ヘリテージ・オークションズ・ジャパンは10月23日、日本上陸戦略発表会を開催。米国最大の美術品・収集品オークションハウスであるヘリテージ・オークションズが2024年4月に日本オフィスを開設した理由、そして世界から見た日本のオークション市場の魅力について説明した。

今回の発表会では、映画『オズの魔法使』(米国、1939年)で使われた小道具「ルビーの靴」もメディアに初お披露目。こちらは12月のオークションに出品される予定だ。

  • ヘリテージ・オークションズ・ジャパンが日本上陸戦略発表会を開催

    ヘリテージ・オークションズ・ジャパンが日本上陸戦略発表会を開催

日本の収集品市場は成長中

ヘリテージ・オークションズは1976年に米国で設立された、創業48年を迎えるオークションハウス。米国内では最大、世界でも第3位の規模を誇っている。同社エグゼクティブ・バイス・プレジデントのジョー・マッダレーナ氏は「私たちは希少コイン、ポップカルチャー、スポーツの記念品など50以上の分野で専門性の高いコレクション品を取り扱っています」と紹介する。

  • アメリカ最大、世界3位の規模のヘリテージ・オークションズ

オークションはおもにダラス本社で行われているが、モノによってはビバリーヒルズ、そして香港でも開催している。今年(2024年)は上半期だけで売上高が9.24億ドル(約1,450億円)に到達。ジョー氏は「ビジネスは順調に成長している」と強調する。

  • 世界195カ国に183万人の入札登録会員を抱える。年間落札点数は約41万5,000点にもおよぶ

なぜ日本市場に参入したのか。その理由としてジョー氏は、日本のポップカルチャーとの高い親和性を挙げる。

「ジャパニーズアニメ、トレーディングカード、ビデオゲームなどメイドインジャパンのアイテムは世界中で人気があります。そして日本の収集品市場は、今後も成長が見込まれています。私たちとしても、これから取扱品を増やしていきたい。そこで日本全国のコレクターの皆さまにより良いサポートを提供できるよう、今春、日本オフィスを開設しました」(ジョー氏)

  • ヘリテージ・オークションズ エグゼクティブ・バイス・プレジデントのジョー・マッダレーナ氏(左)と、ヘリテージ・オークションズ・ジャパン マネージングディレクターの松本麻生氏(右)

東京・虎ノ門に開設した日本支社の役割については、ヘリテージ・オークションズ・ジャパンの松本麻生氏が「私たちのオフィスでは、日本人コレクターの出品・落札をサポートするほか、商品の輸送を手配し、またオークション査定会、下見会なども実施します」とした。

  • こちらは今後のオークションに出品予定のトレーディングカードの例。日本人コレクターが出品する・落札する際には、日本支社が間に入って安心の日本語対応を行う

日本国内では、Yahoo!オークションなどのネットオークションが広く利用されている。ただ、正式な鑑定を受けていない商品が多く、出品者と落札者のやりとりが発生する、商品の発送も出品者が行う必要がある、プロモーション方法が難しい、といった課題がある。

そこでオークション会社が間に入ることで、これらの課題をすべて解決する。

「たとえば商品をオークションに出品したことを新聞広告を使って告知する、あるいはショーに展示するなどして、世界中にプロモーションすることだって可能です」(松本氏)

  • 『ドラゴンボールZ』の悟空、制作用セル画(東映アニメーション、1990年)

  • Super Mario Land, Green Screenshots, Early Production, Game Boy - Nintendo 1989 USA.

「過去には、ポケモンのリザードンのトレーディングカードが約4,350万円で落札されました(2023年12月)。ゲームボーイのポケモン赤の未開封ソフトは約706万円の値がつき(2024年5月)、『となりのトトロ』の背景付き制作セルは約799万円で落札されています(2021年6月)。日本で生まれたアイテムの数々が、海外のコレクターに認められていることがお分かりいただけると思います」(松本氏)

  • 『魔女の宅急便』のキキとジジ、セル画(スタジオジブリ、1989年)

松本氏によれば、日本ではコレクターの高齢化も特徴のひとつだという。

「ご高齢の方が大きなコレクションを手放すとき、その商品群を取り扱える規模のオークションハウスが必要です。コレクターさんは、商品を大事にしてくれる人に譲りたいと思っています。そこでヘリテージ東京オフィスが受け皿になれるのではないか、と考えています」(松本氏)

松本市は、オークションに出品を検討するときは気軽にヘリテージ・オークションズ・ジャパンのオフィスに連絡してもらえたら、と呼びかけた。

日本にもいわゆるオークションハウスはいくつもあるのだが、取り扱っているのは美術品や工芸品などが多く、ゲームやアニメといったポップカルチャー系の出品は少ない。こうしたジャンルではファンの間で高い価値を認められているアイテムは多く、アイドルやスポーツもそんな分野のひとつだろう。

「お宝」が本当に欲しいと思っている人の手に渡る、しかも信頼できるルートとサポートで――となれば、さまざまな物品を扱える規模のオークションハウスには潜在的なニーズと可能性を感じる。高齢になったとき、若い時分に集めたコレクションを手放すという話題には、身近に感じる人も多いのではないだろうか。

「ルビーの靴」の行方は?

さて、発表会の後半では、ハリウッド不朽の名作『オズの魔法使』(The Wizard of Oz)内で登場する「ルビーの靴」がメディアに初披露。映画の中で、俳優のジュディ・ガーランドが扮する主人公のドロシーが履いた実物だ。同氏のサインも確認できる。

  • 世界に4足しかない「ルビーの靴」

    世界に4足しかない「ルビーの靴」。1足はスミソニアン国立アメリカ歴史博物館に、1足はアカデミー映画博物館に展示され、1足はレディ・ガガ氏が所有している

  • 内側に「JUDY GARLAND」の署名

この靴をめぐっては2005年に大きな事件が起きている。というのも「ジュディ・ガーランド博物館」に展示中、なんと盗難が発生したのだ。100万USドルの賞金がかけられ、FBIが捜査に協力したものの、13年間も見つからなかったという。その後、2018年に発見されると、2024年2月に所有者のマイケル・ショー氏に返還された。

  • 犯人は「スパンコールを本物のルビーと誤解して盗んだ」と主張している

今回の発表会には、そのマイケル氏も特別ゲストとして招かれた。マイケル氏は12月7日に開催されるオークションに「ルビーの靴」を出品する意向を示しており、想定落札価格は約4.5億円と見込まれている。

  • 「ルビーの靴」に関して、にこやかに語るマイケル・ショー氏

マイケル氏は、出品の背景について次のように説明する。

「ずっと大事にしてきた『ルビーの靴』が盗難に遭い、当時、とても悲しい気持ちでした。だからFBIが発見してくれたときは、本当にうれしかった。いまこうして手元に戻りましたが、この靴をこの先、どうしたら良いものか―――。思案していたときにヘリテージ・オークションズと話す機会があり、次の世代に引き継ぐのが最善の策だと考えました」(マイケル氏)

  • 「ルビーの靴」は次世代に引き継がれる

「ルビーの靴」がオークションに登場する前に、世界中の都市で展示することも決まった。日本では10月28日から11月3日まで、東京・銀座三越の本館1階にて「ヘリテージ・オークションズ『ルビーの靴』展」を開催する。入場は無料。会場では「ルビーの靴」のほか、映画『オズの魔法使』の中で“西の悪い魔女”が身に着けた「魔女の帽子」も展示される。

  • こちらが「魔女の帽子」