日本時間の5日夜、投票が始まったアメリカ大統領選挙。各種世論調査では大接戦となっていますが、市場は選挙の結果をどう予測し、どのような動きを見せているのでしょうか。また、大統領選後のドル・株・金利はどうなっていくのでしょうか。SBI FXトレード株式会社 代表取締役社長の藤田行生氏が解説します。

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市場は「トランプ氏勝利の確率が高まっている」と判断

米大統領選に向けて、まずは共和党トランプ氏と民主党ハリス氏、どちらの勝率が高いのかに注目したい。

RealClearPoliticsに代表される世論調査によれば、11月1日現在、トランプ氏とハリス氏がほぼ拮抗している。一方、Polymarketに代表される賭けサイトのオッズから算出される勝率をみてみると、トランプ氏約64%、ハリス氏約36%と、20ポイント以上トランプ氏勝利に傾いている。

この差の発生に関して複数の要因が市場では指摘されているが、注目すべきは世論調査等では極端な発言を繰り返すトランプ氏を表立って支持するとは言いにくい一方、実際に自分の資金を利用する賭けサイトでは、自分が本当に勝つと思っている方に資金が流れやすい、という点ではないだろうか。

こういった要因から、市場では「トランプ氏勝利の確率が高まっている」と判断され、10月はいわゆる"トランプトレード"と言われる『ドル高・株高・金利高』の動きが顕著にみられた。

そもそも"トランプトレード"とは?

では次にトランプトレードとは何かという点であるが、金融市場に影響が大きいものが2つ挙げられる。

1つ目は大統領在任時に成立させた法人税率引き下げなどのいわゆるトランプ減税の継続と、チップや社会保障の課税廃止などの新たな減税を中心とした減税政策。2つ目は、全ての貿易相手国に対する一律10~20%の関税や、中国に対する60%の追加関税だ。

減税政策は景気刺激という側面から、関税引き上げは輸入物価上昇という側面から、いずれもインフレ高進を促す政策であると言える。したがって、その結果として金利上昇からドル高が進行しやすくなるとの見方に加え、減税政策による景気刺激により株高との見方が強まり、トランプトレードとは『ドル高・株高・金利高』とのコンセンサスが固まった。

大統領選後を天井として『株安・ドル安』に転換と予想

ただ注意が必要なのは、トランプトレードは上に挙げたような減税政策、関税政策から想起される、ある意味「目先」の金融市場の動きである点だ。実際にはそれらの政策が「長期的」にどのような影響を金融市場に与えるのかを考えることが必要となる。

なぜなら、金融市場は先の衆議院選挙のように先読み先読みで動いていくからだ。当初、自公の議席数が過半数を割り込んだことで政権運営が不安定になるとみられ、前日比マイナスで始まった日経平均が、石破政権が将来的に国民民主党と組むことで景気刺激策を実施せざるを得なくなるとの憶測から、瞬く間に大幅高となったことは記憶に新しい。

トランプトレードに話を戻すと、大規模な減税政策は急速な財政悪化を招く恐れや、そもそも財源の問題から実施できるのかも怪しい。実施できない場合には当然のごとく景気浮揚効果が得られないが、実施できた場合も米FRBのインフレ鎮静化が道半ばのなか、関税政策によるインフレ高進に加えて、減税政策による財政悪化から悪い金利上昇を招き、最終的には株安、ひいてはドル安に繋がる可能性が高い。

したがって、市場予想通りトランプ氏が勝った場合、初動としては『ドル高・株高・金利高』で反応するものの、すぐに『株安・ドル安』に転換し、大統領選後を天井として上値の重い展開になるとみている。

さらにその度合いは、"トリプルレッド"と呼ばれるトランプ氏が大統領に選ばれ、且つ、上院、下院とも共和党が過半数となる場合には、より顕著になると思われる。

藤田行生

SBI FXトレード株式会社 代表取締役社長。神奈川県相模原市出身、中央大学経済学部卒業。改正外為法施行後の1999年から国内黎明期のFX事業において主に外国為替ディーラーとして従事。2008年5月SBIグループでの本格的なFX事業立ち上げのため、SBIリクイディティ・マーケット(株)の設立に尽力。為替ディーリングやシステムなどの責任者を務め、2020年6月SBIリクイディティ・マーケット(株)取締役副社長に就任。その後SBIグループのFX専業会社である、SBI FXトレード(株)代表取締役社長に就任し、現在に至る。