ファッションアイテムを中心に、世界のさまざまなハイブランドでリバイバルの動きが顕著です。ブランド品の価格高騰も進む中、注目を集めているのが「ヴィンテージウォッチ」。上手に選べば、ヴィンテージならではの味わいと実用性を兼ね備えたお得な買い物ができることもあるそうです。
ヴィンテージウォッチ人気再燃の背景や選び方について、株式会社コメ兵 商品部 時計グループの那須祐介氏に聞きました。
「リバイバル」の機運や差別化需要がヴィンテージ人気を後押し
――「ヴィンテージウォッチ」とはどのような時計を指すのでしょうか。まずはヴィンテージウォッチの定義を教えてください。
一般に「アンティーク」は100年以上前、「ヴィンテージ」はそれよりも新しく20~100年前までのものを指すことが多いです。ただ、ヴィンテージウォッチの定義はやや曖昧で、販売店によって括りにバラつきが見られます。
当社では、おおむね1950~1980年代に製造された時計を「ヴィンテージ」と称しています。現行の時計は風防にサファイアクリスタルのガラスを使用していますが、ヴィンテージウォッチは風防(文字盤を覆うカバー)にプラスチックを使用していたり、文字盤に今は使われていない夜光塗料が使用されていたりという特徴があります。
――ヴィンテージウォッチ人気再燃の背景には何があるのでしょうか?
前提として、時計に限らず、旧車や古着など、古いものを再評価する社会の流れがあるように感じます。現行品にない雰囲気や個体差、歴史を感じられる点などが再評価されている印象ですね。その上で、現行品の定価上昇が目立っているので、スペックに対してお得感があるヴィンテージが評価されています。
さまざまなブランドが過去のモデルのデザインを再現した復刻デザインを発売していることも、原型であるヴィンテージに注目が集まる要因になっているのではないでしょうか。「1点ものがほしい」「他人と同じものを使いたくない」といった差別化需要もヴィンテージウォッチ人気を引き上げています。
実はお得なアイテムが多いヴィンテージウォッチ
――「ヴィンテージ」というと高級品のような響きがありますが、ヴィンテージウォッチは現行品よりも安く買えるのでしょうか?
ブランドやモデルによって例外もありますが、基本的には中古品としてリバイバルモデルの定価や現行品よりも安く買えることがほとんどです。例えば、ケースに18金素材を使ったものの場合、メジャーブランドの現行品で100万円を切ることはほとんどありませんが、ヴィンテージなら15~20万円程度で購入できるものもあります。スペックに対してのお得感がヴィンテージウォッチの一番の推しポイントですね。
――ヴィンテージウォッチは特にどのような層に人気があるのでしょうか?
特に30代以上の男性に人気があります。30代以上はブランド志向が残っていることに加えて、10~20代に比べてお金に余裕があることや、自分の生まれ年のヴィンテージウォッチが手に入れられることも関係しています。
以前は40代以上の男性がヴィンテージウォッチを購入するケースが多かったのですが、近年は、インフルエンサー等の影響もあり、ヴィンテージウォッチに興味を持つ年齢層が広がってきている印象ですね。オメガやタグ・ホイヤーなど、比較的若い男性に人気のあるブランドの中古品が高騰しているので、新卒で社会に出るときに、価格が手頃なヴィンテージを購入する人も増えています。
おすすめは実用性とコスパを兼ね備えた1970~80年代
――どのようなヴィンテージウォッチが特に人気なのでしょうか?
現行品につながるストーリー性のあるブランドやモデルの評価が高まっています。現行品にない仕様やエイジングがあると、さらに評価が高くなりますね(※経年による変化に対しては、店舗や個人によって評価に幅があります)。ムーブメントは機械式で、素材はステンレスや金無垢など、長く使い続けられるものが人気です。
具体的には、以前から定番で人気のロレックスのスポーツモデルは引き続き高い人気を集めています。それに加えて、シンプルな「デイトジャスト」など、以前はコレクターがあまり手を出してこなかったモデルに普遍的な価値を見出す方が増えていますね。10年前は15万円程度だったのに、現在は40~50万円で販売されているようなモデルもあります。
ロレックスだけでなく、復刻品を多数出しているグランドセイコーやカルティエも人気です。カルティエは古い時計があまり残っておらず、ヴィンテージには希少性があるため、現行品を上回る値が付くものも増えています。特に高騰が激しい「クラッシュ」シリーズの中には、海外オークションで約20億円で落札されたものもあります。「クラッシュ」のような極端な値が付くことはありませんが、海外需要も高い「タンク」シリーズも非常に人気があります。
また、オーデマ ピゲの「ロイヤルオーク」やパテック フィリップの「ノーチラス」など、有名デザイナーのジェラルド・ジェンタ氏がデザインしたものは、ブランドを問わず軒並み値上がりしています。
――ヴィンテージの中でも特におすすめの年代はありますか?
ヴィンテージウォッチの中では新しい、1970~1980年代のものでしょうか。日本は湿度が高いこともあり、1950~1960年代のものは故障の懸念がありますし、精度の面からも実用に不安が残るものが多いのが現実です。その点、1970~1980年代のものは、実用に耐えられるスペックとお値打ち感を兼ね備えています。
購入時は「オリジナル性」に要注意
――ヴィンテージウォッチを購入する際の注意点を教えてください。
一番はオリジナル性です。ヴィンテージを謳っていても、オールニュー(外装部品を全て新品交換したもの)や加工品も存在します。オールニューはヴィンテージウォッチとしての評価が下がる傾向がありますし、加工品は買い取ってもらえないこともあります。個人で楽しむだけならその方の価値観次第ですが、いずれ売却する可能性がある場合はオリジナル性を重視したほうがいいでしょう。もし修理が施されている場合であっても、いつどのような修理が行われたのか、修理明細が残っているほうが評価が高くなりやすいです。
実のところ、世の中にはヴィンテージウォッチとしてはグレーゾーンにあたるようなものもたくさん出回っているので、購入の際は信頼できるショップを選ぶことを意識していただきたいです。ヴィンテージウォッチはメーカー修理の対象外になっているものも多く、販売店に修理を依頼することも多いので、長い関係性を続けられるお店であることが大事になってきます。
――信頼できるショップかどうかを判断するには、どのような点に注意すればいいのでしょうか?
古物商の許可を取得していることが大前提ですが、ネットショップのみの業者よりも実店舗を持っている業者のほうがより安心です。ヴィンテージウォッチは現行品よりもはるかに個体差が大きいので、店舗で現物を見てから購入することをおすすめします。
ヴィンテージウォッチの知見に乏しい店舗では、店舗側もそうとは知らずに加工品を販売していることもあるので、できるだけヴィンテージウォッチの専門店で購入したほうが、失敗がありません。コメ兵ホールディングスでも、銀座にアンティーク・ヴィンテージウォッチ(メンズ)専門の「Shellman銀座本店」を展開しています。
――最後に、那須さんが考えるヴィンテージウォッチの魅力をお聞かせください。
以前、上司から「時計は人から『何つけてるの?』と言われたもの勝ちだよ」と言われたことがあります。高額品・有名ブランド品でなくても、ヴィンテージウォッチに独特の雰囲気があるので「何つけてるの?」と聞かれるような1点モノを探す楽しみ、着用する楽しみがあるんです。その意味で、ヴィンテージにはスペックや金額だけにとらわれない魅力があると感じますね。「自分の生まれ年のモデル」「有名人の○○が使っていたモデル」など、ストーリー性を見出しやすいのもヴィンテージの良さだと感じています。