プレゼンテーションの最後に「ご静聴ありがとうございました」とプレゼンターが深々と頭を下げる……一見するとごく当たり前の光景ですが、そこには日本人特有の「落とし穴」があるってご存じでしょうか?

日本人特有の「落とし穴」とは?

外国のMBAホルダーと話していても、「あれってヘンだよね」とよく話題になるのです。なぜならば、本来プレゼンテーションというのは、単に「人前で話す」ことではないから。むしろ、自分が話したことを聞き手に理解してもらい、結果として聞き手が期待した行動をとってくれる……。これこそが欧米人にとってのプレゼンなのです。

そんな目で、「ご清聴ありがとうございました」を見直してみると、「話すことそのもの」が目的になってしまっていて、何とも違和感を覚えます。このようなプレゼンテーションでは、聞き手も「……だから何?」と反応するしかないわけで、せっかく時間と労力をかけたとしても意味がありません。

この、聞き手に期待した行動をとってもらうということを、私たちは「『LeADER(リーダー)』原則」という言葉に託してお伝えしています。ちなみに、LeADERは、”Let thE Audience Do the Expected Reaction”の頭文字を取ったものですね。営業であればお客さまに受注のイエスを言っていただくこと、社内のプレゼンであれば関係者からゴーサインをもらうことなど、事前に設定した行動を聞き手にとってもらって初めてプレゼンは完結するのです。

と聞くと、「うわぁ、大変そうだなぁ」と思うかもしれませんが、発想を変えれば実はこれほど気が楽なことはありません。もしもプレゼンの目的が「人前で話すこと」だったならば、事前に用意したスライドを使って一字一句間違えないように気をつける必要があります。これでは、緊張してしまうのも当然ですよね。

逆にLeADER原則でプレゼンテーションを行うと、「何を話してもいいし、トチってもスベってもいい。最終的に聞き手に期待した行動をとってもらえるならば」と良い意味で開き直ることができるのです。実際、私の主催するプレゼンテーション・カレッジでは、LeADER原則でガラッとプレゼンのスタイルが変わるということを、1,000人を超えるビジネス・パーソンが実証しています。

意外にリスクがある「TED」のプレゼン

ちなみに、このLeADER原則からすると、ネット上でも人気のプレゼンテーションイベント「TED」は、マネすることにリスクがあることに気付きます。TEDは、

・その分野の第一人者が
・自分の考えを広めるために
・聴衆に語る

ことをイベントの骨子としているので、必ずしもLeADER原則にのっとっているわけではありません。数あるプレゼンの中には、植松努さんのプレゼンのように、「仲間を募る」「自分で限界を決めずに行動することを聞き手に促す」などのLeADER原則があるものもありますが、どちらかというと例外的。

まあ、そもそもの趣旨が、"ideas worth spreading (世間に広める価値のあるアイデア)"を標ぼうしているので当然と言えば当然ですが……。個々のテクニックやプレゼンターの姿勢には参考になる要素もあるものの、実際のご自身のプレゼンテーションに採り入れる際には、自分なりにアレンジする必要があります。

プレゼンテーション・ダイヤモンドモデル

では、このLeADER原則を踏まえて、プレゼンテーションの全体像を解説します。それが「ダイヤモンドモデル」と呼ばれる4つの要素からなるモデルです。

プレゼンテーション・ダイヤモンドモデル

右上の「プレゼンテーション」は、狭い意味でのプレゼンテーション、つまり立ち居振る舞いや顔の表情、よく通る声などを指します。一方で左上の「ドキュメンテーション」は、スライド作りと言い換えてもいいのですが、プレゼンテーションの際に投影するパワーポイントの作成です。

ただ、このような目で見えるもの「だけ」が重要ではないと、プレゼンテーション・ダイヤモンドモデルは示唆します。先ほど紹介した二つの要素は目に見える、耳で聞こえるという観点で「具体」的なものでありながらも、「抽象」的な要素も大事なのです。それが左下の「コンテンツ」、つまりプレゼンテーションのスライドの構成であり、右下の「ファシリテーション」と呼ばれる、聞き手の頭の中を考えて、そこに新たな情報を定着させる工夫です。これらは、目には見えないかもしれないけれど、実際のところは成功するプレゼンテーションというのは、このレベルで勝負が決まっているものです。

ちなみに、プレゼンテーション・ダイヤモンドモデルの右側半分は「ヒト」に関するもの。つまり、その個人の立ち居振る舞いや伝えるための工夫です。一方で、右側は「モノ」ですから、パワーポイントのスライドや配付資料になります。いずれにしても、これらの要素をモレなく考えることが、プレゼンテーションの成功の秘訣です。

執筆者プロフィール : 木田知廣

シンメトリー・ジャパン代表、米マサチューセッツ大学MBA講師。米国系人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにてコンサルタントとして活躍した後英国に渡り、ロンドン・ビジネススクールの故スマントラ・ゴシャールに師事する(2001年MBA取得)。帰国後は、社会人向けMBAスクールのグロービスにて「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、苦闘の末に前身的なプログラム、GDBAを2003年4月に成功裡に開校にこぎつける。2006年シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、自ら教壇に立つとともに後進の講師の養成を始める。ライフモットーは"Stay Hungry, Stay Foolish" (同名のブログを執筆中)。