自然に学び、しなやかで柔軟な感覚に基づく「ナチュラル・リーダーシップ」という考え方が現在注目されています。

感覚ベースでリーダーシップを習得することで、「リーダーとしてこうあらねばならない」という従来の理論にがんじがらめになってしまう人の悩みが、解決されるかもしれません。

今回はスタンフォード大学で牧場研修に衝撃を受け、北海道で牧場を運営しながら「ナチュラル・リーダーシップ」を提唱している、小日向素子さんの著書『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)の内容を一部ご紹介します。

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■スタンフォード大学で到達した理論より大切な「感覚」

仕事柄、日々、多くの経営者、役員、管理職等、リーダーを務める方々のお話をよく伺います。そうした方々の多くが、リーダーとしてどうあるべきか、迷い、悩んでいます。 かつての私もそうでした。

私は以前、企業でリーダー職に就いており、30代半ばでジャパンリージョンのマーケティング部部長に就任しました。長い歴史を持つ同社で女性がこのポジションに就くのは初めてのことでした。

巨大な組織ではどうしても、論理的な思考ばかりが追い求められて、感覚的な要素は排除されがちです。私は業務に励み、求められる結果を出しながらも、次第に窮屈さを感じるようになりました。思うように部下を育てられず、リーダーとしてどうしたらよいのか、わからなくなってしまったのです。

そんな矢先、勤めていた会社が買収され、私は職場を去ることになりました。私はこれをよきチャンスと捉え、会社員時代に不完全燃焼だった自分のリーダーシップを極めるための旅に出ることにしました。

「牧場研修(ホースローグ。旧ホースコーチング)」に出会ったのは、この旅の途中でした。

「これはすごい! 私が求めていたものだ!」

私はそのように確信しました。なぜ「すごい」と感じたのか、言語化できませんが、様々なリーダーシップを学んできた中で、ここまで心をつかまれたのは初めてでした。

自然からリーダーシップやビジネススキルを学ぶという牧場研修の考え方は、欧米では1990年代から活発に取り入れられ、「Equine Assisted Learning(EAL)」の名称で確立されています。

「Equine」はラテン語で馬を意味します。

アップル、フェイスブック(現メタ)、など、名だたるグローバル企業でも、研修として取り入れた実績があります。

「確固たる裏付けがあるからこそ、こうした名だたる企業は予算を割き、研修を導入しているはず」

そう考えた私は、世界各国を回り、様々な牧場研修を体験しました。現地に行けば、「何がすごいのか」、理論的に説明できるようになるのではと思い、旅を続けました。

牧場研修の世界的権威であるスタンフォード大学医学部のビバリー・ケーン博士にも出会いました。

スタンフォード大学には、キャンパスのすぐ隣に東京ドーム47個分の広大な牧場があります。

ケーン博士の研修を受講した後、この牧場に移動しケーン博士と話していた私は、思い切って彼女に牧場研修の効能を尋ねてみました。しかし、ケーン博士の答えは期待していた科学的根拠に裏打ちされたものではありませんでした。

私の気持ちが伝わったのかケーン博士はこう続けました。

「理詰めで馬(牧場研修)の効能を証明しようとすると、こぼれ落ちてしまうものがたくさんあります。それらを無理に証明しようとして、この研修の価値を矮小化してしまうことは避けたいのです」

彼女の言葉に、私は衝撃を受けました。

無理に効能を証明しなくてもいい。人に理由を尋ね回らなくてもいい。自分が「これはすごい!」と感じたのなら、その感覚を信じるだけでいい。この極めて大切なことを、ケーン博士から教えられたのです。

自分の思い込みや理屈に縛られず、自分の感覚を信じて周囲と接する――。

それこそがリーダーシップの本質であり、牧場研修で得られる気づきの本質なのではないかと、私は確信しました。

日本に戻ると早速、北海道で牧場研修を提供する会社を立ち上げました。

人間を思い込みや固定観念から解放し、牧場で馬と接し、新しい角度からその人の内面に光を当てる「馬とのセッション」と、馬と触れ合ったことで感じた抽象的な気づきを日常とつなぐ「室内セッション」を交互に繰り返し、数カ月ごとに、フォローアップコーチングを行っています。

とても感覚的な学びですから、その意味と効果を数値化することは困難なのですが、受講者の方々は口々に、「これはすごい!」とおっしゃってくださいます(かつての私と同じですね)。

