世界でもっともピーテッドなシングルモルトウイスキー「オクトモア15シリーズ」のマスタークラスが開催されました。ブルックラディ蒸留所のヘッドディスティラーであるアダム・ハネット氏が初来日し、「オクトモア」そして、「オクトモア15シリーズ」について語ってくれました。司会と通訳はブランドアンバサダーのジャック・チェンバース氏が担いました。
「オクトモア」はブルックラディ蒸留所で作られているピートタイプのウイスキーです。ブルックラディ蒸留所は1881年にスコットランドのアイラ島に設立されましたが、その後は何度も所有者が変わったり、閉鎖されたりしていました。2000年にワイン商のマーク・レイニエとジム・マッキュワンによって復活し、再び世界中のウイスキーファンから注目を集める存在となったのです。
アイラ島で作られるウイスキーは「アイラウイスキー」と呼ばれ、ピート香が強く燻製のようなスモーキーさが特徴です。しかし、ブルックラディ蒸留所で作られる主力製品の「ブルックラディ」はアイラ島では珍しくノンピートなのです。そこで、蒸留所が復活した2001年からはピートを使った「ポートシャーロット」を作り始めました。
ウイスキーの製造過程で使われるピート(麦芽を乾燥させるために使う泥炭)により、麦芽に付着するフェノール化合物の濃度を示す値をフェノール値と呼び、ピートの強さの指標になっています。一般的には、フェノール値が高いほど、スモーキーになります。「ポートシャーロット」のフェノール値は40ppmです。なかなかにスモーキーで、アイラウイスキーの中でも平均以上のフェノール値となっています。
「麦芽はベアーズ・モルティング社でモルティングしているのですが、実は非常に高いフェノール値の麦芽を作ってから、ノンピート麦芽と混ぜて各蒸留所の要望に合わせたppmにしています。2002年に、その混ぜる前の麦芽を使ってウイスキーを作ったらどうなるだろうと考えました。モルティング施設の人は、美味しくはならないだろう、と言いました」(アダム氏)
「モルティング施設で作られる麦芽は毎年異なる」とも。つまり、同じウイスキーを作り続けることができないということです。
当時のブルックラディ蒸留所は大手企業ではなく、個人企業のような雰囲気があり、とても自由だったそうです。そのため、味がどうなるのかわからない、毎年異なる麦芽になってしまう、と言われても、それを楽しみにして「オクトモア」の蒸留が始まりました。
「始めて蒸留したオクトモアのフェノール値は80ppmでした。それまで、80ppmのようなウイスキーは作られたことがなく、ブルックラディにとってすごく面白いチャレンジでした。ブルックラディのエレガントでフローラルなハウススタイルを守れるのか、どの樽に合うのか、今でもチャレンジをしているところです。5年間熟成させた段階で、もうこれは十分に美味しいぞと思い、2008年にリリースしました」(アダム氏)
最初に発売された「オクトモア 1.1」は5年熟成で、フェノール値は80.5ppm、アルコール度数は63.5%です。スペックだけ見ると、若すぎて、スモーキーすぎて、アルコールも強すぎるように見えますが、実際に飲んでみるととても美味しかったそうです。
翌年は「オクトモア2.1」がリリースされました。ナンバリングの整数部分はリリースの回数を表します。小数点の部分は、使った樽を表しています。「.1」はアメリカのバーボン樽のみで熟成した「オクトモア」となります。
「.2」はワイン樽で熟成された原酒をブレンドしたもの、「.3」はオクトモアファームで収穫した大麦を使用したもの、「.4」はバージンオークの新樽で熟成したものとなります。
今回のマスタークラスでは、オクトモアの「15.1」「15.2」「15.3」をテイスティングできました。「15.1」はリチャー(焼き直し)したバーボン樽で熟成し、フェノール値は108.2ppm、アルコール度数は59.1%です。
「アルコール度数は59.1%とけっこう高いですが、香りにはアグレッシブな感じはありません。もちろんスモーキーさはありますが、フローラルでフルーティな、軽やかな特徴もあり、ブルックラディのハウススタイルを守っています。伝統的なアイラウイスキーのヨードっぽさはなく、香りにはスモーキーさが控え目です。しかし、口に含むと、スモーキーさがゆっくり開きます。これがオクトモアスタイルです」(アダム氏)
