プレゼンテーションで人が動くためにはどうすればいいのでしょうか? 人は話し手の「パッション」で心を動かされ、動きます。「伝えたい」という強いパッションがプレゼンテーションの原動力なのです。
今回はパッションについて考えます。
プレゼンテーションはパッションで始まる
前回「ビジネスプレゼンテーションの目的は、プレゼンを聞いた人が感動して意図した通りに行動を変えることだ」とお伝えしました。
人が動くために最も大切なことがあります。それは「パッション」です。これがなければ、何も始まりません。
「ついつい熱意にほだされてね」
「こんな熱心な人に応えないわけにはいかない」
こうした言葉を聞いたことありませんか? 話し手のパッションが聴き手に伝わり、聞いた人は行動を変えるのです。パッションは熱伝導するのです。熱量が高ければ高いほど、強く、広く伝わっていきます。
私は数多くのプレゼンテーションを見てきましたが、「この人が話すとプレゼンが成功し、周囲の行動が変わり、会社が良くなっていく」という人がいます。その方々に共通するのがパッションなのです。
「この人が手がける商品は必ずヒットする」と言われる社長さんもいます。その方のプレゼンテーションを聞いていると、毎日の仕事に汗水たらしているビジネスパーソンのリアルな熱量そのものが伝わってきて、「うん、うん」と思わず頷きながら聞いてしまいます。
周りの客席を見ると、みないつの間にか大きく頷きながら聞いています。パッションは「熱伝導」でこそ伝わるのです。
「仕事の情熱が、透けてみえる」
これこそが、ビジネスパーソンのプレゼンテーションの神髄だと思います。
パッションのあるストーリー
そして人は、パッションにこめられたストーリーで動きます。ストーリーといっても、必ずしも面白いものである必要はありません。
個人的な体験から得た気づきや、自分なりの仕事における信念を語れば、言葉に借り物ではない強いパッションがこもります。
ここで2つの例をご紹介しましょう。
例1
「皆様、本日は足をお運び下さいまして、まことに感謝申し上げます。我が社は、大豆食品の会社で、健康へも取り組んでおります。大豆につきましては長い歴史があり、お客様第一というポリシーも持っております。大豆加工についても、独自技術がございます。それは……(10分経過)さて本日は、我が社の高い技術を活用した、必ず成功するダイエット食品の発表を行います」
例2
「皆さんこんにちは! 私は1年前、医者から『このままだと余命7年』と言われました。写真は今より10キロ太っていた1年前の私です。コレステロールも血圧ももの凄く異常値でした。周りからは『ダイエットしろ』と言われていたのですが失敗ばかりでした。今はすべて正常で、医者も『大丈夫』と太鼓判を押しています。今日はこんな私だからこそ成功した、『成功するダイエット』の製品発表会です」
さて皆さん、どちらのほうに説得力があると感じましたか?
例1はよくあるパターンです。例2は、自分自身の体験から生死に迫るレベルで製品を語っているので、抜群の説得力を発揮しています。
プレゼンテーションは主観が大事
ここで大きな武器になるのが「主観」です。これは皆さんの常識とは違うかもしれません。「客観的に語れ」と思っている人が多いからです。
確かにビジネス戦略は客観的に考える必要があります。しかし人は感情で動きます。聴き手が、話し手の生き様や哲学などが反映された物語に共感することで、話が自分事となり、行動が変わるのです。
人が動くためには、ストーリーが大切なのです。自分のストーリーでパッションを込めて話せば、高い技術は必要ありません。
私のクライアントで「話が上手になりたい」とおっしゃる方はたくさんいます。上手に話したいと思う方は多いのではないでしょうか?
しかし、上手に話す技術を身につけることで、皮肉なことに説得力を落としてしまうこともあるのです。
技術とパッションのバランスには、3パターンがあります。
分類 | 特徴 |
A | パッションと技術がつりあっている。聞き手は、「本音で話している。信用できる」と感じる |
B | パッションはあるが、技術が下回っている。聞き手は、「不器用だけど嘘を言っていない」と感じる |
C | パッションを技術が上回る。聞き手は「なんだかウソっぽいなあ」と感じる |
プレゼンテーション技術があまりにも高いと、「Cパターン」になってしまいがちです。
技術も大事ですが、その前に「わき上がるようなパッションを持っているか」ということが、ビジネスプレゼンでは何よりも問われます。技術は脇役で、主役になってはいけないのです。
執筆者プロフィール : 永井千佳(ながいちか)
広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。さらに、NHK総合、週刊誌「AERA」、文化放送、J-WAVE、TOKYO FM、雑誌「プレジデント」、日経産業新聞など、さまざまなメディアでも活動が取り上げられている。主な著書に、『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA 中経出版)がある。