仕事の幅を広げるため、昇給のためなどの理由で、仕事をしながらスキルアップに励んでいるビジネスパーソンの中には、「勉強はしたいけれど、時間がない」という人は少なくないのではないでしょうか。

また、せっかく新しい知識をインプットしても、少し時間が経つと忘れてしまうと悩んでいる人も多いのではないかと思います。

そこで今回は、2024年6月に刊行された『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える 脳が一生忘れないインプット術』(著・星友啓/あさ出版)から、忙しくて時間が限られているビジネスパーソンが効率的にインプットをするための方法"リトリーバル"について、抜粋編集してご紹介します。

■インプット習慣を劇的に変化させるほんの少しの工夫

「リトリーバル」(retrieval)とは、なくなったものを取り戻すこと。つまり、一度インプットしたものを脳の中から取り戻すということです。

しかも、単に思い出せばいいのではなく、自分の頭だけを使って関連した記憶を取り出すこと。そうした脳のエンゲージメント法を総称してリトリーバルと呼びます。

リトリーバルは、100年以上もの研究の積み重ねの中で、高い学習効果が確認されてきたインプット方法です。その他の学習法よりも格段に効果があるということが、これまでの研究でたびたび示されてきました。

例えば、リトリーバルを取り込んだ勉強法は、シンプルな読み返しをするよりも、50%も記憶の定着率がアップするなど、同様の結果が他の学習法との比較でも確認されています。

そして、そうしたリトリーバルの効果は脳科学的にもメカニズムが解明されてきました。

リトリーバルは脳のメカニズムに適ったインプット法なので、年齢や能力にかかわらず幅広い学習者にとって有効で、記憶の定着だけでなく、学んだことを応用したり整理し直したりするのにも効果的だということもわかっています。

同じようなインプットの仕方をしていても、インプットすべき内容にどれだけ脳がエンゲージされているかで、記憶の定着に大きな差が出てきます。

つまり、インプットの鍵は「リトリーバル習慣をいかに取り込めるか」ということ。言い換えれば、これまで慣れ親しんだインプット法を、むやみやたらに変えてしまう必要はありません。

こまめにリトリーバルができるように意識さえすれば、自分の好みのインプット法をより効果的なものにバージョンアップさせることができるのです。

■脳のエンゲージメントを高めて記憶力アップ! リトリーバル復習法

とはいっても、決して「一体どうすればいいのか?」「リトリーバルなんて難しいんじゃないか?」と身構える必要はありません。

リトリーバルは、シンプルな方法で習慣化できます。

教科書やノートを読み直して復習するとき、意識的に取り込むと、ぐんと記憶が脳に定着しやすくなるリトリーバル習慣を解説していきましょう。

今回は3つのリトリーバル復習法を挙げておきますが、一度に全部やろうとしなくて大丈夫です。やりやすいものからやっていきましょう。

  • 【ワード・リトリーバル】

一度学習したときに、ハイライトしておいたキーワードが出てきたら、すぐに読み返さずに、目を閉じて、その定義や説明を思い出しましょう。思い出してから、正しいかどうかチェックします。

思い出せなかった場合は、再度読んだ後、もう一度目を閉じて、心の中で説明できるようになってから先に進みましょう。

  • 【前リトリーバル】

テキストの見出しや小見出しを見つけたら、すぐにその部分を読み始めずに、まずは目を閉じて、その部分に書いてあったことを何でもいいので思い出しましょう。

その後に読み進めていきます。メタ認知効果で記憶力がぐんと上がります。

  • 【後リトリーバル】

ある程度の分量を読み終わったら、一度目を閉じて、そこに何が書いてあったかをまとめて自分の心の中で説明しましょう。説明できなければ、もう一度読み直してOKです。

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ここでご紹介したリトリーバル復習法について、少しだけ補足しておきましょう。初心者におすすめなのは【ワード・リトリーバル】です。

【前リトリーバル】は内容がかなり頭に入ってきてから、【後リトリーバル】は学んだことを脳に叩き込んでいこうという段階でおすすめです。

つまり、効果的な復習の順序としては、【ワード・リトリーバル】や【後リトリーバル】から始めて、内容がしっかり頭に入ってきてから【前リトリーバル】に移っていくという流れになります。

星友啓

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長/哲学博士/EdTechコンサルタント 1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士課程修了。同大学哲学部講師 として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクールスタートアッププロジェクトに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて、教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコン サルティングにも取り組む。 著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『脳科学が明かした!結果が出る最強の勉強法』(光文社)、『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』『脳を活かすスマホ術』(いずれも朝日新聞出版)、『スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)、『スタンフォードが中高生に教えていること』『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』(いずれもSBクリエイティブ)がある。

『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える 脳が一生忘れないインプット術』(星友啓 著/あさ出版 刊)

学んだことを活かしたいと思っても、すぐに忘れてしまったり、身につかなかったり、なかなか実践できないという人のために、スタンフォード大学・オンラインスクール校長が、AI時代の情報社会を生き抜く効果的なインプット方法を、最新の脳科学と心理学に基づいて紹介します。多くの情報を素早くインプットして、なおかつ長期の記憶につなげる「脳が一生忘れないインプット法」を身につけられる一冊です。