目標に向かってタスクを細分化し、着々とこなしていく……。仕事というと、このような逆算のイメージを持つ人も多いかもしれません。

しかし、ディズニーには、仕事は2ステップで作り上げていくものだという考え方があります。

オリエンタルランドで約20年にわたる人材育成の実践経験を持つ大住力氏によると、ディズニーの職場では、メンバーが働くことに喜びを感じながらプロとして機能するためのしくみとして、仕事を「やらなければならないこと(デューティ)」と「自分で考えて動くこと(ミッション)」の2つに分けているそうです。

時間に追われて日々の業務を片付けるだけではなく、工夫やアイデアを加えて成果を上げることが、メンバーのやりがいや、組織全体として提供できる価値の増大に繋がるというのは、確かに共感できますよね。

そこで今回は、2024年に刊行された同氏の著書『どんな人も活躍できる ディズニーのしくみ大全』(あさ出版)より、メンバーの働きがいと組織のミッション達成が両立するしくみを一部抜粋編集してお伝えします。

■メンバーのプロ意識を養う「デューティー」と「ミッション」

プロとして仕事をするためのステップ1はデューティ(DUTY)をこなすこと、ステップ2はミッション(MISSION)をこなすことです。

「デューティ」とは、必ずやらなければいけない仕事のことをいいます。量的仕事にあたり、頭ではなく身体で覚えていく仕事で、誰がやっても同じ結果にならなければなりません。

たとえば、「お客様に見積書を送る」という場合、見積書を作成してお客様に送るだけであればデューティの範囲です。

一方、「ミッション」とは、デューティの先の次元にあるもの、いわばこれこそが「本来の仕事」です。

質的仕事にもあたり、いわば自分の頭で考えなければできないこと。ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)では表現されない部分です。

「お客様が理解しやすい見積書を作る」「お客様が他社に相談する前に概算見積もりを送って、電話をかける」など、自分の頭で考えておこなった仕事は、自分の「こだわり」や「テクニック」にもなります。

こうしたちょっとした工夫を仕事の中でできると、プロとしての自信になります。

メンバー1人ひとりがこの2ステップを繰り返すことで、会社のミッションを達成できるのです。

■仕事は失敗した後が重要

ウォルト・ディズニーの有名な言葉に「ディズニーランドは永遠に未完成」というものがあります。

これは、「仕事に、これで良し(完ぺき)はない」ということです。

先ほどお伝えした通り、ディズニーには、デューティをこなすためのマニュアルがあります。マネジメント職の内容についても、どの箇所をどのように管理するのかがマニュアルに書かれています。

これは、「型を作って仕事を与えれば、漏れがなくなる」という考えにもとづいて作られています。

一方、ミッションについては、「自分の頭で考えるもの」と書いてあるだけです。そこには、「仕事は無限であって、常に既存の方法で満足してはいけない」という思想があるのです。

自分の頭で考えて動いた結果、失敗することもあります。その場合は、失敗した理由を本人とリーダーが話し合うことが教育であり、失敗した経験は必ずプラスに働くのです。

とはいえ、事業の内容や現場の事情、時流に応じてデューティとミッションの割合は変わります。ディズニーではデューティが6割、ミッションが4割としています。

リーダーはこの2つのバランスを考えていく必要があるでしょう。

たとえば、現場にAIが導入され、活用できるようになれば、デューティの割合を減らし、代わりにミッションの割合を増やすこともあるかもしれません。

ただ、重要なのはデューティとミッションの比率ではなく、仕事には必ずデューティとミッションがあり、ミッションを達成して初めて、企業の使命、あるいは仕事が達成されるということ。

リーダーは、メンバーが自分で考えたことを実践できる環境やしくみを作っていくことが大切なのです。

大住力

ソコリキ教育研究所代表。Hope&Wish公益社団法人 難病の子どもとその家族へ夢を代表。大学卒業後、株式会社オリエンタルランドに入社。約20年間、人材教育、東京ディズニーシー、イクスピアリなどのプロジェクト推進、運営、マネジメントに携わったのち退職。その後、「Hope&Wish公益社団法人 難病の子どもとその家族へ夢を」を創設。2020年に同法人は日本における「働きがいのある会社ランキング小規模部門第3位」、アジア地域における「働きがいのある会社ランキング中小企業部門第17位」を受賞。東京2020オリンピック・パラリンピックのボランティア人材育成統括も務める。これまでに業種業態を超えた行政、企業、団体に講演、人材教育指導、コンサルティングをおこなっている。『一度しかない人生を「どう生きるか」がわかる100年カレンダー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『マンガでよくわかる ディズニーのすごい仕組み』(かんき出版)など、著書多数。

『どんな人も活躍できる ディズニーのしくみ大全』(大住力 著/あさ出版 刊)

ディズニー作品は、その魅力的なキャラクターと心温まる物語で、世界中の人々に愛され続けています。その成長の背景には、多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れ、「全員を機能させる」という合理的な人材育成メソッド、そしてウォルトディズニーの強力な人材育成哲学があります。この本では、オリエンタルランドで20年にわたる人材育成の実践経験を持つ著者が、ディズニーの人材育成メソッドの秘密を解き明かします。ディズニーが創業当初から大切にしている三つの柱、1.ミッション、2.チーム、3.コミュニケーション の要素が、どのように組織の多様性を強みに変え、高いホスピタリティを実現し、同時に従業員の成長を促す環境を作り出しているのかを、具体的な事例とともに解説します。リーダーや経営者、組織のポテンシャルを最大限に引き出したい人にとって必読の書です。