個人事業主になったら、何か届出を提出する必要があるか気になる方は多いでしょう。個人事業主は確定申告などに備えて、開業届を提出することがおすすめです。この記事では、開業届の概要や提出するメリット、具体的な提出方法を解説します。

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個人事業主なら提出しておきたい「開業届」とは

開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。どのような書類なのか、概要を解説します。

事業開始を届け出るための書類

開業届は、事業を開始したことを税務署に届け出るための書類です。提出しなくても個人事業はでき、罰則も特にありません。しかし、確定申告で青色申告をしたい場合は、開業届の提出が必須です。

事務所・オフィスなどを借りたり、金融機関から融資を受けたりする場合、身分証明書とともに開業届の控えを求められることもあります。開業届は作成に手間のかかる書類ではないため、できるだけ提出しておいたほうが後々便利です。

開業届の提出期限

事業を開始した事実があった日から、1か月以内に提出する必要があります。提出期限が土日・祝日の場合、その翌日が期限です。

開業届を提出するメリット4つ

開業届を出すことには、以下のようなメリットがあります。

  • 確定申告で青色申告が可能になる
  • 屋号付きの銀行口座を開設できる
  • 法人用のクレジットカードを作れる
  • 職業を証明する資料になる

確定申告で青色申告が可能になる

確定申告には青色申告と白色申告の2種類があり、青色申告は最大65万円の所得控除を使える点が大きなメリットです。65万円が所得から減る分、所得税や住民税が安くなります。

青色申告をするには「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出が必要です。個人事業主が節税をしたいなら、開業届の提出は必須といえます。

屋号付きの銀行口座を開設できる

屋号とは会社や店舗の名称のことで、開業届を提出しておくと、屋号付きの銀行口座を開設できます。口座名称に屋号があると、その事業主の口座であることがひと目でわかるため、取引先は安心して振り込めるでしょう。

法人用のクレジットカードを作れる

開業届を提出すると、法人用のクレジットカードも作れるようになります。法人カードがあると、個人の支出と分別管理ができて、経理の処理も楽になります。

法人カードは会計ソフトと連携させることもでき、仕訳の情報を自動で取り込むことも可能です。確定申告も楽になるため、開業届を提出して法人カードを発行するのもよいでしょう。

職業を証明する資料になる

金融機関などから融資を受けるなどの場合、個人事業主であることを証明する必要があります。開業届を出しておくと、コピーを提出するだけで簡単に職業を証明できます。

その他にも、オフィス・店舗を構えたりする場合、開業届があると便利です。

開業届のデメリット・注意点

個人事業主として活動するなら開業届を出すメリットは大きいですが、いくつか注意点もあります。

失業給付をもらえない可能性がある

開業届を提出すると、失業状態ではないと判定される可能性があります。このため、会社を辞めた後に失業給付を受けられない事態になるかもしれません。

失業給付をもらいたい方は、開業届を提出するタイミングを後にずらすのもよいでしょう。また「再就職手当」は個人事業主でも受給できる可能性もあります。

青色申告は記帳の手間がかかる

青色申告は税金や保険料の負担を減らすのに役立ちますが、複式簿記で記帳する必要があるため、手間がかかります。会計ソフトを使えばある程度自動的に記帳できますが、100%正確ではないため、チェックする必要があります。

簿記の知識がないと、会計ソフトの記帳のミスを見逃してしまい、確定申告が誤った内容となる恐れがあります。簿記3級程度の知識を身に付けるのがおすすめです。

扶養から外れるケースがある

家族の健康保険に扶養で入っている場合、開業届を提出すると扶養から外れるケースがあります。扶養ではなくなると、国民年金保険料や国民健康保険料を自分で納めなくてはなりません。