「15.2」は「15.1」とまったく同じ原酒を異なる樽で熟成。フェノール値も108.2ppmと同じです。「.2」はワイン樽を使っており、フィニッシュにはコニャック樽も使いました。オクトモアでコニャック樽を使ったのは今回が初めてだそうです。
「15シリーズの中では、この15.2が一番好きです。フレンチワイン樽で熟成させるとワインの影響がとても強くなるのですが、コニャック樽はすでに40年以上使われているので、フレンチオークから来る影響がまったく異なります。ドライフルーツやキャンディー、ナツメグといったスパイスは、これまでのオクトモアの中でも珍しい味わいです」(アダム氏)
「15.3」は、アイラ島にあるオクトモアファームの大麦のみを使っていることが特徴です。このファームはブルックラディ蒸留所から約3kmのところにあり、「ポートシャーロット」の熟成庫の隣に位置しています。スコットランド本土の大麦と比べて、アイラ島産の大麦を使うと、アルコールの収穫量が大きく落ちるそうです。
「生産量を考えるならビジネス的にはよくないのですが、それはブルックラディの目標ではありません。個性が違うウイスキーを作りたいと考えています。逆に、取れるアルコール量が少ないからこそ、味が強くなります。初めてオクトモアファームの大麦から作ったのは「6.3」でした。フェノール値は258ppmです。その後もフェノール値の1位を更新するのは「.3」です。「8.3」のフェノール値は309.1で、(もっともフェノール値の高いウイスキーとして)ギネスブックにも登録されています」(アダム氏)
「15.3」はバーボン樽に加え、オロロソシェリー樽で熟成させています。アルコール度数は61.3%、そしてなんとフェノール値は307.2ppmと歴代2位の高さです。とはいえ、香りがきつすぎるというわけではなく、柑橘系のニュアンスもある甘やかなスモーキーさが感じられます。度数が高いからか“とろっ”としており、クリーミーでスモーキーで最高に美味しいウイスキーでした。
「.3シリーズはどれもそうなのですが、ブルックラディのテロワールが感じられます。オクトモアファームは海に近く、毎日潮風にさらされています。そのため、大麦にもその塩気が入ります。どの.3シリーズもすべてソルティな味わいが残っています。ブルックラディという銘柄ではありませんが、もしかしたら、オクトモアが一番ブルックラディらしいかもしれません」(アダム氏)
と、マスタークラスはここまで。そのあとは併設されたバーへ向かい、限定ボトルを含め多数のオクトモアを試飲できました。
注目は、アイラ島限定で、まだスコットランドでも飲めない「オクトモア10年」。アイラ島では毎年5月にアイラフェスを開催しているのですが、そこで出たボトルです。
「基本的にオクトモアは5年熟成です。そもそも、オクトモアはたくさん作るものではなく、ブルックラディの生産量のうち10%にしかなりません。10年熟成させるのもとてもレアですが、たまにはやってもいいかなという気持ちで作りました」(アダム氏)
今回のテイスティングにはなかった「オクトモア15.4」は、バージンオークの新樽で熟成させました。オークというとアメリカンオークやフレンチオークが有名ですが、コロンビア産のアンディーンオークを使っています。樽の内側を焦がすチャーという工程では焼き加減のレベルを色々と変えて、影響を確かめたそうです。
注目ボトルの3つ目はハンドフィルです。ブルックラディ蒸留所の売店では、ウイスキーを熟成させている樽から自分で瓶に詰めて購入できるハンドフィルが行えます。かつて筆者がブルックラディ蒸留所を訪れたときは「ブルックラディ」と「ポートシャーロット」しか買えませんでしたが、今回はオクトモアのハンドフィルボトルを初めて飲むことができました。
ちょっとマニアックな銘柄でもあるオクトモアも、作っている人の話を聞くとぐっと身近に感じます。ピーティーであることは間違いないので、ぜひ皆に飲んで欲しい――とは言いにくいのですが、最高に美味しいウイスキーのひとつであることは間違いありません。
もしバーで見かけたら、一度チャレンジしてみることをおすすめします。そして「オクトモア」ファンであれば、2024年の「オクトモア15」シリーズはすべて当たりなので、ぜひ、お見逃しなく。