プレゼンの資料作成にやたらと時間がかかっていませんか? 何をどんな順番で言うのか、1枚1枚のスライドはどうつくるのか……考え始めるときりがなくて、締め切り間際になってエイヤッとばかりにむりやり完成させるなんて経験をしたことがある方もいるかもしれません。

プレゼンには「王道」があった!

実はそこには理由があって、それはプレゼンには様々なスキルが求められるから。これを表したのがプレゼンテーション・ダイヤモンドモデルで、詳しく知りたい方はこの連載の第1回「日本人が陥りがちなプレゼンテーションの落とし穴」をチェックしてみてください。

その中でもキモに当たる「コンテンツ」、すなわち「何を、どのような順番で言うか」が今回のテーマです。誤解を恐れずに言い切ると、「コンテンツ・イズ・キング」。プレゼンの資料作成にやたらと時間がかかっていませんか? 何をどんな順番で言うのか、1枚1枚のスライドはどうつくるのか……考え始めるときりがなくて、締め切り間際になってエイヤッとばかりにむりやり完成させるなんて経験をしたことがある方もいるかもしれません。

逆に言うと、たとえ見栄えがキレイだろうがデザイン的に優れていようが、コンテンツが「ユルい」プレゼンテーションは、ダメ。世の中に出ているプレゼンテーションの本の中には、フォントの大きさは何ポイント、色は3色まで……のように資料の「見栄え」を解説したものがありますが、実はそれは優先順位で言うと低め。そこに時間を使うくらいなら、コンテンツづくりの方に重点を置いて準備をすべきです。

と聞くと、「そこが大変なんだよなぁ」という声が聞こえてきそうですが、実は「何をどう言うか」にはフォーマットがあります。それが、P-COAT(ピーコート)です。

P-COAT

これがいわばコンテンツの「王道」とでも言うべきもの。ご自身のプレゼンテーションをどのようにするか迷ったら、このフォーマットに立ち返ることをお勧めします。

聞き手の立場で目的を考える

では、実際のプレゼンテーションをP-COATにのっとって考えてみましょう。題材となるのは、第2回でも取り上げた、パソコンのアンチウィルス・ソフトを販売している会社の営業マン。お客様への提案活動の最終ステップとしてプレゼンテーションに臨むと想定してください。先方の会社のシステム部の部長が聞き手のキーパーソンで、その方が「イエス」と言ってくれれば大型受注につながります。

P-COATの最初のPはPurpose (背景と目的)ですから、今回のプレゼンテーションをする目的を述べましょう。具体的なプレゼンのシーンを思い浮かべて、どんなセリフで始めるべきでしょうか?

本日お時間をいただいたのは、当社のアンチウィルス・ソフトをご紹介させていただくためです……。

というのは、悪い例。いや、もちろん、これはこれで「背景と目的」にはなっています。ただ、最初のP-COATの説明をもう一度読んでみてください。Pは、「今回のプレゼンをする背景事情と、プレゼンの目的。しばしば聞き手にとっての問題として表される」です。そう、実は上手なプレゼンのコツは、背景と目的を聞き手の立場で考えること。すなわち、

本日お時間をいただいたのは、御社のウィルス対策にとってベストな選択肢をご提案させていただくためです。

と始めるべきです。このように二つ並べてみると、明らかに後者の方が聞き手の部長が興味を持って聞いてくださるのが分かるでしょう。

全体像を押さえてP-COATで考える

ここまで読むと、この連載のファンの方ならば、「なるほど」と気づくはず。

ヒントになるのがPという英単語。もちろんP-COATの中ではPurpose(パーパス:目的)という英単語を使っているのですが、連載第2回では、別のPも紹介しました。それがPain (ペイン:痛み)とPleasure (プレジャー:喜び)。

そう、第2回で解説した「聞き手の分析 (Audience)」で考えた、聞き手はどのような痛み(悩み)を持っているのか、逆にどのような喜びを持っているのかを考えると、先ほども述べた聞き手の立場に立った背景と目的を設定できるのです。

ということで、今回はプレゼンテーションのコンテンツ作成の「王道」、P-COATの前半を紹介してきました。これを意識することで、「どうしよう?」と迷うことはなくなって、プレゼンテーションの準備の時間は圧倒的に短くなります。「Purposeと言えば、お客様の立場に立つと○○かな」、「お客様の問題の原因は□□だな」と、まるでそれは穴埋め式のようなもので、サクサクとプレゼンをつくり始めることができます。

そして、更にプレゼン上手になりたい方は、是非連載の最初から読んでみてください。下記に掲載しましたが、プレゼンテーションの全体像はABCDDEで表されます。この全体像を押さえた上で、改めてコンテンツをP-COATで考えるのが、より効果的なプレゼンへの近道です。

プレゼンテーションの全体像ABCDDE

執筆者プロフィール : 木田知廣

シンメトリー・ジャパン代表、米マサチューセッツ大学MBA講師。米国系人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにてコンサルタントとして活躍した後英国に渡り、ロンドン・ビジネススクールの故スマントラ・ゴシャールに師事する(2001年MBA取得)。帰国後は、社会人向けMBAスクールのグロービスにて「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、苦闘の末に前身的なプログラム、GDBAを2003年4月に成功裡に開校にこぎつける。2006年シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、自ら教壇に立つとともに後進の講師の養成を始める。ライフモットーは"Stay Hungry, Stay Foolish" (同名のブログを執筆中)。