扶養の定義や範囲はそれぞれの組合などによって異なりますので、一度確認しておきましょう。

開業届を提出する方法・流れ

ここからは、開業届を作成・提出する流れを解説します。

開業届を作成する方法は3つある

開業届を作成する方法は大きく分けて以下3つがあります。

  • 税務署に置いてある用紙に記入する
  • 国税庁ホームページからダウンロードして記入する
  • 開業届ソフトで作成する

手間をかけずに作成するなら、税務署で用紙をもらって記入するのが便利でしょう。開業届の提出先も税務署のため、その場で提出まで済ませられます。

パソコンで作成したいなら、2つ目または3つ目の方法を選ぶことになります。開業届ソフトは民間の企業が用意しており、無料で利用できるものもあります。

開業届の記入項目

開業届で記入する主な項目は下記のとおりです。

  • 提出先の税務署名
  • 氏名・住所・生年月日
  • 個人番号
  • 職業
  • 届出の区分
  • 所得の種類
  • 開業日
  • 事業の概要

提出先の税務署は、一般的には納税地を管轄する税務署です。納税地が自宅の場合、自宅の住所を管轄する税務署が提出先となります。

届出の区分は「開業」を選びましょう。逆に事業を止めるときは「廃業」を選んで、廃業届として提出します。

所得の種類は、個人事業主は通常「事業所得」を選ぶことになります。事業の概要はできるだけ具体的に記入しましょう。

マイナンバーカードを用意する

開業届を提出する際に、マイナンバーを確認できる資料が必要です。マイナンバーカードがあれば簡単ですが、ない場合は本人確認書類とマイナンバーが記載された資料を提出する必要があります。

開業届を提出する

作成した開業届を、税務署へ提出します。紙を税務署まで持っていく、もしくは税務署に郵送することも可能です。

なお開業届ソフトには、オンライン申請機能が付いたものもあり、税務署に行かなくてもスマホアプリから提出できます。

【ケース別】開業届以外で個人事業主が提出する書類

開業届以外にも、個人事業主による提出が必要な書類があります。ただし、特定のケースに当てはまる場合であり、すべての方というわけではありません。

どのような方が提出する必要があるか解説しますので、ご自身が対象かを確認してみましょう。

所得税の青色申告承認申請書

確定申告で青色申告を選ぶ場合、開業届に加えてこちらの書類も提出しておく必要があります。確定申告をする年の3月15日までに、開業届とともに税務署に提出します。

期日までに青色申告承認申請書の提出がない場合、白色申告の対象とみなされます。最大65万円の青色申告特別控除を受けたい場合は、忘れずに提出しましょう。

なお、確定申告で白色申告をすると決めた場合、こちらの書類の提出は不要です。

青色事業専従者給与に関する届出書

こちらの届出書は、青色申告をする事業主の下で働く家族従業員への支払いに関する書類です。税務署に提出すると、家族従業員に支払った給料を経費扱いにできます。

給与を経費として計上したい場合、その年の3月15日までに届出書を提出することが必要です。なお、青色事業専従者給与に関して、下記の条件が定められています。

  • 青色申告をする人と生計を同一にする配偶者またはその他の親族であること
  • その年の12月31日時点で15歳以上であること
  • その年で6か月を超える期間、青色申告をする人の営む事業に専ら従事していること

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」とは、事業主が源泉所得税の納期に関して、特例を適用するよう要求するための書類です。従業員に給与を支払っている場合、個人事業主は源泉徴収の義務があり、原則として源泉徴収をした月の翌月10日までに毎月納付しなくてはなりません。

ただし、従業員が10人未満の個人事業主は、こちらの申請書を提出すれば、納付を年2回にまとめられます。毎月納付する手間を減らせるため、雇用する従業員が10人未満の個人事業主は提出しておくのがおすすめです。

所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書

棚卸資産の評価方法を選ぶための書類です。提出すると、資産の評価方法や減価償却の方法を自分で設定できます。

事業を新たにスタートした方が対象で、開業した年の確定申告期間の期限までに提出する必要があります。

減価償却は、主に定額法と定率法の2つがあり、個人事業主が使うのは原則として定額法です。たとえば200万円の資産を10年で減価償却する場合、定額法だと毎年20万円を減価償却することになります。

これに対して定率法とは「毎年30%」など、一定の率で減価償却する方法です。個人事業主も定率法を適用できるケースがあるため、状況に応じて選んでください。

所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書

住居ではなく、事務所や店舗を納税地にしたい場合にこちらの届出書を提出します。提出期限は特にありません。

提出した日以降は、納税の対象となる場所が変更されます。所轄の税務署が変わるケースもあることに注意しましょう。