再開発と相まってその価格が高騰し続ける湾岸エリアのタワーマンション。いわゆる「不動産バブル」としてはじけてしまうのか、今後のインフレにキャッチアップしてさらに価格が上がるのか。今後の動向について、不動産ナビゲーターの渕ノ上弘和さんに聞きました。
湾岸エリアにおける、タワマン高騰の背景
一般的に、マンション不動産投資の勝ちパターンは、以下の2つに大別されます。
(1)自分の住まいとしてマンションを購入し、値上がり益を狙う「自己居住用マンション」
(2)他人に貸すためのマンションを購入し、賃料をとりつつ値上がり益を狙う「賃貸用マンション」
今までの湾岸タワーマンションの勝ちパターンは(1)がメインであり、まだ物件価格が廉価であった2009年頃に自宅として、湾岸エリアのタワーマンションを購入された方々からゲームがスタートしています。
その後、値上がり益を享受して数千万円の転売利益を上げつつ、湾岸エリアに住み替えをし、さらにはローン残債の減少した元々の自宅を賃貸に出して収益を上げていく……このサイクルの中で今のマーケットが形成されました。
では、なぜこのような圧倒的な値上がり現象が発生したのでしょうか? これは「土地(=街)の開発」×「建物仕様」が購入希望者にマッチし、さらに賃料が上がったことが背景にあります。
世界都市博覧会中止後、湾岸エリアは再開発により街が成熟しました。タワーマンションのような、一部の部屋での眺望優位性・豪華なエントランス・ホテルライクな建物仕様等が、他の物件との差別化に成功しました。
そして近年、タワーマンションの投資商品としての側面が強くなり、賃料が上がっているのです。
不動産の資産性を「土地」(=街)・「建物」・「管理」の三要素に分解して、賃料をベンチマークに考えると、「土地(=街)の開発」×「建物仕様」、そして賃料のアップが価格高騰の背景にあると言えるでしょう。
賃料が上がりにくい日本で起こっている「異変」
日本の場合は、部屋の借主が借地借家法上守られていることもあり、オーナーが強気に出にくく、賃料が上がりにくい傾向があります。
そのため、ご自身で購入して住むマーケットニーズが売買の物件価格を押し上げてきていても、賃料は一旦そのままという状況が起こりやすいのが実際です。これは、湾岸エリアのみならず、全国規模で発生していた事象とも言えます。
しかし、昨今はその状況が変わってきています。
- 長引く金融緩和を背景に、不動産・金融資産の売却益を得た「キャッシュ(現金)リッチ層」の台頭
- 業種・業態等にも起因する、賃金の二極化
- インフレの影響を受けた、モノの価格の二極化
- 国内外の投資家による、日本不動産への積極投資
これらによって、賃料が引き上げられているのです。
今回フォーカスしている湾岸エリアは、日本・東京のメインオフィスエリアである東京駅まわり(丸の内・大手町・八重洲・日本橋他)及び、発展が著しい港区(虎ノ門・麻布・六本木他)のオフィスエリアへの交通利便性が高いエリアです。
購入の前段で賃貸に居住する購入候補者のみならず、他のエリアから転勤等で移動してくる方も多く、安定した賃貸需要もより強くなってきているのが実際のところだと考えます。
賃料が上がれば、バブルははじけにくい
ここでいったん、賃料価格と物件価格との関連性について説明させていただきます。
まず、不動産を投資商品として見た場合、不動産価格は「年間賃料÷エリアの適正利回り」で考えることになります。
例えば、そのエリアの物件の年間適正賃料が360万円、利回りが4%の物件であれば360万円÷4%で9,000万円となります。これは理屈としては、シンプルな方程式の考え方であり、以下のように事象としての整理が可能です。
(1)賃料が上がれば物件価格が上がる
(2)賃料が一定で、物件価格が上がれば、利回りは当然下がる
湾岸エリアでの賃貸需要が上がり、「自己居住用マンション」のみならず、「賃貸用マンション」タイプの投資側面も強くなった結果、タワーマンションの物件価格も上がっているというのが今の現状です。
本来上がりにくい賃料の上昇を背景にした価格の上昇は、物件価格が実態以上に膨れ上がる"バブル"の状態にはなりにくいと考えます。
賃料・価格ともに、大暴落は考えにくい
以上が、湾岸タワーマンションを投資商品として見る視点を取り入れた、将来の分析です。現在都内では、東京駅から南西に向かう虎ノ門や六本木、三田・田町や高輪ゲートウェイ・品川エリアに多く中規模以上の再開発案件があります。中でも、築地の再開発を一つのハブと考えると、東京という街が湾岸寄りに形成されていくことが想定され、賃料・価格ともに、直近で大暴落するとは考えにくいのが実際です。
そして、物件仕様による勝ち筋が現状、タワーマンションにある以上、不動産投資のリスク管理も可能です。このトレンドが継続的に続くか否かを、売買物件価格だけでなく、その裏側にある賃料も軸に注視していれば、リスクヘッジができます。
ただ、30数年前のバブル景気とは異なり「どの物件でも」「天井知らずに」物件価格が上がることは考えにくいのも事実。賃料データを継続的にチェックし、丁寧にマンション価格の仮説を立てて、その検証を都度行いながら物件の保有・売買を行っていくことをお勧めします。
渕ノ上弘和(ふちのうえ・ひろかず)/不動産ナビゲーター
2000年に立教大学法学部法学科卒業後、コンサルタントとしてECサイト運営会社を起業すると同時に不動産コンサルタントとしても業務を開始。区分所有建物の資産価値マネジメントに従事するため、2008年より住友不動産建物サービス株式会社、2013年より株式会社東急コミュニティーにて区分所有建物の共用部分・専有部分のマネジメントに従事した後、不動産の資産性を流通の側面から評価するために、2018年にコンドミニアム・アセットマネジメント株式会社の設立代表に就任。2022年2月より株式会社MFS不動産投資事業部執行役員として不動産投資総合プラットフォームサービス・INVASEの事業責任者に就任。