ここ数年、キッチン以外の場所に置く「セカンド冷蔵庫」の注目度が高まっています。そんな中、家電メーカーのアクアが「家具冷蔵庫」という新しいジャンルの小型冷蔵庫「LOOC(ルーク)AQR-FD7P」を発表。デザイナーの発案から生まれたというこのLOOCはただの「家具っぽい見た目のセカンド冷蔵庫」ではありません。
ここではLOOCの特徴とともに、LOOCを世に送り出したプロダクトデザイナーの役割について、LOOCの生みの親の一人であるデザイナーの渡邊悠太氏を取材しました。LOOCの発売日は9月上旬、価格はオープン、推定市場価格は77,000円前後です。
家具調デザイン……だけじゃないLOOCが持つ3つの特徴
セカンド冷蔵庫はリビングや寝室など、キッチン以外の場所に設置されることも多い家電ということで、デザイン性をアピールした製品も多く存在します。そんなデザイン性の高いセカンド冷蔵庫ジャンルでも、LOOCは異色。理由は「サイズ」「デザイン」「機能」という3つのポイントにあります。
キッチン以外の場所に置くことを念頭に、LOOCは「生活に溶け込む家具のような冷蔵庫」を目指して作られました。このためLOOCはキャビネットなどの家具を意識した、幅600×奥行き450×高さ913mm(脚付きハイタイプ時)というサイズを採用しています。
45cmという奥行きは、冷蔵庫として使いやすいギリギリの薄さ。この薄さによって、家具と並べても「冷蔵庫だけが飛び出る」ことがほぼなく(もちろん並べる家具にも寄ります)、違和感がありません。また、高さ91.3cmというのは、収納家具であるサイドボードでよく見られる高さ。インテリアデザイナーの窪川勝哉氏によると、この高さは物を載せてディスプレイするのに適している高さでもあるそう。LOOCはアートなどのディスプレイとしても使いやすいのです。
本体のデザイン面では、一般的な冷蔵庫では使われない木目調のドアと、さらに脚を設けたスタイルを採用。脚を付けることで家電感がなくなるだけでなく、床が見える範囲が増えることで部屋を広く見せる効果もあるそうです。
さて、肝心な冷蔵庫の機能としては、庫内左が冷凍室、右が冷蔵室という構成。LOOCは定格内容積72Lのコンパクトな冷蔵庫ですが、通常このサイズの冷蔵庫は「冷蔵専用庫」「冷凍専用庫」あるいは「冷蔵/冷凍のどちらかに切り替え」という構成が一般的。LOOCはあえて、冷蔵も冷凍も共存できる冷蔵庫として設計されています。フレンチドアを採用した点と合わせて、「冷凍冷蔵庫」を実現したのは商品企画やデザイナー、開発陣のこだわりポイントです。
LOOCを生み出した「デザイナー」という仕事
今までにないこだわりが詰まったLOOCですが、LOOCは一人の若手デザイナーの着想から生まれています。その生みの親ともいえるのが、アクアをはじめとしたグループ会社の研究開発を行うハイアール アジア R&Dのイノベーションデザインセンターに所属するデザイナーの渡邊悠太氏です。
渡邊氏はもともと一人暮らしの中で、「一人暮らしの狭い部屋に冷蔵庫を置くと圧迫感がある」「狭い生活空間のため冷蔵庫の音がうるさい」「ドアが片方しかないため、生活動線のジャマになる」といった、冷蔵庫の課題を感じていたそうです。
そこで、社内で一般的な一人暮らし用冷蔵庫の企画を募集していたところに、「家具として置ける冷蔵庫」のコンセプト案を提案。これが上層部の目に留まり、プロジェクトがスタートしました。とはいえ、これまでにない製品だけに次々と課題が。特に大きかったのは、コンパクトさを維持しながら冷凍と冷蔵を実現し、さらに実用的な庫内サイズを確保することに苦労したといいます。
デザインに関しても、製品版の形になるまでは数え切れない試行錯誤がありました。たとえば、開発途中には「引き出し」を配置する案があったものの、庫内容量を確保するために断念。一方で「冷蔵庫なのだからシルバーの扉のほうが良いのではないか?」といった社内の声には、「家具冷蔵庫」というコンセプトから外れると感じて木目調を通したとのこと。
渡邊氏は「LOOCはそもそものコンセプトがはっきりしていたので、デザイナーとして譲れない部分もはっきりしていた」といいます。多くの問題をクリアしてLOOCが発表されるまでには、4年もの時間がかかりました。
最後に「プロダクトデザイナーとして心掛けていることはあるか?」という質問に対して渡邊氏は、「デザインの勉強だけではなく、とにかくインプットを多くすること」と話してくれました。
LOOCの77,000円前後という価格は、できるだけ手が届きやすい価格帯を目指しています。「多くの家庭で手が届きやすい価格はどれくらいか、その価格に収めるためには製品にどのような素材を使い、構造をどうするのか。プロダクトデザイナーは『製品の見た目』だけでなく、多くのことを考える必要があります」(渡邊氏)。
一見するとデザイナーとして関係ないような知識でも、製品として作り上げていく過程や最終形に生きてくることは多いそうです。「製品を作り出す」には多くの困難もありますが、そのぶん製品化が実現したときの喜びも大きいはず。これからプロダクトデザイナーを目指す人も、参考にしてみてはいかがでしょうか?