするわけにはいきません。
そこで水が役立ちます。喉頭を下げる筋肉をリラックスさせるためには、ちょっとお行儀が悪くならない程度に「ゴックン」と飲み込む動作が有効です。
錠剤を飲むときと同じ要領です。「ゴックン」と飲み込むと、喉頭はいったん上がって下がる運動を行います。この動きが喉のリラックスにつながるのです。
プレゼンテーション会場での準備
さて、これまでたくさんのプレゼンテーションを聞いてきましたが、聞き取りにくい原因のうちの2割は、話し手以外の要因です。
その中で一番大きいのは会場の残響です。天井が高く広い会場では、残響が長くなりがちです。残響が長ければ、話し声に残響が被り、聞き取りにくくなります。
「最近はマイクの性能も良いから大丈夫なのでは?」と思いがちですが、残響とマイクの性能は関係ありません。
会場の残響は問題なくても、マイクやスピーカーのために残響が発生し、聞き取りにくくなっていることもよくあります。
とくにマイクの感度が良すぎると、声の残響が増え、生々しい息づかいや唾の音が強調されて聞きづらいものです。
せっかくプレゼンテーションでちゃんと話せても、会場の残響のために、声が聞きとりにくくて内容が伝わらなかったとしたら、とても残念です。
そこで対策をお伝えします。
音響確認の方法
まず会場に到着したら、リハーサルでステージに立って手を「パン!」とたたいてみましょう。残響が長ければ「パアァァン!」と響きます。
こういう会場では、早口は厳禁。前の響きが消えないうちに次の言葉が発声されるため声がかぶってしまい、聴衆にとって大変聞きにくくなってしまいます。
マイクテストは必ず行ってください。ただ「アーアーアー」だけではダメ。本番と同じように実際に話すことです。実際に話さないと、残響を含めた声の聞こえ方はわかりません。
声は、スマホで録画して確認してもチェックできます。ただ、声は場所によって聞こえ方が違います。
スタッフに客席のいろいろな場所に立って、実際にしゃべる様子をチェックしてもらうとベストです。
もしマイクの感度が良すぎる場合は音量を調整するか、マイクと口の距離を離しましょう。プレゼンテーションを成功させるためには、残響まで気を配ることが必要なのです。
執筆者プロフィール : 永井千佳(ながいちか)
広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。さらに、NHK総合、週刊誌「AERA」、文化放送、J-WAVE、TOKYO FM、雑誌「プレジデント」、日経産業新聞など、さまざまなメディアでも活動が取り上げられている。主な著書に、『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA 中経出版)がある。