この牧場研修の構造、具体的なメソッド、ベースにある哲学を包括して、私は「ナチュラル・リーダーシップ」と名づけました。

「ありのままの私が、自然や他者の一部であるという感覚に基づいて発揮するリーダーシップ」を意味します。

ナチュラルには、「自然から学ぶ」「自分自身が自然体でいられる」という2つの意味を掛けています。

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■自然が教えてくれる激動の時代に求められるリーダー像

現在、多くの管理職の方々が、「リーダーとは何か?」「どのようなリーダーになればいいのか?」といった悩みを抱えています。 急激に変化する時代の中で、この問いの重要性はさらに高まり、答えにたどり着く道のりは険しくなっています。 私はこの難問の答えは、「自然」にあると確信しています。

研修では、参加者を牧場にいる馬の群れの前に連れて行き、次のように尋ねます。「リーダーを探せ」という観察のプログラムです。

「どの馬が群れのリーダーか、直感で選んでください」

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すると、たいていの人が「大きい馬」を選び、理由を聞くと、「大きくて強そうだから」と言います。

次に人気なのが「黒い馬」です。理由は「色が黒いから」。黒いとなぜリーダーなのか、根拠になっていない気もしますが、意外と多い答えです。

ほかにも「集団の先頭に立っている馬」「1頭だけ離れている馬」「ほかの馬を追い立てる動きをする馬」なども選ばれやすい傾向にあります。

大きくて、黒くて、集団の先頭に立っていて、1頭だけ離れていて、ほかの馬を追い立てる――。

これは、リーダーのイメージを、チームを先導する人、近づきがたい人、えらい人(えらそうな態度をとる人)などと捉えている人が多いことを示しています。既存の「優秀なリーダー像」「強いリーダー像」に縛られているのです。

実は馬の群れにおいて、ヒエラルキーは固定化していません。その時々の状況や環境において必要な情報を多く持っている馬が、リーダーシップを発揮すると言われています。

捕食者から逃げる時は、逃げる方向を決めるのが得意な馬が前を走り、力のある馬が仲間を守るために群れの最後を走ります。どちらもリーダーの役割を果たしています。水が必要な時には、水のある場所を見つけるのが得意な馬がリーダーシップを発揮します。

この答えを聞いて、「ひっかけじゃないか」「当てられるわけないじゃないか」と思われた人もいるかもしれません。

だとしたら、「リーダーは先導する人」「リーダーは一個体」という先入観にとらわれてしまっているということです。

1つの組織に複数のリーダーがいても、不自然ではありません。リーダーシップのとり方も多様です。

私たちを取り巻く自然の在り方に学び、力を借りて、新しい視点や価値観、リーダーシップの在りようを捉え直していくことは、これからの多様性の時代において求められていると言えるでしょう。

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「リーダーとしてこうあらねばならない」ではなく、この状況だったら「こうしたらどうだろう」と柔軟に対応できるリーダーでありましょう。

小日向素子

株式会社COAS Founder,Owner。東京都生まれ。国際基督教大学卒業。NTT(日本電信電話株式会社)入社後、外資系企業に転じ、マーケティング、新規事業開発、海外進出等を担当。2006年、グローバル企業の日本支社マーケティング部責任者に、女性として世界初、かつ最年少で就任。2009年独立。新たな学び・成長プログラムの開発を始動し、馬と出会う。2016年株式会社COAS設立。欧米各国の馬から学ぶ研修を巡り、米国EAGALA認定ファシリテーター取得。同時に、組織開発、リーダーシップ、コーチングを学び、スイスIMD Strategies for Leadership修了、キャリアコンサルタント試験合格、ICF認定コーチングコースアドバンスト受講。2017年、札幌に牧場を持ち、馬から学ぶリーダーシップ研修を導入。株式会社資生堂をはじめ様々な業種の企業研修として活用されるほか、エグゼクティブ、リーダー、起業家等、延べ2000名を超える受講者を輩出している。本書が初の著書。

『ナチュラル・リーダーの教科書』(小日向素子 著/あさ出版 刊)

ありのままの自分で、自然や他者の一部であるという感覚に基づいて発揮する本来のリーダーシップ=「ナチュラル・リーダーシップ」。欧米で高い支持を集め、AppleやFacebook(現Meta)、資生堂などの有名企業がリーダー研修として取り入れている人材育成法「牧場研修(ホースコーチング)」では、馬や自然との関わりを通し、このナチュラル・リーダーシップを学ぶことができます。本書は、ナチュラル・リーダーシップを身につけられる、日本で初めての書籍。しなやかで柔軟な「感覚」を磨く9個のワーク付きです。