1カンごとに美味しさが表情を変え、ため息がもれる
1カン目のカスゴ鯛(鯛の稚魚)のにぎりは身がしっとり。4日間寝かせたというシマアジのにぎりは、脂がしっかりのってカンパチかと思うくらいに濃厚な味。シャリには、赤酢の中でもまろやかなものを厳選して使用し、「鮨ゆう」の総大将、尾崎淳氏の確かな目利きで仕入れた厳選素材を丁寧に仕込んでいる。ガリはスライスではなく角切りのもの。随所にこだわりや高い技術が垣間見られる。
3カン目の食べ応えのある真アジにぎりには、細かくたたいたネギが添えてあって独特の風味が広がって楽しい。すると急に黒田氏の声音が高くなり、「プリン巻」が参上。この店でもなんと! 名物「プリン巻」が味わえるとは!
「プリン巻」とは裏ごししたあん肝をシャリと合わせて海苔にのせ、きゅうりを挟んでカウンターの中から手渡ししてくれる、系列店での名物メニュー。あん肝をたっぷりと使ってプリン体が豊富なので「プリン巻」とユーモラスに命名されている。
黒田氏はそれを面白おかしく説明しながら、最後に「ズキューン!」という効果音とジャスチャーまでつけて提供してくれる。お客さんも楽しくなって「は~い!」とノリノリの声がけで参加しながら「プリン巻」を受け取る。お客のもう片方の手にはスマホ。全員が動画を回しながら記念撮影をするのだ。
地味で無口なすし職人のイメージとは一線を画す、大ぶりのリアクションと満面の笑み。これは外国人観光客などにもぜひ体験して欲しい演出。黒田劇場の活気がみなぎってくると、初対面同士のお客でもカウンターでは会話が弾み笑顔に包まれる。弱冠28歳の黒田氏が時折見せるはにかんだ笑顔さえも、最高のおつまみだ。
5カン目のサワラのにぎりは皮目を香ばしく炙って、福井県産の地がらしを利かせたもの。これが「澤屋まつもと」(松本酒造、兵庫)の純米酒によく合う。その間に目の前にはカニとウニがうず高く盛られたにぎりが並ぶ。取材日は特別にキャビアもトッピング。
海苔の上にのせた豪華な鮨が、また「プリン巻」のように一人ずつ手渡されるかと思いきや、手元のカウンターに置かれたりして小さな笑いが起きる。鮨の高さは4センチほど、その上から横から、お客たちはスマホ撮影に余念がない。
7カン目のマグロは青森県産のキメの細かな上質な赤身、続いてトロのにぎり。これに合わせ日本酒はプレミアム枠の「醸し九平次」をぬる燗にしてグラスで提供してくれた。「トロは口の中に入れるとすぐにとろけるので、それに合わせて日本酒も温めました」と黒田氏。
日本酒の湯気で包まれた鼻腔、温められた舌とのど、そこにトロの極上の旨みが加わると噛むほどに旨みが炸裂し、しばし無言に。気が遠くなる美味しさだ。
9カン目は酸味と旨みがバランスよい小肌、次は半生になるように火入れした甘やかな煮帆立のほぐし軍艦。ふっくらとした穴子のにぎりには爽やかな柚子の香り。そして最後は魚介や干ぴょうなどの太巻きならぬ"福巻き"で大団円を迎えた。お客は皆、背筋を伸ばして清々しい表情になり、黒田氏に賞賛の眼差しを送り続けていた。
「鮨結う 遥」は系列店に名店を持つだけあり、鮨文化を継承する確かな技術を持ちながらも、エンターテイメント性に富んだ大将のパフォーマンスや楽しい会話で、とても素敵な時間を過ごせる鮨店だった。ぜひ年末年始に、神田明神や浅草寺への参拝の際にでも寄ってみてはいかがでしょう? すぐに予約で埋まりそうな予感、事前の電話予約はお早めに。
- 店舗名 : 鮨結う 遥(すしゆう はるか)
- 所在地 : 東京都千代田区外神田5-3-8 宇土ビル1階
- 営業時間 : 1部:17時30分/2部:20時00分
※火・水を中心に月8日休み
※土・日・祝日のみ昼営業:12時00分 - 席数 : 13席(カウンター9席 ・ テーブル6席) ※完全予約制